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12年の恋

彼氏と別れました

12年半付き合っていた彼氏と別れた。
彼氏、いや、元彼との関係は少々複雑だったので、説明したりするのも面倒だし、ありのままに話すと「別れなよ」「もっと他にいい人いるよ」と言われるのが余計なお世話だし、元彼の印象を悪くしてしまうし、そういうことが嫌だったので基本的には仲の良い友達にしか話していなかった。私のSNSにも基本的には登場しなかったと思う。
そんな元彼と、8月に別れた。
あんなに大好きだったのに、私から別れを告げて。

元彼・Tさんについて

もうこの際だから、元彼と私がどう複雑な関係だったのかを説明する。
元彼と書くのがしっくりこないので、Tさんと書くことにする。

①年齢が18歳差
出会ったとき私26歳、Tさん44歳。今私は39歳だが、20代の男の子を口説く勇気はない。Tさんの勇気に拍手である。

②相手の家庭環境が複雑
そもそもTさんはバツ1。そして子どもが3人いて、それぞれ別の女性が母親である。(結婚は2番目の子どもの母親としていて、3番目の子は婚姻関係なしで生まれた。これは女性側の希望だそうなので、批判は受け付けない)

③付き合っている途中に4人目の子どもが生まれた
これが全く人に理解されないポイントだ。私と付き合って2年が経とうという頃に、知人の女性がTさんの子どもを出産した。私とその女性とは面識があり、当時は子どもができたという事実を受け入れることができなくて、女性には随分とひどいことを言ってしまった。彼女の妊娠を知ったのは臨月の頃だったので、堕胎を迫るほど追い詰められなかったことは今となっては救いだったと思う。もし妊娠してすぐこの事実を知っていたら、私は相手の女性に「堕ろせ」と直接言いに行ったと思う。そうなったらおそらく今も後悔していただろう。

④Tさんの職業が不安定
Tさんは芸術系の仕事をしており、いわゆる会社員ではない。かつ本人も着るものや食事に無頓着(正確にはものすごいこだわりがあるのだが、コスパが悪いものは認めない)なので、よく職質をされるほど。私は自活しているので相手の男性に稼ぎや安定は求めないし、そもそも結婚して主婦になる気もさらさらないので、全く気にしないのだが、世の中の人はまだ男性が女性を養うのが当たり前とでも思っているのだろうか、不安じゃないかをよく聞かれた。

⑤会う回数が少ない、一緒に住んでいない
逆に聞きたいです、毎日会っていれば愛し合っていると言えるのか?
私も仕事に趣味に毎日やることがあるし、お互い見たいドラマやアニメがあるんだから、それぞれの生活を送るのが良いと思って付き合っていた。

元彼・Tさんの魅力

さすがに4人目の子どもができたときにはしびれたし、それをきっかけに一時期別れていたこともあった。むしろ子どもを作る気がない女とは一緒にいる気がないのではないかと自己否定を繰り返したし、子どもを産まない私は生きている価値がないと何度も何度も苦しい思いをした。そのたびに鬱にもなったし眠れなくなることもあったが、逆上してひどい言葉をぶつける私からTさんは決して逃げることがなかった。「死にたい」と言えば、「どうして死にたいの?」と理由を聞いてくれるし、「子どもを産まない私に用はないんでしょ」と言えば、「子どもなんていなくていい、年取ってさみしくなったら犬か猫でも飼おう」と言ってくれた。何度も何度も向き合ってくれて、ようやく私もTさんと向き合うことができた。要した期間は2年や3年のことではない。

4人目の子どものことを受け入れることができて、私の精神もようやく落ち着き始めた。精神が安定してからは、お互いに見て良かったアニメや映画をオススメしあったり、たまにはドライブで紅葉を見に行ったり、春には毎年新井薬師で花見をしていた。安定した付き合いがこれからも続くはずだった。

なぜ別れたか

今年の春、年下の友人が子宮頸がんで子宮を全摘出した。また、仕事でも卵子凍結の取材をしたり、「出産」というテーマについて向き合うことが増えた。私自身昔から出産願望がなく子どももあまり好きではないし、「産みたい」「産まなきゃ」「産めるといいな」のどれにも該当しない人生で、むしろ「産まない」を選択し終えたと思っている。

