〜ここにはないもの〜 #2
??:○○…
○○:なに?
"そばにあるしあわせより、
遠くのしあわせ掴みなさい"
〇〇:うん。
??:頑張ってきなさい。
〇〇:ありがとう…母さん。
見晴らし台で言われた最後の言葉を思い出す
東京で夢を叶えにいくという僕にずっと反対していた母が僕にくれた激励の言葉だった
ただ…それは叶わなかった
努力も出来て才能がある人間に負けて僕の夢は潰えたのだ
それでも今の会社に就職して梅澤さんのもとで頑張れているのは母のその言葉のおかげであった
ただ、親孝行は出来なかった…
母の反対を押し切ってまで上京した親不孝な自分がどのツラを下げて地元に帰ることができるだろうか
そう思うと…
数日たっても妹からの電話やLINEに返信することは僕にはできなかった
〜 ここにはないもの 〜 #2
??:〇〇〜、
〇〇: ……
??:〇〇!話聞いてる…?
〇〇:あ、梅澤さん、、、すみません…
梅澤:こことここ!間違ってるよ!!!
〇〇:え?あ、すみません、、すぐ直します…!
梅澤:どうした、最近ミスばかりして…
昨日まとめた書類に不備があった
しかもそれは今週に入って3回目のミスだった
梅澤:らしくないぞー、さくらと何かあった?
さくら:(ドキッ…///)
〇〇:いえ!それは何もないです!
梅澤:まぁもしあったら、○○よりもさくらのがミスしそうだけど…
さくら: うっ……///
チラッとみるとさくらは顔を真っ赤にしていた
梅澤:喧嘩とかはしてない……?
〇〇:はい、してないです。
梅澤:もう!たのむよ!
すみませんと頭を下げ、書類を受け取り席に戻る
" 大丈夫? "
さくらと目が合うと口パクでいってきた
僕は手をあげてこたえて席につき、
ふぅ…とひと息つく
理由はわかっている
5日前のあのLINEをみた時
そこから僕の中で何かが変わった。
次の日になればリセットできると思っていた
大好きだった母にどんな顔をして帰ればいい
7年前に勝手に出て行った家にどんな顔をして帰ればいい
そう思うと…
寂しさよ、語りかけるな…
僕は余計なことを考えなくて済むようにひたすらパソコンと向き合うことを決めた
…
……
さくら:〇〇くん、仕事終わりそう?
〇〇:ん…あぁ、もうこんな時間か…
さくらに声をかけられ時計を見てみると定時になろうとしていた
〇〇:まだかかるかも…
さくら:手伝う…?私は今日の終わったから…
〇〇:ありがとう、でも大丈夫。先に上がってて!
さくら:そっか…。 あのさ……
〇〇: どうした?
さくら:ううん…なんでもない
〇〇:そう。
さくら: じゃあご飯作って待ってるね…
〇〇:ありがとう…
僕は先ほどの書類のミスを直していく
結局、終わったのはさくらを見送ってから1時間後だった…
最寄り駅につき、さくらにLINEをする
すぐに既読はついたが、なぜか…返事はかえってこなかった
ガチャ
鍵を開け、ドアを開く。
〇〇:ただい…ま……
さくら:おかえり。
さくらがドアの前で仁王立ちしていた
すぐに悟る…
何かやらかしたな…と、
さくら:こっちきて…
〇〇:はい…
リビングに案内され、向かい合って席に着く
(何かしたっけ……)
靴下はちゃんと表にして洗濯機にいれてる
ゴミもちゃんと決まった所にいれてる
さくらの大好きな団子は勝手に食べてない…いや、食べた時もあるけど新しいのを買っていれている
振り返ってみたものの
さくらを怒らせる心当たりがなかった
さくら:ねぇ、なんで言ってくれなかったの?!
〇〇:えっと…ごめん。なにが…?
さくら:もぅ…〇〇くんの妹さんから連絡きたっ!
〇〇:え…?
さくら:なんでお母さん亡くなったの黙ってたのっ!!!
〇〇:ごめん…
さくら:もう…
〇〇:心配かけたくないって思って…
さくら:〇〇くんのことだからそうだと思ったけど…
〇〇:でもどうして、あやめが…さくらの連絡先を知ってるの…?
さくらは僕の家族と面識はない
僕が何年も連絡を取ってないからだけど…
さくら:会社に連絡きたの、
それで梅澤さんから私に電話が来た…
〇〇:なるほど…
一瞬、あやめを恨んだが、
返信のない兄にそれは正しいことかもしれない
さくら:〇〇くんが最近変だったの…これだよね…
〇〇: ……
さくら:ちがう?
〇〇: えっと…たぶん。
さくら:帰らなくていいの?
〇〇:うん…
さくら:お葬式とかは?
〇〇:もう終わったはず
さくら:本当に帰らないの…?
〇〇:うん…いいかなって…
さくら: ……
〇〇: ……
さくら:うそ…
〇〇:え…?
さくら:その言い方は〇〇くんがごまかす時によくつかう…
〇〇:え、あ、いや…
さくら:本当は帰りたいんでしょ…
〇〇: ……
さくら: 〇〇くんっ!!!!
サヨナラ言わなきゃ…ずっとこのままだよ…
〇〇:さくら
さくら:帰ろう。
〇〇: ……
さくら:私も一緒にいくから…
〇〇:うん…
こんな表情を見るのは初めてだった
僕はさくらに促されながら帰省の準備をして、翌朝、2人で始発の電車に乗ったのだった…
#3 ↓