情報に振り回されないで! 「乳がんは情報の取捨選択が大事」という乳がん専門医の明石先生にインタビュー
※本記事は2017年10月に公開した記事の転載となります。
9月18日、JR新宿ミライナタワーで行われたピンクリボンセミナー。当日は乳腺外科として活躍する昭和大学医学部乳腺外科・明石定子先生から、20歳~35歳の女性に向けての、乳がんとブレストケアについてのお話がありました。セミナー終了後、モモが明石先生にインタビュー。乳がん治療への想いや、若い方へのメッセージを伺いました。
モモ:
明石先生、こんにちは。
今日はセミナーおつかれさまでした。
インタビューもよろしくお願いいたします。
明石先生:
モモのことは知っていますよ。
PostPetは使っていたので。
こちらこそ、よろしくお願いいたします。
モモ:
ありがとうございます!
早速なんですけど、
明石先生はなぜ乳腺専門の外科医に?
明石先生:
まず、外科医になろうと思ったのは、
手術によって〝直接治す〟、
やりがいのある仕事だと思っていたからです。
モモ:
そうだったんですね。
明石先生:
手術が上手くなりたくて、がんセンターの
レジデント(研修医)に応募したんです。
そのときに専門分野を書く必要があったのですが、
まだ1年半ほどのキャリアしかなかったので、
困ったな、と。
で、そういえば以前、講師の先生から
「明石くん、女性だから乳腺がいいんじゃない?」
と言っていたことを思い出し、
それで「乳腺希望」と書いたら乳腺の先生が
「乳腺志望の女医さんが来てくれた!」と
すごい喜んでくれて。
モモ:
え、それがきっかけだったんですか!?
明石先生:
そうなんです(笑)。
人に話すほどのことではないのですが…。
ただ、私が乳腺をやるって決めた当時は、
まだそんなに乳がんが社会的に重要視されていなくて、
乳がんの専門医もほとんどおらず、
外科医が担当していたような時代だったんです。
それが、だんだんと
乳がんの患者さんも増え、医療の選択肢も、
個々の乳がんによって変化する時代になってきました。
結果的にですが、今、私は
女性の患者さんに、同性という立場を活かしながら
治療にあたることができ、よかったなと思っています。
モモ:
今のお話の中で、
「医療の選択肢も、
個々の乳がんによって変化する時代」
とありました。
昔と比べて、乳がんの治療は
そんなに複雑化しているんですか?
明石先生:
ものすごく複雑化していますね。
今は、専門でないと対応できないくらいです。
術式だけでも、
温存するか全摘するか、
乳頭乳輪残すか、など、
いくつかの選択肢が出てきていますし。
また、薬にいたっては、
日々新しいものが開発されていますので、
どんどん知識を入れていかないと。
片手間ではできないですね。
モモ:
そんな複雑化したがん治療の世界で、
先生は「神の手」と呼ばれ、
2,000例以上のオペを経験し、
最前線で活躍されています。
手術に際して、
特に気を遣われていることはありますか?
明石先生:
神の手……。術後、私の手術ですと、
みなさん痛がらないというのはありますね。
筋膜を残すとか、そういうところなんですけど、
ちょっとした心遣いで、術後の痛みは少なくなります。
モモ:
痛みが少ないと回復も早いんですか?
明石先生:
そうですね、
痛みはストレスになりますので。
あと、手術に関して言えば、
術後創をきれいにしてあげようという
意識をもって治療に臨んでいます。
モモ:
術後の傷がきれいということは大事なんですか?
明石先生:
患者さんのダメージを減らしてあげると言いますか、
身体的なダメージはもちろん
心のダメージが少なくて済みますから。
モモ:
そういう配慮からだったんですね。
先生が手術を担当された患者さんは
幸せだと思います。
さて、今日のセミナーは
20〜35歳の若い世代がターゲットでしたが、
若い方の乳がんは実際に増えているんですか?
明石先生:
もちろん20代で乳がんになる方も
ゼロではありません。
ですが、私が今まで手術をした20代の方は
数えても両手で足りるくらいなんです。
モモ:
じゃあ、かなりのレアケースなんですね。
明石先生:
そうなんです。
絶対ないとは言い切れないんですけど、
全体の中では、0.5%以下の割合。
遺伝性乳がんであったり、
ちょっと、レアケースだと思います。
モモ:
受診される若い方は増えていますか?
