母の味。
あれは、中学生くらいのときだったかな。
唐突に、母が質問してきた。
「あなたにとっての母の味はなんですかって聞かれたら、どう答える?」
わたしは、少し照れながらこう言った。
「しょうゆの焼きおにぎり。」
すると、母は、
「そうだよな~。オムライスとかそういうオシャレなものあんまり作ってあげなかったもんな~。」
と悲しそうに言った。
えっ?なんでよ。
お母さんのおにぎり大好きだよ!!
オムライスも好きだけど。
聞けば、ラジオのトーク内容が、『あなたにとっての母の味』だったそうなのだ。
わたしは、母が作るしょうゆの焼きおにぎりが大好きだった。
外が少しパリパリしていて、しょうゆがよく染みているけれど真ん中まで染みきらずに、ちょうどよく白いごはんが残っている。
あまじょっぱいおにぎりと、中身の鮭フレークとのバランスが最高なのだ。
時々、失敗して黒こげ部分ができていることもあるけれど、そんなのまったく問題ない。
遠足、運動会、部活。
どんなときにも、わたしの心とおなかを充たしてくれた、大切な思い出の味。
近所の人からも評判で、集まりがあるときにはリクエストされることもあるくらいだ。
おいしいおにぎりを作ってくれる母が、自慢だった。
そう伝えたら、少しは納得してくれたようだった。
オシャレなものとかそうでないとか、わたしにはあまり関係なくて。
母の愛をまるごと詰めこんだようなしょうゆの焼きおにぎりが、わたしにとっては何にも変えがたいご馳走なんだ。
何度レシピやコツを聞いても、
「目分量だから」
と逃げられてしまうけれど。
母よりもおいしい焼きおにぎりを作れるようになることが、人生のひとつの目標になっている。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?