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「サイコオンコロジー」ってなんですか? 日本の第一人者・保坂隆先生に聞きました。
※本記事は2018年10月に公開した記事の転載となります。
ピンクリボンシンポジウム2018で、ひときわ注目の講演がありました。タイトルは「どう考えたら『乳がんになって良かった』と思えるのか?」。登壇された保坂隆先生を講演前にモモが直撃。わかりやすくご説明いただきました。
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モモ:
保坂隆先生、講演前の貴重なお時間、
ありがとうございます!
それにしても、かなり衝撃的なタイトルですね。
保坂先生:
そうですね(笑)。
まずは、その前に、私の専門である
「サイコオンコロジー」について簡単に説明しますね。
モモ保坂先生のプロフィールを拝見しますと、
保坂サイコオンコロジークリニック院長、
聖路加国際大学臨床教授、
前聖路加国際病院リエゾンセンター長
精神腫瘍科部長とあります。
でも、サイコオンコロジーという言葉は、
初めて聞いたかも…。
保坂先生:
サイコオンコロジーを訳すと精神腫瘍学となります。
なんとなく伝わりますか?
モモ:
うーん??
イメージがつかないです…。
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保坂先生:
あはは。そうですよね。
患者さんの診療科でいいますと、精神腫瘍科。
「腫瘍(がん)患者さんのための精神科」
みたいなイメージです。
モモ:
先生、もう少しわかりやすく言うと?
保坂先生:
もっとわかりやすくいうと、
癌患者さんや、その家族の
心のケアをする診療科というのが、
僕が考える定義です。どうですか?
モモ:
はい、だいぶ理解が進みました。
保坂先生:
各都道府県のがんセンターにある精神科は
がん患者の心のケアをするという意味で、
実質的には「精神腫瘍科」ではありますが、
それ以外で、
例えば総合病院や大学病院で
精神腫瘍科を設置しているのは、
僕が知っている限りでは国内では1カ所だけですね。
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モモ:
まだまだ少ないんですね。
保坂先生:
そして私のクリニックである
保坂サイコオンコロジークリニックは、
おそらく、現時点では国内唯一の
専門クリニックになるかなって思っています。
モモ:
すごいです!
ちなみにどういう時に受診するのが良いのか、
聞いてもいいですか?
保坂先生:
そうですね。
では乳がんの場合で説明してみますが、
まず乳がんは、ほかの部位のがんに比べて
告知する率が高いがんだと思いますが、
どんながんでも、告知されると、
患者さんは当然ショックを受け、
精神的に落ちてしまう。泣いてしまう。
モモそれはそうです。
がんって言われるとショックじゃないですか!
保坂先生:
でも、それがだいたい2週間くらいで、
ショックの状態から立ち上がってくる。
がんではない自分から、
がん患者である自分へと適応していくんです。
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モモ:
2週間で適応するんですね。
保坂先生:
はい。だいたい2週間くらいですね。
たとえば、適応レベルの行動の中には、
情報を集める、
説明をちゃんと聞く、
セカンドオピニオンを求める、
などがあります。
それができていないときに、受診してもらいたいです。
モモ:
あ、そういうことなんですね!
保坂先生:
そうなんです。
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保坂先生:
あとはずっと泣いているとか、
眠れないとか、
食欲がないとか、
うまくこれから先の治療を選べないとか。
そういう時も受診のきっかけかなと思います。
モモ:
よくわかりました。
がんの告知で心理的ショックを受けて、
うまく立ち直れないとき、
サイコオンコロジーに相談するといい
ってことなんですね。
保坂先生:
そうです。
同じように、治療を続けていながらも、
精神的に落ち込むことがあります。
たとえばホルモン療法をすると、
更年期障害的なものが起こるので、
その中には鬱が入っている。
急に悲しくなって涙が出たり、
憂鬱で外出したくなったりするとか。
そういうのは、
がんと言われた心理的ショックで鬱になるのと違って、
ホルモン療法により女性ホルモンをカットされる
ことにより起こってくる鬱なので、
そんな時は絶対に来ていただきたい。
モモ:
それはどうしてですか?
保坂先生:
鬱は絶対に見逃しちゃいけない、
治さなきゃいけないもの。
なぜか?
それは鬱になると、
免疫機能が下がって、がんの進行が早くなるから。
モモ:
え!
がんの進行が!?
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保坂先生:
ですので、いつもと違って
元気が出ない、食欲がない、眠れない、
という時には、
鬱かもしれないと思って、
必ず受診してもらいたいんです。
モモ:
そうなんですね!
