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叶えられた夢(3.理解されない夢④)

(前回のお話はこちらから🔻)


(今回のお話はこちらから🔻)

「かずおくん、着いたよ。」

谷上さん?
違う。。誰だ?

目を2〜3回瞬かせた。

ここは、、

スン!
瞬間鼻が動いた。
車の匂いが優しい。

すううううう。。。。
目を閉じて改めて鼻から息を吸い込んだ。
肺にゆっくり入る感じ。
いつもの呼吸。

目を開けて右を見る。
暗がりだが、さっきまで座っていた白のシートではない。
夜の暗がりに溶け込む感じ。
そう、ベージュのシート。
背をシートに預ける。
ぐっと体を包み込む柔らかさ、
深く息ができる感覚。

そう、俺の車だ。

それに、、俺の身体。

お腹が苦しくない。
右手を臍の上あたりにおき、上下にさすった。
引っ込んでいる。
その手を見た。肌も血色ある。
もう一度呼吸をした。

すうううううううううう。。。
もう一回息を吸う。
いつも通り大きく吸える。

ただ、、少し頭が痛い。
首も痛くてズキズキする。
それに何だかアルコール臭い。

もう一度瞬きをした。
首を右肩へ左肩へと交互に倒した。

上着の襟を両手で掴む。
この感じ、暗がりで色は見えないがいつもの自分のスーツだ。
目を下に落とす。
うん、お腹も出ていない。

そして。。
そっと、右手をおでこに置き、頭の方に移動させた。

ある。

はあ、、、、、、、
ため息が漏れる、力が抜けた。。
右に向き、車の窓を見た。

俺だ。
俺が窓に映っている。

よかった。

あのまま、あいつになったまま勾留されたら俺はどうなるのか。。

「どうしたの?身体をチェックして。大丈夫?飲んではいたけど、かずおくんは何も粗相していないよ。」
声の主がからかう様に明るく笑う。

こいつは、、

そう、拓実くんだ。
ふと我に帰った。

ええと。。
ここは、、、駐車場。そうだ。家の向かいの駐車場。

俺は。。今。。
もう時が混乱し始めている。

そうだ。
仕事の帰りに亀島さんに呼ばれて割烹屋に行ったんだ。

飲まないつもりで車で行ったが、つい飲んで、
そう、拓実くんにお願いして迎えにきてもらった。。。

拓実くんは大きく振り返り、顔を見せた。
「かずおくん、、かなり飲んだね。大丈夫?
僕の運転で酔わなかった?」

「ああ。。」
俺は腕を曲げながら横に開き、大きく横に胸を伸ばした。
「俺は全然平気だよ。割烹屋では結構酔っていたけど、今はだいぶ覚めたよ。悪いね。突然呼んで、俺の車を運転してって無理なお願いして。本当、恩に切るよ。」

「幼馴染のよしみじゃないか。気にしないでよ。
俺だって亀島さんに会わせてもらえるなんて、光栄だよ。亀島さんって代議士になって2期目だよね。さすが、かずおくんは顔が広いね。」

拓実くんはポケットからマイルドセブンを取り出し、指でトントンと音を鳴らした。

「いい?」

俺は軽く頷き、右手の平を前に差し出し、引っ込めた。
拓実くんは軽く会釈をしてタバコを1本取り出した。
火をつけ、拓実くんがタバコを吸い出した。

細い白い煙が上に向かう。

「あれ?」

拓実くんが小首を傾げている。

「亀島さんって。。確か高校時代の友人伝に草の根運動をして、ようやく当選した人だよね。かずおくんのお父さんとの繋がりはなさそうだよね。。どういう人脈?」

「ああ、俺のおじさん…亡くなったオカンの兄さんの大学時代の後輩に当たるんだよ。俺が東京にいた時、おじさんが亀島さんに引き合わせてくれたんだよ。いずれ国会に出馬するからその時はよろしくって。」

「ああ、そうなんだ。お袋さんの。。お袋さんももう亡くなって結構経つよね。。」
「ああ、早いよな。。そうだ、町内会長さん。。拓実くんのお父さんから7回忌の時、香典いただいたよ。本当ありがとうな。」

「お袋さんには親父も俺も世話になったもの。親父が町内会長でいろいろ忙しかった時、かずおくんちでおよばれになったよな。かずおくんちはいつも綺麗で庭の手入れもしっかりされていてさ。俺んちの庭なんか草木ぼうぼうで荒屋一歩手前だよ。」

ああ、オカンがよくぼやいていた。
隣の家の草木がひどくてジメジメしているせいか、
蜘蛛が多いって。
懐かしい話を。。
だけど、拓実くんもご機嫌のようだな。

「あれ?東京って。。かずおくんの大学時代?」
拓実くんはタバコを美味しそうに吸っている。

「亀島さんに初めて会ったのは大学時代のこと。」

「そっか、そっか。卒業して少しこっちにいたよね?で、また、かずおくん東京で働いたんだよね。」

はあ、、
俺はまたため息が漏れた。
「ああ、3年前に。おやじが懇意にした国会議員の私設秘書として送り込まれたよ。」

「ああ、そうだったね。相変わらずだね、君の親父さんも。」

「本当だよ。あの時働いていた放送局をやめて東京行け。禄樹さんの秘書やれとかと突然言われてだよ。ただでさえコネ入社と陰口叩かれて、悔しいから放送局のイロハを一生懸命勉強して、これからって時にだよ。。全く、、人の人生なんだと思っているんだよ。」

