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「今、できること」をやり続ける ー コルク佐渡島庸平さんにきく自分の時間のつくり方(後編)
漫画『宇宙兄弟』を手がけたのち、2012年に作家のエージェンシーである株式会社コルクを立ち上げ、数多くのヒット作を世に送り出し続けている佐渡島庸平さん。インタヴュー前編では、エンデ作品に対する印象や「時間」に対する考え方についてお話いただきました。
インタヴュー後編では、自分の時間を生きるための時間との付き合い方について、引き続き、お話を伺います。(インタヴュー前編はこちら)
変えられることを考え、やれることをやる
— 佐渡島さんは、自分の時間をコントロールする上で気をつけていることや大切にしていることはありますか?
佐渡島:自分がまず何をしたいのかを知っておくことですかね。自分が時間をどう使いたいのか。それを知っておくことが重要だと思います。
— 一方で、佐渡島さんは著書の中で「僕が捨て去るのに苦労したのは、不自由さを我慢することに慣れている自分の価値観と行動の癖だ」(p31-32『WE ARE LONELY, BUT NOT ALONE.』)と書かれています。何をしたいのかを追求するよりも、我慢すればその先に何かあるという考え方が日本では根強いとも思います。
佐渡島:そうですね。日本には我慢を容認するいろいろな言葉があるけれども、基本的に「我慢したらその先に何かあるんじゃないか」という考え方は、「何もしなくてもラッキーがきてほしい」ということだと思います。
ほとんどの思考法は、自分の甘えを肯定するような、「それでも大丈夫!」という思考法をとってしまうので。
それよりは、「やれることをやる」というのを永遠に続けていくことの方が大事だし、健全だと思います。
— そのような考え方をもつようになったきっかけはあったのでしょうか?
佐渡島:もちろん、複数の案件を動かしていると全部が全部完璧にできるわけではないですし、今でも「ラッキーが起きればいいな」と思うこともある(笑)。それに比べて、昔はもっと完璧を目指していたというか、一生懸命理想を追求しようと努力していたと思います。そういう意味では、もう少しイライラしていましたね。
でも、イライラしていても状況は変わらない。そういう中で、変えられることだけを考えるようになっていった、ということだと思います。
言葉へのこだわりが、概念へのこだわりにつながる
— インタヴューの最初で、「エンデの物語は描写が緻密だ」とお話していましたが、佐渡島さんのnoteの記事を読んでいる中で、文章がとても緻密だなと感じることが多いです。エンデの話からは少しずれてしまうのですが、佐渡島さんが文章を書く上で意識されていることはありますか?
佐渡島:僕は編集者なので、ストーリーを探す癖があって。常に「そこに、より人を引き込めるストーリーがあるかどうか」を考えるようにしています。何を見ていても物語として捉えていくという感じで。編集という仕事をする上では、そのような考え方で物事を見ています。
ただ、noteなどで書く記事は自分自身の思考のまとめなので、ストーリーではないわけです。風景描写などから入ることもないし、基本的には抽象概念で書いている。自分がわかっている言葉だけを使うようにしています。
— 「わかっている言葉だけを使う」とは?
佐渡島:自分がちゃんと理解してその言葉を使っている、ということです。
例えば、あるプロジェクトでこういう「結果」が出たねと説明する人と、こういう「成果」が出たねと説明する人がいる。ここでの「結果」と「成果」って、全然違う言葉ですよね。
言葉へのこだわりが、概念へのこだわりにつながる。しっかり言葉の意味を理解して使い分けている人と、あまり考えずに置き換えてしまう人がいる。自分自身がその違いや定義を理解している言葉を使うことが、「わかっている」ということだと思います。
「時間どろぼう」の手から、個人に時間が戻ってきている
— なるほど。佐渡島さんへの時間に対する感覚と、言葉に対する感覚はすごく共通点があるように感じました。
最後に、今という時代についての佐渡島さんのお考えを伺いたいです。佐渡島さんは今の時代をどのように捉え、どのような可能性を感じていらっしゃいますか?
佐渡島:現代の特徴の最たるものは、スマートフォンなどの登場による人間の能力の拡張だと思います。
例えば紙の手帳が当たり前だった時代には、僕のように仕事の予定を詰めこめる人はほとんどいなかったはずです。それがGoogleカレンダーの登場で、他者と予定をすぐに共有できるようになり、今のようなスケジューリングが可能になった。
Suicaが登場したことで、切符を買うという30秒くらいの「時間どろぼう」がなくなっているわけです。これと同じようなことが、実はいろいろなところで起きている。
人間の能力が拡張することで、いろいろな時間が、もう1度自分のところに戻ってきている時代なのだと思います。当たり前に必要だと思っていた時間を、捉え直したり、考え直したりするチャンスがきているわけです。
— 今まで必要だからしょうがないと思っていた時間、そもそもそういうことさえも考えなかった時間が、今自分のもとに戻ってきているということですね。
佐渡島:そうですね。だからこそ、繰り返しになりますが、自分がまず何をしたいのか、時間をどう使いたいのか、それを考える人がもっと増えて欲しいですね。
僕個人としても、そうやって拡張された人間の能力や、人間個人に戻ってきている時間を活用して、今まではできなかったコミュニティとしての活動を試しているところです。コルクラボは、まさにその実験の場です。
— 時間が個人に戻り、能力が拡張されたことで、今までとは違うコミュニティの形が可能になる、と。
佐渡島:そうですね。今までは人数が多くなればなるほどシンプルなことしかできなかったものが、個人の能力が拡張されることで、どこまでの人数で、どこまで複雑なことをできるようになるか。面白い時代だなと思いますね。
(後編おわり)
<編集後記>
「時間は目に見えづらいからこそ、意識することで、手にするものが変わってくる」。個人的に、今回のインタビューでもっとも印象的だった言葉です。時間にせよ、言葉にせよ、意識をもちづらいものにこそ徹底的に思考をめぐらし、自分のものにしようとしている佐渡島さんの姿勢に、「自分の時間を生きる」ことのヒントをいただいた時間でした。
スマートフォンなどの能力の拡張によって私たちが取り戻した時間とは何か。それを今、どう使っているのか。改めて自分自身に問い直してみたいと思います。
2018年11月3日-4日には、佐渡島庸平さんらのゲストを招いたプログラム「物語とわたしをめぐる旅ー秋の黒姫で、モモを語る2日間」を長野県信濃町で開催します。詳細はこちらから。
公式ウェブサイト:https://momopj.jp/