でも、普通の人は心にダメージを受けたからって、
なかなか病院に向かわない気もします…。
保坂先生:
はい、では、ここからは
カウンセリングの話をしましょう。
みなさん、ご自分の行動を振り返って
「あれをしたからいけなかったのか」とか、
「ペナルティでがんになってしまったのか」など、
すぐ原因探しをしたがる。
モモ:
わかります。
保坂先生:
でも、乳がんは多因子疾患で、
遺伝や生活習慣、食べものなどの合計点で
出てきている病気だと考えると、
原因探しはあまり意味がない。
この後の僕の講演でも話ますけど、
「原因探しより〝意味〟を探しましょう」というのが、
割とカウンセリングの中心テーマになっています。
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モモ:
意味を探す?
保坂先生:
例えばですけど、
ものすごく忙しく仕事をされてきた人が
がんになって治療のために
仕事を1、2ヶ月休まなきゃいけない場面って、
現実でも多いと思うんですけど、
モモ:
そうですね
保坂先生:
こういう時は、
「実は休めっていう意味かもしれない」とか、
「今まで働きすぎていたんじゃないか、
病気がそれを教えてくれているんじゃないか」
という風に意味づけしてみる。
すると原因を探していた時よりも、
意味を探している時の方が、
絶対にプラス思考になっていく。
モモ:
なるほど。
保坂先生:
ナースで乳がんになった人は
「自分がもっと乳がんの人の心理に詳しくなるために、
勉強の機会を与えてくれたんだ」とか。
夫婦仲が悪い人だったら、
「夫婦仲をもう一度修正しなさい
という意味があるのかもしれない」
という風に思うと、
ものすごい先にはですけど、
病気になったことへの感謝までできるようになる。
乳がんになってよかったと
思えるようになっていくんです。
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モモ:
そういう心の変化が起こるんですね…。
保坂先生:
今日の講演タイトルは
「どう考えたら
『乳がんになって良かった』と思えるのか?」です。
一見「えっ?」って思うようなものなんだけど、
僕の外来の患者さんは、
不思議なことに、いつかは、
みなさんそうなっていきます。
モモ:
がん患者さんのご家族の方を
対象にすることもあるんですか?
保坂先生:
はい、もちろんあります。
ある研究によりますと、
乳がん患者さんの30%はちょっと心理的に辛い状態、
つまり軽い鬱状態にあるというデータがあります。
同時に、そのご主人も同じテストをやったならば、
なんと40%という数字が出るそうなんです。
モモ:
え、患者さん本人より多いんですか!?
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保坂先生:
これは多くの研究でわかっていることなんだけど、
患者のそばにいる人たちは、
自分ではどうすることもできなくて、
歯がゆくなってしてしまう。
家族など周りにいる人の方が、
焦燥感を感じてしまい、不眠など、
体や心に影響が生じてくる可能性があるんです。
モモ:
だから、
そういう人にも来て欲しい、と。
保坂先生はい。そのために、
「夫婦療法」というものもあります。
乳がんだと言われた時、
奥さんの頭に死がよぎるのと同時に、
実は夫にも死がよぎる。
「老後は一人になっちゃうのかな」とか。
すると、その後、家では(怖いから)
がんのことを話せなくなってしまう。
そういうご夫婦に、
その気持ちをお互いに語らせることによって、
それ以降は家でもがんのことを話せるようになる。
モモ:
そういう治療もあるんですね。
保坂先生:
そこに子供を入れた「家族療法」、
乳がん患者さんを集めて行う
「グループ療法」などもあります。
ピンクリボンシンポジウムなどは
まさに同じようなものですね。
知り合いや仲間ができて、
悩みを語り合えるようになる。
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モモ:
じゃあ、会場にある「なかまCafé」の活動は、
とても良い影響があるんですね!
保坂先生:
その通りです。
モモ:
最後に、今後の展開を教えてください。
保坂先生:
がんの拠点病院は全国に400ヶ所あるのですが、
そこにはがん患者さんのための
相談室の設置が義務付けられています。
そこに常駐する相談員さんと
スカイプなどを使って連携し、
悩んでいる患者さんやその家族を
一人でも多く救っていきたいですね。
モモ:
それはいいアイディアですね!
それが実現すれば、
多くの患者さんの心が軽くなっていくし、
治療もスムースになっていくと思います。
先生、今日はありがとうございました!
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