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獣医師国家試験、来たる




国試、来たる

さあ、獣医学部もいつの間にか6年め、集大成のあいつがやってきた。
2/12,13日に立ちはだかる最終関門、獣医師国家試験である。

そもそも、の問題である

そもそも、の問題である。我が大学の獣医学部は、国試の勉強に充てられる時間が極めて短い (他大学比)。
私立の獣医学部なら、早いところでは7-8月に卒論を書き終わり、本格的に国試の勉強がスタートする。2月に国試が控えているとすると、たっぷり4-5ヶ月は勉強できる。
しかしなぜか私と同期は、12月の半ばまで卒論を書いていた。
その理由などもはや語る余地もない。我が大学の経営陣が、12月まで6年生を卒論づけにするクソポンコツカリキュラムを設定したせいだ。
おかげで、他大学が卒試 (これに受からないと国試を受ける権利が与えられない、いわば擬似国試)へせかせか勉強している12月、私と同期はリアルタイムPCRを行い、ウェスタンブロットを回し、統計解析を行っていた。一言で言うと、国試の勉強など手をつけられず、卒論に全てを費やしていた。
やっと卒論を提出し、原型もなくなるほど弾け散らかしたかった私たち。しかし、一瞬で現実へと引き戻された。
国試まで、あと2ヶ月。
なお、勉強量はゼロ。

まずは、国試について説明しよう

まずは、獣医師国家試験について説明しよう。中でも手っ取り早く、どうしたら合格判定なのかを説明しよう。
問題構成は以下の通りである (全て5択の選択問題)。

必須問題:計50問
学説A:計80問
学説B:計80問
実地C :計60問
実地D:計60問

この計330問からなる問題構成において、
・必須問題 7割以上
・その他総合得点6割以上

の二つを満たせば合格となる。つまり、必須問題が7割に達しなかった場合、A,B,C,D問題で満点を取ろうが不合格である。逆に、必須問題が満点でも、A,B,C,D問題で大コケして全体得点が6割を切ったら不合格である。
学説A,Bは座学的な知識で、ひたすら文字のみの問題である。一方、実地C、Dはやや臨床応用的な香りがする。実際の症例のMRIやレントゲン写真などがシグナルメント (ウェルシュ・コーギー、メス、5歳、前肢の疼痛を主訴に来院。とか)とともに現れて、診断名を答えたり治療法を答えたりする。学説と実地どちらが得意かは人によって分かれるところである。

必須問題が50問で、7割取得が必須であることに注意されたい。つまり、必須問題で間違えられるのは上限15問である。16問以上を間違えた瞬間、不合格である。この様に厳しい採点基準を課している以上、必須問題は「獣医師になるなら必須」な知識を問うている。
例えば例題である。

「家畜伝染病予防法」において家畜伝染病に指定されているのはどれか。
1.アナプラズマ症
2.アカバネ病
3.牛伝染性リンパ腫
4.牛ウイルス性下痢
5.馬インフルエンザ

第 74 回 (R5) 獣医師国家試験 必須問題 問7

抗不整脈薬はどれか。
1.ジアゼパム
2.キニジン
3.ダントロレン
4.アセプロマジン
5.ナロキソン

第 74 回 (R5) 獣医師国家試験 必須問題 問24

この問題は獣医学生なら鼻で笑って0.1秒で答えなくてはならない。正直、毎日学校の授業をまじめに聞いて試験勉強をしていれば、特に国試にむけ勉強していなくてもわかる。
なので、必須問題は落ち着いて回答すれば問題なし!と言うのが、2021年度までの定説であった。

農林水産省、牙を剥く

2022年度のことである。

モルモットの妊娠期間として適当なのはどれか。
1.16 日
2.25 日
3.31 日
4.42 日
5.68 日

第 74 回 (R5) 獣医師国家試験 必須問題問 49

し…知らねえ。牛の妊娠期間ならわかる。280日である。豚とウマとヤギの妊娠期間もわかる (114日と335日、150日)。でも、モルモットの妊娠期間? はて、まずどこで習った?
苦し紛れで、マウスの妊娠期間21日に最も近い2. 25日を選んでみる。しかし予想も虚しく答えは5. 68日である。知らねぇよ。

2000 年と 2010 年に我が国で発生した口蹄疫の原因ウイルスの血清型はどれか。
1.O 型
2.A 型
3.C 型
4.Asia1 型
5.SAT2 型

第 74 回 (R5) 獣医師国家試験 必須問題 問 37

し…知らねぇ (2回め)。口蹄疫が極めて厄介な法定伝染病であること、病原体がピコルナウイルス科に属することなどを問うてくれればわかる。2000年と2010年に日本で大流行し、多大な損害を与えたという疫学・時事的な知識を問いたいなら、疾病名を伏せてお決まりの発生件数のグラフでも出し、「この疾病は何か」と問うてくれれば良いではないか。なぜ血清型を聞くのだ。こっちは15問しか間違えられないと言っているだろうが。

これは本当に必須知識なのか? それすら怪しい重箱の隅を突く様な問題のオンパレードで、2022年度の国家試験は例年の比ではない必須落ち (注:総合特典は6割以上にも関わらず、必須問題が7割に満たず不合格であるもの) を生み出した。
この時点から国家試験は明確に難化傾向にある。先輩方の必須落ちを目前に、われわれは生まれたてのハムスターのようにプルプルと震えている。

農林水産省は、もうあんまり獣医が欲しくないのかもしれない。
それはじんわりと我々が感じていることである。

しかし、残り10日を切ったいま…我々にできることはただひとつ。
詰め込め。全ての知識を。
今まで、オールイン・オールアウトに全てを賭けてきたのだから。


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