「だけど、国会議員秘書なんてすごいじゃない。かなり勉強になったのでは?」

「とんでもない!」
俺は顔が熱くなった。

「秘書にも順位があってさ。俺は末端。議員の仕事なんてほとんど勉強にならなかったよ。お抱え運転手みたいなもんでさ。クラブの駐車場でずっと車の中で待たされたり、そこの店のホステスさんのマンションの下で待たされたりとか、朝迎えに行ったりとかさ。まあ、禄樹さんはこの間の解散総選挙で2期目は落選したのと親父も見限ったのか、直ぐに秘書やめてこっちに呼び戻されたけどね。」

「へえ、、そりゃ大変だったね。クラブかあ。代議士は違うな。」

「まあ、景気いいもんな。今。」

「その時は亀島さんとは東京で会っていたのかい?」

「いや、おじさんに紹介受けてそれっきりだったよ。
亀島さん、国会議員になっても俺のこと覚えてくれたみたいで、今日突然誘われたよ。俺も驚いたよ。今の俺には人脈なんてないのにさ。」

「余程かずおくんの印象が残っていたとか?」

「親父の息子だからってのが本音かなとも思うんだ。
本当のことを言うと、車で行ってお酒は飲めないんですって飲みを断ろうと思ったけど。」

「そうだったんだ。。。確かにかずおくん、元々お酒弱いよね。」

「いや、酒の場は好きだよ。でも、面識がそんなにない人とね。ただ、亀島さん、本当気さくでさ。『豪放磊落』という言葉はあの人のためにあるんだよね。話して行くうちに俺の何かが広がった気分だよ。」

「それは、なんかわかる気がするよ。」

「何よりさ。俺の話を聞いてくれるんだよ。俺の夢をさ。ものすごい身を乗り出して。政治家さんって、自分の主張ばかりで人の話を聞かない人が多いと思っていたけど、あの人は違うね。なんか、気がついたらお酒進んだよ。」

「あはは、そうそう。伝わったよ。俺が店に入った時、かずおくん、相当飲んでいたから、びっくりしたよ。あの、かずおくんが?って」

「そうか?あははは。久しぶりに楽しかったよ。白タク呼ぼうと思ったけど、拓実くんもお父さんの後ついで市議会目指すんだろう?だから、紹介したくなってね。」

「親父は市議会議員引退しているからね。実は今更俺が。。と迷っていたんだ。亀島先生にあって、後押しされた気分だよ。」

「あの人にはそういう人を前向きにするパワーがあるね。」

「俺にとっては滅多にお会いできない人だから、もう俺も興奮したよ。本当ありがとう。そう、亀島さん『これからは個々の時代。この世の中を変えるには一人一人の人としてのベースを築くことが最も大事。そのためにも子供達、子供達の十分な教育にかかっている』そう語ってさ。もっともだと思ったよ。熱い人だったな。」

「そうだよ。俺は。。そのベース。自分の根っこを形成するには『家族』が大事だと思うんだ。いや、どちらかというと『家庭』そっちだな。」

「『家庭』か。そんなの当たり前だと俺は思うけど。」

「当たり前?そう思うのは、拓実くんが恵まれているからだよ。当たり前じゃない世界だってある。」

「そうか。。親なんて、本当小うるさいだけだよ。」

「四六時中いたらそう思うものかな。たださ。。」

「うん?」
拓実くんがタバコを口に咥えた。

「当たり前じゃない世の中が、『家庭』というものを蔑ろにする世の中がこの先来ると、俺は思うんだ。だからこそ、『家庭』は大事だよ。」

フロントミラー越しに拓実くんが少し小首をかしげ、加えたタバコを灰皿に潰した。

「拓実くん、今日はありがとう。」

「とんでもない。また、飲みに行こうぜ。あの寿司屋にでも。」

俺は車の外に出た。運転席から拓実くんが出てきた。

道を横切り家の前に着いた。
拓実くんが俺にキーを渡しながら話しかけた。
「この市はさ。平和だけど、目玉となる娯楽施設がないんだよな。スポーツも地元と一体になったプロサッカーもリーグもできたけど、この市にはない。出遅れた感じだよ。」

「うん、そうだな。だからこそ、健全なまちづくりのためにもスポーツや娯楽施設を小さい時から英才教育ができる環境にしたい。それに。」

「それに?」

「子供の時さ、父親からサッカーのパスとか、野球のキャッチボールとか拓実くんはしただろう?そう言う記憶って、人として成長するための大事なファクターだと思うんだ。残念ながら俺にはなかったからね。」

