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〜ここにはないもの〜 #0



??:ねえねえ!!ママとパパって仲悪いの?


いつもの散歩道を歩いていると、私の手を握る息子がとんでもないことを口にした笑

息子の〇〇はこないだ5歳になった
子供とは素直なもので、なにかしらそう思う理由があるのだろう

私は驚きをバレないよう胸にしまい、逆に〇〇へ質問をすることにした


飛鳥:んー?どうして 笑


〇〇:だってね、散歩の時ね、パパとママいっつも別々に出発進行するじゃん!!!

飛鳥:なるほど…

普通に納得してしまった笑
まぁこれを説明するにはまず齋藤家のルーティンについてを話さなければならない



齋藤家の朝は"散歩"から始まる。
ただ、その散歩が少し違うのである。


私が先にスタートして、▲▲(旦那)は少し遅れてスタートすることになっている。
時間差で出発進行するのが〇〇にはどうやら違和感だったようだ


飛鳥:〇〇はパパとママが仲悪いように見える?

〇〇:えぇ…みえないけど…

飛鳥:うん。大丈夫だよ、ママもパパもお互いに大好きだからっ。

〇〇:ほんと?

飛鳥:うん、ほんと!

〇〇:じゃあなんで一緒に出発進行しないの?

飛鳥:え、それは…


息子ながら中々に鋭い
うーん…まぁ理由があるにはあるのだが、旦那にすら言ったことがない。
多分、旦那は自分が歩くのが早いからとか思っていると思う。


出来れば話さずに墓まで持ち帰りたいのだが…


〇〇:ねぇ…なんで…?


くりっくりの目をうるうるとさせている息子の顔を見ると、隠し通すのは無理だと私は諦めた


飛鳥:わかった…〇〇。ママのとこ来てごらん。

私は〇〇を散歩のゴール地点(正確には折り返し地点)の "見晴らし台" の眺めが良いところへ連れて行き、すぐ下の方を指をさした

そこには1人の男性とおんぶされている少女がいた


飛鳥:あれ、だーれだ!?

〇〇:ん〜、あっ!パパとあやめ!!!

飛鳥:そう!ママね…ここの景色も好きだし、パパたちが登ってくるのを見るのも大好きなんだよ

〇〇:そうなんだ!!!

飛鳥:それにパパにはずっと待たせてたから…
   今度はね、ママが待っていたいの…。

〇〇:う〜ん、よくわかんない

飛鳥:〇〇にはまだわからないか…笑

〇〇:うん…

飛鳥:ここはママの大切な思い出の場所なんだ

〇〇:思い出…?

飛鳥:そう。ここはね、パp…
▲▲:お〜い!!!

〇〇:パパだーー!!


あやめを抱いた▲▲が見晴らし台に到着した

飛鳥:〇〇!今のはママと〇〇だけの秘密だよ!

〇〇:うん、わかった!!!


パパの到着のおかげもあり、私は少し恥ずかしいエピソードを話さずに済んだのだった






……




そんな " 20年前 " のやりとりを思い出していた

その見晴らし台で、
その時と" 同じ "場所で、

その時と" 違う " 景色を眺める

この20年で田舎だったこの町も隣町と合併し、大きく発展していき、もう田舎とは呼ばれなくなっていた。


私が好きだった景色とは大きく変わったけれど、私の大切な見晴らし台には変わりはない。



〇〇は元気にしているだろうか…

高校卒業後、
私の反対を押し切って〇〇は東京へ音楽関係の仕事を探しにいった

元アイドルだからこそ、心配で心配で仕方がない

▲▲は、
『飛鳥の子だから大丈夫だよ』と言っていた


でも…そんな時ふと思うのだ


" 私は親としてちゃんと出来たのだろうか… "



その日は〇〇のことばかり考えていた


▲▲:飛鳥…帰ろうか。

飛鳥:うん。


遅れて出発した▲▲が見晴らし台についた
そしてこのあと、私たちは一緒に歩いて帰る

少し恥ずかしいけれど…
今日は何故か▲▲と手を繋ぎたくなって、繋ぎながら帰った。



ただ…この時の私は知るよしもない

私が見晴らし台に来れるのが最後になることを…



〜 ここにはないもの 〜



#1 ↓

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