でも改めて40歳を目前にして、「産まない」から「もう産めない」になることに、人生のステージが変化するのを感じていた。自分から選びとった結果ではあるが、本当に戻れなくなるぞ。覚悟はいいか。そんなことを時代に問われているような気持ちだった。「なら産めばいい」と言われて気持ちが揺らぐのが怖くて、Tさんにこの気持ちを伝えることはできなかった。

8月18日、私の大好きな大森靖子さんが離婚を発表した。デビュー当時に大森さんが結婚したことは相当衝撃で、大森さんと結婚という概念が私の中で結びつかずすぐには受け入れられなかった。中野さんや息子さんと一緒にいる様子をSNSで見て「家族も含めて大森靖子だ」と思うようになった今、大森靖子・単独になるのか。今や大森さんへの愛も強固になっており勝手に傷ついたりはしないが、やはり驚きはあった。
デビューしてすぐの大森さんのことを私に教えてくれたのはTさんで、一緒にライブに行ったこともあった。ちなみに、二人でライブに行ったのは大森靖子と矢野顕子だけだ。「大森さん、離婚したんだって」。たったそれだけのことをTさんに伝えた。しかし、その返信は何十件も続いた。大森さんが離婚したからなんだ、大森さんのようなアバンギャルドな人はいろんな男の子どもを産んで世間の価値観をぶっ壊してほしい、というような主張が含まれてはいたが、私にはほとんど何を言っているかわからなかった。

そもそも、ここ最近の世間のニュースで互いの意見が食い違っていた。なぜフワちゃんが批判されたのか、「男性は臭い」と言った女子アナが批判されたのか、話していてかみ合わないことが増えていた。どちらが正しいとか正しくないとかではない。私は勢いよく話すTさんが怖くて逃げていたし、Tさんは話を聞かない私を軽蔑したか、悲しくなっていたのだろう。お互いのフラストレーションが、この「大森靖子離婚」というキーワードで爆発した。
ついでに、大森さんに対して「子どもを産めばいい」という考えも、出産に対してナイーブになっていた私の心を刺激した。大森さんだって30代後半だ、普通に人間だし生物的に可能不可能もある。女性は何の選択もせずいつだって簡単に産めると思われているようで、悲しくなった。産まなくてもいいと言ってくれた人だったのに。メールで一言、「もういい、別れよ」。それから返信はなくなった。12年半の恋愛がぷつりと終わった瞬間だった。

別れてその後

これまで熟年離婚ってどうして起こるんだろうと思っていたのだけど、こうやって仲良く過ごしていてもある日突然終わることもあるんだなぁ…。
別れると自分で言っておきながら、本当に別れたのかどうか信じられなくて、文章にするまでに2か月以上がかかってしまった。しばらくは大森さんの音楽もつらくて聞けないくらいで、毎年行っていた生誕祭ライブも今年は参加を見送ったのだが、どうしても新アルバムの曲が聞きたくなり9月21日のリリースイベントに参加した。
3回しか直接話したことがない、認知もされていないファンの一人である私が突然「10年前大森さんを教えてくれた彼氏と別れて…」と泣き出してさぞびっくりさせてしまっただろうが、大森さんは「次いこ!」と抱きしめてくれた。

どの音楽を聴いても、どの本を読んでも、どんな映画を見ても、「Tさんはこれを知っているだろうか」「Tさんはどんな感想を持っただろうか」「Tさんに教えたい」そんなことばかり考えてしまう。そして改めて気付いた。自分の価値観がいかにTさん基準になっていたかを。何か悩み事があれば相談し解決を求めた。最近は自分で考えるようにもなったけど、「こういう相談をしたらこういう回答が返ってくるだろう」と結局Tさんならどう考えるかという考え方をして結論を出していた。でももう彼はいない。私に足りないのは自己信頼だった。一人で回らない寿司を食べに行っても、ちっとも自立できていなかった。

Tさんという最も大切なものを手放してから、もう何を手放すのも怖くなくなった。見栄、プライド、SNS映え、何も気にならなくなった。39歳、金なし職なし彼氏なし。いいじゃないか。年が明けたら、私は会社員という立場を手放す。ここから新しく自分の足で立つために、新たな世界に飛び込む。何もなくて身軽だからこそ飛び立てるというものだ。孔子曰く、四十にして不惑。私は四十にしてFUCKです。

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