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叶えられた夢(4.追憶①)


「イイジマさーん」

……

「イイジマさーーーーん!」

…なんだ??

「イイジマさーーーーーーーん!!!
起きてください。目覚ましの音うるさいですよ!!!!!」

耳の奥にビリビリくる。。
障子が振動して伝わってくるような感覚だ。
なんか女の人のこえだ。
なんだか、とにかく耳にくる。。。

目を擦った。
板張りの天井が見える。。

「イイジマさーーん、居るのはわかっているのですよっ。目覚まし。めざまし!!!うるさいですよ。何時だと思って居るんですか!もうお昼の2時。2時ですよ!」

明らかに外から聞こえる。
なんか、振動というか、、雑音もする。。

目覚まし?

ジリリリリリリリリ!

確かに鳴っている。近くだ!
うつ伏せになり、頭を上げた。
枕元の右手に目覚ましのベルがけたたましく動いているのが見える。

これのことか?
俺には目覚ましより、女の人の叫び声の方が耳に響く。

「イイジマさぁーーーーーーーーん!!!
目覚ましがうるさいです。あー、うるさい!
ラジオきこえないじゃないの!
勘弁してよ!」

女の人の声がだんだん怖くなってくる。

目覚まし。。これのことだな。
イイジマ?。。。誰だ?
頭を左右に動かしたが誰もいない。
俺が責められているのか?

俺は起き上がり、目覚ましを持ち上げた。
ずいぶん古いタイプのものだな。
ベルが動く目覚ましの裏をみる。
これ、、どこで止めるのだろう。。

「ああああああ、うるさーーーーい!」

女の人の声が確実に近くに迫っているようだ。

「おい、大家、うるせえよ!目覚ましよりおめえの声の方
がうるさいよ!俺は今日非番なんだよ。。若いの!どうでもいいから早く止めろ!かなわんよ。」

別の方向から男の声が聞こえた。

それはわかった。
わかっているが、、
この目覚まし、どうやって止めるんだ?
裏、横、下、眺めても本当、よくわからない。
「だってうるさいんだよ。ほぼ毎日よ。いつもはもう少し遅い時間だから我慢していたけど、今日はずっと鳴らし続けているのよ!」

「だからと言って下から、窓に向かって騒ぐなよ。直接部屋に行けよ。」
女の人と男の人が口論を始めているようだ。
とにかくこの目覚まし、止めよう。

しかし、、、
ああ、焦ったい!
俺は目覚ましの裏についている電池を見つけた。
それを引っこ抜いて壁に放り投げた。

ジ。。

音は止まった。

ふうううううう。。
ため息が出た。。

しかし、、、、

「イイジマ」。。

そう言っていたな。
あの大家らしき女の人。

ここどこだ?
少なくとも俺の家じゃない。
一軒家でもなく、アパートのようだ。
カビ臭く、汗臭い。。
イイジマの部屋か?

俺は頭を下にもたげた。
肌着にトランクスをはいている。

俺の身体ではない。。

またか、、、

もう流石に驚かない。
今度はいつだ?どこだ?
そして俺は誰だ?

「夜働いているか何か知りませんけどね。いいかげん、昼の目覚ましやめてくださいよね!聞きたいラジオがあるのにいっつも邪魔されるんですよ。今日は特に1時間早く鳴らして、ずっと鳴りっぱなし。」
「いいじゃねえか、とにかく止まったんだ。もう。。寝かせてくれよ。」
「本当にもう。。。」

ずっと騒いでいた大家らしき女の人と、隣人らしき男の人の声の声が聞こえたあと。。

静かになった。

ポチャ。。ポチャ。。

音がする。。

台所の水か。。
水道の水が締まりが悪いようだ。

もう一度周りを見渡した。
今、俺はこの部屋に一人きりだ。

あの大家らしき人が言う通り、
俺はイイジマ…なのだろう。

俺は。

しかし、イイジマって、、誰だ?
今度は見当もつかない。

それに。。
この部屋は。。

寝ていたうっすい敷布団には汗染みで汚れたシーツがかかっている。
天井も木板で敷き詰められているがどう見ても古い。
おれが大学の時に住んでいたアパートよりカビ臭い。
そして 何もなさそうだ。

ここは木造の安いアパートか?
イイジマは一人暮らしのようだ。

よく昔のテレビドラマでみた景色だな。

俺は改めて自分いや、イイジマという人の体を見た。
体は細身だ。全然痩せているしお腹も出ていない。
手の甲を見た。シワもない。
若い、今の俺よりもきっと若い。
ただ。ところどころ手にマメができている。

枕元に封を開けた封筒がある。
日当。。○✖︎建設。。
そうか。俺は工事現場で働いているんだな。
ただ、夜の仕事って言っていたな。
工事現場は夜間作業か?
それとも掛け持ちしているのだろうか。。

とにかく服だ。服を着よう。
見渡したが、洋服が見当たらない。
足元に小さな箪笥のような引き出しがあった。
そこをのぞくとTシャツが3枚くらいあった。
布団の横に脱ぎ捨ててあるズボンもある。
汚いがこれを着るしかない。

俺はTシャツとズボンを履いた。

立ち上がり部屋の中を歩いた。
寝床は4畳半。一部屋にキッチン。
トイレがある。風呂はなし。

寝床も布団が入るだけの押し入れがある。
俺は早速布団を畳んでそこにしまっった。

窓は半窓。
さっき大家らしき女の人が騒いだ声を聞いたのはここからだ。

窓ガラスを開けたままで寝たのか。。
夜、蒸し暑かったからであろうか。

窓の外を覗いた。
前方に一軒家があり、縁側が見える。
その奥に女の人が見えた。さっきまで騒いだ大家か?
ちゃぶ台にあぐらをかいて何かを食べているようだ。
しかし、、相当太っているなあ。
そう思って少し観察し始めたら女の人がこっちを見そうになった。
俺は咄嗟に窓を閉め、部屋に籠った。

それにしても俺は誰なんだ?
どう見ても裕福ではない男の一人暮らしだ。
こいつの持ち物は他にないのか?身分が分かりそうなもの。

台所のテーブルの上に財布が見えた。
中をあけると数枚の千円札と
学生証があった。
大学?
いや、建築学校。。専門学校か?
飯島一弥。。
これが今俺がなっている人?
本当に俺は誰なんだ?

そう思った瞬間、

コンコンコン…

扉からノック音がした。

う、、
またあの大家か?怖いな・・・。
いや待て。。
大家ならさっきの剣幕ならもっと派手に叩くだろう。

まあ、大家だとしても、もう目覚ましは電池抜いたし、
文句言われたらなんとか言い返すしかない。
ドアに向かった。

「はい、どなたですか?」
俺はドア越しに返事をした。

「いっちゃん、いたのね。何しているの?」

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ある日目覚めた「かずお」 小さく華奢な身体になっていた そして扉を叩く音 開けてみるとそこに現れたのは… 「叶えられた夢」最終章になります

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