明石先生:
そうですね。
ただ、若い方が外来にいらっしゃると、
だいたいFAなどの
良性のしこりであることが多いんですよね。
モモ:
そうなんですね。
そういえば先生がセミナーでも話されていましたが、
セルフチェックで、肋骨をしこりと間違えたり……。
明石先生:
笑い話のようですが、
案外とこの辺が(胸の上部を指し)
ちょっと飛び出していることがあってですね、
間違えやすくはあります。
モモ:
そうだったんですね。
明石先生:
ただ、これは
若い人だけにというわけではなくて、
しこりのように感じた時に、
自分でそれが良性か悪性かの判断は
やっぱり難しいので、
生理が終わっても残っているものであれば、
一応受診してもらったほうが良いと思います。
モモ:
よくわかりました。
明石先生:
ただ、そういう時は
大学病院などの大きな病院である必要はなくって、
まずは乳腺クリニックでいいと思います。
モモ:
乳がんという病気が一般化して、
幅広い層で話題になると、若い人たちが、
よくわからないまま怖がっている、
という話を聞きます。
この点について先生はどう思われますか?
明石先生:
タレントの小林麻央さんが乳がんを患った時に、
どこかのテレビ局が20代への検診を呼びかける
キャンペーンしていました。
一方で、若い人の検診には弊害もある
ということはあまり知られていません。
マンモグラフィであれば被爆の問題がありますし。
モモ:
そういうリスクもあるんですね。
明石先生:
頻度的に考えると、
マンモグラフィを毎年受ける必要はなくって
それよりもまずは
毎月自分で触ってもらうことが大事ですね。
モモ:
まずはセルフチェックですね!
若い方に特に注意してほしいことはありますか?
明石先生:
そうですね、
インターネットの情報などは
本当にピンキリだと思うので、
誰が書いたかわからない、例えば匿名の記事などに、
あんまり振り回されて欲しくないなと
思っているんです。
モモ:
あんまり信じすぎない?
明石先生:
全ての人に当てはまるわけでもないし、
セミナーでも言いましたけど、
コマーシャリズムにつながるような記事も
いっぱいありますし。
結構ビックリするようなことを
信じている人がいるんですよ!
私が聞いて、
「え? なんですかそれ?」みたいな。
モモ:
具体的にどんな?
明石先生:
例えば
「乳がんは乳房を全摘したほうが
治りがいいですか?」とか。
いやいやそんなデータどこにもないよ、って。
インターネットに限らず、本もそう。だから、
〝情報の取捨選択〟ってやっぱり大事だな、
って思いますね。
モモ:
情報の取捨選択!!
明石先生:
難しいんですけどね(笑)。
モモ:
難しいですよね。
どうすればいいのでしょうか?
明石先生:
そう、難しい。ただそれは、
対がん協会さんや、私たち専門医が、
正しい情報を大きな声で上げ続けるっていうのが、
大事な役割なのかもしれないですね。
モモ:
そのお手伝い、モモも頑張ります!
明石先生の言葉、ちゃんと伝えます!
明石先生:
ありがとう、モモ(笑)。
本当に情報の取捨選択は重要で、
ブログなどで、個人の意見ではあるのですが、
例えば「抗がん剤が入っていて大変だった」
とか書いてあると、それを
個人差が大きいことなどを考えないで
鵜呑みにしてしまう人もいる。
いやいや、今はそういうことないんだよって。
モモ:
そうなんですか?
でも、モモもそう思っていました。
抗がん剤は吐き気がするものだって。
明石先生:
吐き気止めなどの副作用を軽減する薬は
どんどん進化していますので、
以前より患者さんへの負担が少なくなっています。
もちろん、がんの種類や部位、
治療法によっても変わりますが。
例えば放射線も、
当てる場所によって副作用は違いますし、
一律にみんな髪の毛が抜けるわけじゃありません。
モモ:
やはり、がんも治療法も
複雑化しているんですね。
明石先生:
先ほどのセミナーでもお話しましたが、
「癌の顔つき」で、本当にいろいろな点が違います。
乳がんにもさまざまな種類があります。
もし、病状も治療法も、
自分が何かで見た情報が正しいものであったとしても、
それが他の人には当てはまらないかもしれないので。
ですので、信頼のおける病院や、
学会から発信されたエビデンスの確かな情報以外は、
すべてを鵜呑みにしないでほしいですね。
モモ:
まさに情報の取捨選択。
それに、セルフチェックでしこりを感じたら、
まずは乳腺クリニックへ、ですね!
明石先生:
そうですね。
まずは、そこから。
モモ:
今日はありがとうございました!