「ジェンダーレス男子」は「ジェンダーレス」なのか?

※以下の内容は2015年当時私がコラムとして公開していた記事をサルベージしたものになります。なので時代背景に5年のラグがあると思ってください。

彼らが体現するのはファッションの多様性。性の多様性とはまた別の話ということ、彼らの在り方から見る表現の多様性とジェンダーレスという言葉の世間の認識について。


まずは「ジェンダーレス」「ジェンダーフリー」というふたつの言葉についての説明をしようと思います。

ジェンダーフリーとは「固定的な性役割の通念からの自由を目指す」という意味の思想及び運動を指す和製英語。(英語圏でジェンダーフリーと言うと「ジェンダーを無視する」と解釈されます。)
※この言葉をめぐっては誤解や混乱が度々起こっているのですが、それを踏まえて男女共同参画局より地方公共団体に対して「この用語を使用しないことが適切」との事務連絡が出ています。
そしてジェンダーレスは性別そのものを否定していくという意味合いを持つ和製英語。
男女共にジーンズならジーンズ、スカートならスカートに全員統一するべきだ。ランドセルも男が黒で女が赤というのではなく1つの色にするべきだとする考え方がジェンダーレス。男女共にジーンズとスカートどちらも選べる権利があり、それを他者から強制されない配慮をするべきだ。ランドセルの色は黒と赤以外でも自分の好きな色を選べばいい、という考え方がジェンダーフリー。

以上、簡潔に書いたけれど、性的指向と性自認の違いのように似ているようで性質の全く違うふたつの言葉の意味を何となくでも頭の隅に置いてから本題に入って頂きたいと思います。

ファッションとしてのジェンダーレス

2015年のトレンドとして急上昇のワード「ジェンダーレス系」
その中でも特に話題の中心となっているジェンダーレス男子とは一体なんなのか。一言で言うならば新世代のファッションアイコンだ。
ファッション界隈では2010年頃から自由・多様性というテーマにシフトしたトレンドの元所謂「ジェンダーレスファッション」が話題になり、5年かけて自分の着たいものを着るスタイルが当たり前になった。
「ユニセックス」というワードは随分前からファッション業界で使われてきたけれど、それはあくまで「男女兼用で着ることのできるデザインの洋服」のこと。ユニセックスな服を着るのはジェンダーレスファッションとはまた違ってくるというのだから奥が深い。
ジェンダーレス男子と呼ばれている彼らがジェンダーを意識しているかと言うとそうでもないようで、自身は男だけれどファッションにメンズとレディースという線を引かず着たいものを着ているのだと言う。
女装ではなくジェンダーレス。女性に見えたらダメ。
着る人の性別を感じさせないそのファッションは男の娘ともまた違う。
ファッション業界では今、セクシュアルマイノリティとは直接的にはあまり関係のない形で「ジェンダーレス」という言葉が使われている。正直、ファッション業界がトレンドとして多様性を取り入れた時に「ジェンダーレス」ではなく「ジェンダーフリー」という言葉が使えていたらまた話は違っていたのかも知れない。(ファッション業界を批判する意図はありません。一個人のたらればの話です)
オネエでもニューハーフでもない新しい存在、ジェンダーレス男子。彼らに対する世間の声は様々で、その中でもセクシュアリティへの引っ掛かりを覚える人をやはりちらほら見かけた。

言葉を選ばずに個人的にぶっちゃけると、誰がジェンダーレス男子とか言い出したか知らんが軽率にジェンダーレスとか言われて誤った認識が世間に広まると困るなって感じである。そもそも「ジェンダーレス」って言ってるのにその後ろに「男子」をつけること自体、何か腑に落ちない。
もちろんジェンダーレス男子の存在からジェンダーレスという言葉を知った人たちは少なくないと推測できるし、そこからきちんとジェンダーレスという言葉の意味を調べて知ってもらえるなら、とは思う。私自身メンズ物を好んで着るのでレディースとかメンズとか関係なく着たいものを着るというそのスタンスは否定しないしむしろジェンダーレス男子めちゃくちゃ素敵だと思うけど、そうではなくて「女の子の服を着てるってことは恋愛対象は…?」とか聞く輩が必ずいるのだ。ファッションとしての「ジェンダーレス」をセクシュアリティと結び付けようとする輩が。
ジェンダーレス男子として活躍する子が、よく恋愛対象は男なのかと聞かれるけど女の子が好きですってインタビューなんかで無難に答えていた。そらそうだと思った。彼らはファッションの多様性を体現しているのであって性の多様性を広めようとしているわけではないのだから、たとえ恋愛対象が男女問わず誰であろうとここで明言する必要はない。
それでも世間の意見はこうだ。「要するにオカマってことでしょ?」「ゲイがカミングアウト出来ないからこういう言い方をしているだけ」「それって女装家じゃん」「男らしくない」

私が懸念をするのは、このジェンダーレス男子によって「ジェンダーレス」という言葉が世の中に誤認されないかどうかということだ。
ジェンダーレスとは先述の通り「性別そのものを否定する」という意味の和製英語。性差をなくす、ファッションの中に性別という壁を作らない、自分の好きなものを身に付けるという彼らのスタンスは、それを彼らが意図していようがしていまいがどちらかというとジェンダーフリーの思想なのだ。
元々ジェンダーレスとジェンダーフリーの相違についても様々な議論がなされていて人によって定義が違ったり国によって言葉の意味自体が変わったりもしているのだけど、ファッション業界を通してこのジェンダーレスという単語が広まっていくとするときっとこのまま「男とも女ともつかない」だとか「性別は関係ない」「自分の好きなように」という意味合いの言葉になっていくのだと思う。
そして世間でのジェンダーレスというものが美意識が高く、可愛くてレディース物も着こなす華奢な男の子。という意味になるのもそう遠くない気がしてしまう。(2020年現在、やはり思っていた通りそういう意味合いになっているという所感である)

ジェンダーレス男子とは、自分の好きなものを身に付けてオシャレを楽しむ男の子のことだ。
ジェンダーレス男子を取り上げるメディアもどんな形であれジェンダーレス男子に関わりを持つ人も、そして当のジェンダーレス男子達にも「ジェンダーレス」という言葉にどうか重みを感じて欲しい。ジェンダーレス男子は「ゲイなんですか?」なんて聞かれてもそれを馬鹿に出来ないのだ。
ただ見た目が中性的で可愛くて美意識が高くて……そういうんじゃない。もっと根本的な部分に大切なことが見えてくる。
そして私達も、ジェンダーレス男子はあくまでファッションの多様性に富んだ男の子達なのだということを踏まえて彼らの在り方をとらえていくべきなのだ。

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