「できない」は言わせない
今年のゴールデンウィークはブラジルのリオ・デ・ジャネイロに行った。
リオに行くのは3回目で、最初はカーニバルを見に、2回目3回目はサンバのレッスンを受けに。
サンバとの出会いは遡ること15年前。友人に誘われて浅草サンバカーニバルにひょいと当日参加枠(当日集合して、簡単な振り付けを覚えて誰でも参加できるポジションがある。衣装はだいたい簡素なものが多くて、私が出た時は農民のイメージのチノパンとチェックシャツという出で立ちだった)で出たことをきっかけにして随分とハマってしまい、以来毎年浅草サンバカーニバルに出て、今ではいわゆる「羽根を背負った露出の高いダンサー」なんぞもやるようになった。
「本場のレッスンを受けにブラジルまで行く」というと結構驚かれることが多い。幸いにも私の周りにはブラジルツアーを企画してくれるサンバの先生がいて、ブラジル好きのレッスン仲間も多いので、自然と参加したいという思いが固まった。サンバをやっていると、老若男女関わらず「いつかはブラジルに行ってみたい」と語る人がいるのだが、行けばいいのに、と思う。旅行費、レッスン費、飲食費などのお金があれば行けるし、お金がないなら稼げばいい。小さい子どもがいたり持病があったりする場合は別の難しさがあるのかもしれないが、それ以外は結構なんとかなったりするものだ。
今年のブラジルレッスンでは、これまであまり経験が多くないジャンルのレッスンも受けた。難しくて全然理解できないこともあり、ついていけないかも…と心が折れそうになった。課題を出されてもつい「できない」と言ってしまう。
そんなときにそのスタジオの先生が「私のクラスでは、『できない』は言わせない」(意訳)と。
たしかにそうだ。できないからレッスンに通うのであって、できないことをできるようにしたいから参加しているのだ。それなのに「できない」と言っていてはいつまでもできない。できると信じて挑まなければ。
それから私はあらゆるレッスンで、「できない」「難しい」「わからない」を言わないことに決めた。
習っているダンスはサンバ以外にもあって、レゲエダンスもかれこれ17年レッスンに通っていて、今は私にとって14回目の発表会に挑戦している。今回の発表会では生徒10人が参加していて、16歳の女子高生も居れば、20代の中国人、30代のキャリアコンサルタント、40代の保育園園長まであらゆる人が参加している。子どもがいる人もいて、家事に仕事に大忙しの中皆レッスンに通い、レッスン以外でも練習を重ね、発表会に向けて一丸となって頑張っている…と言いたいのだが。実際はどうしても覚えの良し悪しが出てしまい、なかなかうまくいかない。昨日が最後の深夜練(終電ごろから朝の始発まで練習する)だったが、不安は残る。
私は自分が「できない」を言わないと決めてから、とても前向きにレッスンに参加できるようになった。できないこともできるようになったような気がした。それをつい人に押し付けたくなってしまうのが、私の悪いところだった。練習中に「できない」という言葉が出てくるとイラっとする。少し前までは私も口にしていた言葉なのに。でも、もったいないよなぁ。自分でやるって決めて参加した発表会なのに、自分から挑戦を諦めるなんて。
20年近くダンスをやってきて、先生と生徒の間には大きな壁があって、そのひとつがこの「できない」を言わないということだと思う。先生になるような人、つまりダンスを生業にしている人は言い訳をしない。できなくてもできるまでやる。その繰り返しがエキスパートになれる人と生徒で終わる人の違いなのではないか。
とはいっても、別に全員がエキスパートになる必要はなく、一生生徒でいたっていいし、生徒でいることが楽しい人もたくさんいる(というかほぼそれ)。趣味と向き合う熱量が人それぞれ違うから、発表会は難しい、だからこそ面白いし、本番でぴたっと息が合ったときに最高に楽しい。今はその瞬間を信じて、準備あるのみ。