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東京から地方に来て印象深いこと

私は幼少期から東京で育ち、30代になって初めて東京を離れた。別に仕事の都合とか、実家へ戻るとかではなく、夫と話し合い、ただ自分たちでそうしたいと思って好きな場所へ引っ越した。
いわゆる「地方移住」である。

地方へ移り住んでから、東京との違いを感じる瞬間は、もちろんたくさんある。
そのなかでも私の心が揺れ動いたのは「行方不明者に関する町内放送(防災無線)」が、わりと頻繁に流れることだった。

「市役所と警察署から行方不明者のお知らせです。〇月〇日、〇時頃より、△△地区にお住まいの誰誰さん×歳が行方不明になっています。特徴は、~~~~~。発見した方は、警察署までお電話ください。」

行方不明者に関する町内放送(イメージ)

放送内の「特徴」部分では、当人のご家族が警察に語ったであろう行方不明時の服装や、背丈、体型などが伝えられる。
ときに、ここまで言わなくても…と、こちらが少し恥ずかしさを感じるほど詳しい情報が流れるのだが(例:「太りぎみ」「頭髪が薄い」など)、当事者に近い人たちの気持ちを想像すれば、恥だの何だの言っていられない状況であることはよくわかる。

私の体感として、この放送で「行方不明」とされる方の8〜9割は、70歳以上。年齢から察するに、行方不明になってしまったのは、認知機能の低下による徘徊や、散歩中にふと帰り道がわからなくなってしまったことがきっかけではないかと思う(自分の親族にもいたので、余計にそう感じる)。

ふだん家で過ごしていると、ときどき、この放送が急に大音量で流れはじめてドキッとする。
さすがに真冬にはあまりないのだけれど、季節が動き、暖かくなってくると放送回数が増えることが、移住してからの4年でわかった。

このような話、地域によっては「昔から当たり前のこと」なのかもしれない。

けれども、私の約30年にわたる東京生活(6つの区や市で暮らした)では、同様の放送を耳にしたことはなかった。
(もし東京でこの放送をしたら、人が多すぎて、鳴り止まないほどになってしまいそう…とも想像した)

私がいま住んでいる自治体は、人口20万人規模の地方都市。周りは山々や田畑だらけでも、若い世代が比較的多いエリアに住んでいるからか、そこまで密な人間付き合いはない。
移住前に「地方は人間関係が大変」と聞いていたからちょっと身構えていたけれど、干渉されることもなく、いざ来てみたら拍子抜けするほどだった。むしろ、もう少し関係が密でもいいかも、と思うときすらある。

けれども、この行方不明の放送を聞くたびに、同じ地域で「ほかの誰か」と共に暮らしていることを実感する。放送を聞いてから外へ出たときには、放送で流れた「特徴」をもつ方がどこかにいないだろうかと、つい探してみたりもする。

それからしばらくして「先ほどの誰誰さんは、無事発見となりました」の放送が流れたときには、その方が、たとえ顔を合わせたことがないおじいちゃんやおばあちゃんであっても、ああ、よかった…!と思う。

こういう時間を通じて、私はほんの緩やかな「地域のつながり」のようなものを感じている。

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