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ももん、入院する②病院に行くぞ!編


前回までのあらすじ

金曜の穏やかな夜に突然の腹痛。翌日発熱、腹痛の悪化が見られるも、土曜日だから病院は全然やってないーー。でも明日から2週間のハードな実習(3ookm far away)だもの、なんとか病院に行ってお薬をもらわなくちゃ! そうしてももんは夜間救急病院へと向かうが、そこは全員が体調不良の限界を迎えたカオスだったーー。

日曜 8:00 さて、実習をどうするべきか?

本来ならば今日、実習へ出発しなければならない━─おふとんの中で唇を噛み締めつつ、私はうめいた。私の中の悪魔が、「いや無理だろ、おめー昨日からめっちゃ腹壊してんじゃん熱もあるし」、という。私の中の天使が、「でも、大事な実習なのよ? 行かないと単位がどうなるかわからないわ!」と叫ぶ。
一言で言うと、超具合悪い。朝になるといったん熱は引いたが、腹痛は止まるところを知らない。めっちゃお腹痛いし壊しているし、トイレで寝てやろうかと思っているほどだ。
これはもう、交渉するしかない。私は獣医のたまご、そして先生だって獣医師だもの! 病気には理解があるはずよね!
そして、実習先の担当教員であるMちゃんに私は電話をしたのである。

日曜 11:00 Mちゃん、ありがとう

多忙なMちゃんからしばらく返信はなかったが、ももんは良い子でねんねして待っていた。というか横になっているかトイレに行くかしかできない。
やっと返事が来ると(それも電話で)、Mちゃんは優しい声でこう言ってくれた。
「具合が悪いのに無理してこなくていいよ、治ってからおいで〜」
Mちゃん!!!!だいすきだよ!!! わたし、きっとげんきになるからね!!!
気分的には号泣したいところだが、お腹を壊しているので貴重な水分を無駄にできない。泣かなかった。
そうしてももんは実習を先送りにし、ゆっくり休むことにしたのである。

月曜 8:00 病院に行きたい

とつぜん半日スキップして申し訳ない。昨日はあんまり調子が変わらなかったので省かせていただいた。昨日あったことといえば熱が39.4度まで上がったことと1日でトイレに34回行ったくらいである

さて、病院に行きたい。病院に言って診察を受けておくすりをもらいたい。病人として非常にまっとうな欲求。私は近所の消化器内科に電話した。
受付時間になった瞬間コールしたのにも関わらず、信じれない言葉がかえってきた。
「申し訳ありません、発熱外来はもういっぱいで…」
なに!? みんな私と同時に熱出してるってこと!? おそろいってこと!?
熱のせいで脳みそが傷んでいるので本当にそう思った。私の住んでいる街の住人が揃って熱を出しているに違いない。新しい病院へ次から次へと電話をかけるが、どこも「発熱外来はもういっぱいです」「うちは発熱外来やってなくて…」の二択である。ガッデム!!!

このまま病院に行けなければ脱水症状で斃死がありえる。一人暮らしのため発見が遅れ、腐敗した遺体が発見されるところまで想像した。病院行けないと死んじゃう!
そんななか、望み薄で電話した消化器内科のひとつが、診療を受け入れてくれた。後日知ったことだが、本来ならば初診で発熱患者は基本診ていない病院とのことだった。しかし、私が受付嬢に狂気に満ち満ちた電話をしたことで、ドクターは、いいよ〜見るよ〜と言ってくれた。「本当は完全予約制だから、飛び込みだと少し待つことになるけどよろしいですか」「よろしいです!!!」狂気に満ち満ちた声で返事をし、私は病院へと向かった。

月曜 14:00 来院

病院はきれいで先生は優しかった。焼肉、焼き鳥、お寿司、貝類を食べていないか、などの基本的な問診をされる。私の返事が全てノーだったので、「他に心当たりはある?」と聞かれた。私は意気揚々と答えた。
「1週間前まで病気の牛を触る実習に行ってました」
「すごく怪しいね。どんな病気の牛がいたの?」
「クリプトスポリジウムとロタウイルスとサルモネラです」
医者はすごく困った顔でこちらを見た。本当に申し訳ない。
なにを隠そう、ももんはちょうど1週間前まで大動物診療の実習に行っていたのだ。そこではもちろん病気の牛さんを触った。

「じゃあそれらの病原体はひととおり検査をしようか。ところで、下痢は1日何回くらいかな?」
「30回くらいすかね」
「はい点滴〜」
処置が的確で速い。名医だ…と感心しているあいだに流れるように留置針を取られソルラクトをぶちこまれた。
でもこの先生は最後まで「クリプトスポリジウム」を噛まずに言えることはなかった。

点滴をされながら、私は大動物の診療実習中、牛に点滴をしたことを思い出した。おとなしく点滴を受けてくれるわけではないから、牛はぐるぐる巻きに頭を固定して、首の血管からぶっとい針を入れ点滴するのである。そのときの恨みがましそうな顔といったらない。あのとき牛に点滴を入れていた私が、温度は牛からうつされたかもしれない病で点滴されている。因果は巡る。このとき痛感した。

左 私に点滴され不満むき出しの牛            右 点滴される私と見守るぺんちゃん

一時間ほど点滴されていると、その間に血液検査の結果が出たらしく、ドクターがにゅっとカーテンの間から顔を出した。
「大変だよ、CRPが7.9まで上がってたよ~」
早々に獣医学生であることが身バレしたせいか、CRP(炎症マーカー、0.3以下が正常)の説明もされない。
「7.9 !? 犬だったら重症です!」
「人でも重症だからね〜。好中球もすっごい増えてるよホラ、あと脱水で低Kだし点滴してよかったね。こんだけ炎症が強いと細菌性胃腸炎だろうね」

ももんは受け取った血液検査の結果をしげしげと眺めた。すごい!ここまで異常値が並んでいると感動的だ!
「じゃあ抗生物質と解熱剤出しとくからね。お水ちゃんと飲んでね。4日後にもう一回来れる? お水ちゃんと飲んでね」
めちゃめちゃ水を飲むことを念押しされ、ももんはおくすりをもらって帰った。

月曜 同時刻、~一方その頃、実家では〜

そのころ実家では、「またももちゃんが具合悪くなったわ」と呆れた家族たちによる家族会議が行われていた。みんなで私が送った血液検査の結果を吟味している。

血液検査の結果にやいのいやいのいう家族たち

そう、ここですでに「入院したら?」という超絶過保護な意見が出ていた。しかし、私は毅然と自宅療養の決意を固めていた。胃腸炎なんて初めてではないし、だって抗菌薬ももらったし、もうオールオッケー!というわけだ。
まあ、これが見事なフラグとなるわけであるが。

つづく


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