拓実くんが、目を細めてうなずいている。

「ああ、喋りすぎたよ。じゃあ、今日は本当にありがとう。おやすみ。拓実くん。」

「おやすみ。亀島さんによろしく伝えてくれよ。」

拓実くんは手をあげて、隣の家に入って行った。

俺は門の前のポストの中をのぞいた。
書留の不在連絡が入っていた。
「書留?」
妹からだ。

そうだ、妹に頼んでおいたこの家の権利を譲渡する署名と押印、印鑑証明。だな。
あいつ、、そう言えば東京で就職決まったと言っていたな。

「そのまま、普通郵便でいいのに。」

俺はつぶやいた。
キイイイイイ。。
門の鍵を開け、玄関に向かう。
鍵を開け、中に入った。

入り口の電気をつけた。
「もう11時半か。。」
リビングを入ったすぐにある振り子時計を眺めた。

リビングには数多くの段ボールが並んでいる。

俺はこの家を出る。
あいつに呼び戻されてあいつの会社で働くことになったが
やはりあいつの下は耐えられない。
この家を売ってそれを元手に独立して商売をするつもりだ。

今、あいつの会社の従業員と手分けして1週間かけて家の中を整理している。
この家にはあいつが買った絵や家具があり、物がとても多い。
オカンの形見だけを引き取り、その他は事務所やあいつの家に渡す仕分けをしている。
今日は四宮さんにうちの鍵を渡しておいたので仕分けをしてくれたようだ。

ソファーの前に大きな段ボールが他のとは別に置いてあった。
四宮さんの字の張り紙があった。

「この箱の中身は、おそらくお父様から、小さかったかずおさん、あやのさんへの外国旅行のお土産です。事務所か、新しいご自宅か捨てるか書いて貼って置いてください。」

土産?あいつの?
中を覗いた。

スライドフィルムとそれを光に当ててみる映写機があった。

懐かしい。。

思わず映写機をもち、目に当てて、レンズを電灯の光に向けた。

これは、、
アメリカ漫画キャラクターだな。

妹が俺のお下がりで良く見ていたやつだ。

スライドフィルムをいくつか見た。
風景や向こうのアニメのネガのようだ。

よくこの床にねっ転がりこれをみていたな。
床にあぐらをかき、色々なスライドを眺めた。

ふうう。
酔っ払いには流石にきつい。
映写機を置き、箱の中をもう一度探った。

箱の底の方に葉書がいくつかあった。
あいつが妹に当てた絵葉書だ。

「お母さんの言いつけまもり、いいこにしていてね。」
相変わらず汚い字だ。読めやしない。

フッ。。思わず笑いが込み上げた。
絵葉書はヨーロッパのどこかの写真だった。

「外国か。。」

あいつは本当に旅行ばかりでひとところにいない。
今だって台湾に近場の旅行気分でふらりとでる。

片言の英語しか話せないのに本当にすごいと思う。

そうだ、、
ふと、あいつになったことを思い出した。

フランス。。
あのままフランス行きを進めていたら。。

俺はハガキを箱に戻し、箱を閉じた。

テーブルの上に置いてあったマジックを持った。

箱の外に「新居へ」と印した。

「しかし、、ここは物が多いなあ。」

リビングは段ボールと額縁だらけ。

ふうう。
思わずため息が漏れた。

段ボールはリビングの真ん中で山となり、
額縁は、壁に数十枚立てかけてあった。
小さい時に怖くて仕方なかった女の人の絵もある。
地元出身の有名な版画師の画もある。

額縁のない絵も段ボールの上に積まれていた。
奥の方にはひなまつり、こいのぼり、羽子板。と書いた段ボールもある。

全部あいつが外国行ったり、東京行くたびにオカンに土産として送ったものだ。

どれも本当にデカイ。

こんな小さな家によくこれだけのものが置いていたものだ。

「これ飾って個人美術館できそうだが、今どきそんなの金にならないか。。」

俺は思わずつぶやいた。

オカンはあいつから貰うたびにいつも大切に飾っていた。
春夏秋冬、その時その時絵を変えていた。

もう一度、俺は小さい時に怖かった、女の人の絵を取り出した。

オカンは西洋美術館にもう一度いっただろうか。

ルーブルにもパリにも行きたかっただろう。

「流石に行ったことないなら、行けないよな。。。。」

俺は絵の女性に話しかけた。

「あいつの夢は、オカンには伝わらなかった。」
俺はつぶやいた。

ボーン、ボーン、ボーン。。

ふりこ時計がなった。

ジーーーーーー。
壁の音だろうか。。
何も音がするはずはないのに耳に何かが伝わる。

この家にはもう誰もいない。
足の裏が針に刺されたようだ。
腰にも響く。

この家は、こんなにも冷たかったのだな。。

「叶えられなかったのだな。。」
もう一度、つぶやいた。

俺は振り子の真ん中をずっと見つめた。

※この章はこれで終わります。
次回新章に入ります。

(次のお話はこちら🔻)

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