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私たちはまだ恋をする準備が出来ていない #44 Satomi Side

アラサー・アラフォーが恋をしたくなる小説。
あらすじ:さとみ32歳、琉生25歳。内緒で社内恋愛中。それを知らずにさとみを口説いている志田潤が二人の関係に気付く。潤は琉生に片思いをしている由衣と結託して、自分と付き合えるように画策している。
※毎回1話完結なのでどこからでもお楽しみいただけます

ダイニングテーブルに置いたままのスマホが、LINEの通知で光った。

私は飛びつきそうになる自分を抑えつつ、あくまで不自然にならないように、気をつけながらスマホを開く。

「誰?」

ソファの前で寛いでいる流生が、映画が流れているテレビから目を離して尋ねてきた。

「あ、うん。会社の人だった」

琉生に何かを疑われているわけではないはずだ。普通の会話として尋ねられているだけだろう。

私は潤くんからのスタンプを確認して、そっとスマホを閉じた。

だがちょっと後ろめたい気持ちもあって、心がザワザワする。

別にやましいことは何もしていない。ただ同じ会社の人とLINEを交換しただけ。隠す理由もない。ただその相手が琉生の後輩なだけで。ただ、以前キスされそうになったということがあるだけで・・・・。

ただLINEを交換した件は、なんとなく二人の関係から、言わないほうが良さそうだと思って、言えなかった。

「そう」

琉生はテレビの方に顔を戻した。

ついこの前、琉生の“隠し事”を咎めたくせに、自分だってしてる。

いや、私は潤くんと付き合っているわけではないし・・・。

私は自分で矛盾点を突っ込み、それを自分で否定しているのを、さらに俯瞰して滑稽だな、と思った。

私はもう一度、潤くんのスタンプを確認し、何か送ろうかと思ったが、何も思いつかなかったので、やっぱり閉じた。

「さとみもこっちに来て見たら?これ、前に見てすごく面白かったんだよね」

琉生が缶ビールを持ったままの手で手招きをした。

「うん」

断る理由もないので、私はダイニングから、琉生の座るソファの横に移動した。一緒に映画を見るのなんて、久しぶりだ。

琉生が見ているのは、何年か前に流行ったハリウッドのアクションもの。CMはたくさん流れていたので覚えている。ただ15分くらい見続けて、離しを理解しようと試みたが、今ひとつ感情移入は出来なかった。

真剣に見ている琉生の横顔を見て、ただ、こういう映画が好きなんだなあ、と思うだけだ。

私は映画から遠ざかり、ぼんやりと潤くんのことを考えていた。

LINEを交換したときは、毎日矢継ぎ早に連絡が来たらどうしようと危惧していたのだが、実際は私が用件を送り、スタンプが返ってくるだけ。なので、拍子抜けだった。

さっきのLINEも昼間もらったお土産のお礼だった。

“お土産ありがとう。総務のみんなも喜んで食べてたよ”

に対して、犬が喜んでいるスタンプが返ってきただけ。

私もそんなにLINEを続けられる性分ではないので、いつもその一往復で終わる。

そう言えばいつも犬のスタンプだけど、自分が「ワンコ」って呼ばれてるからなのかなあ。しかもいろんなバリエーションがあるけど。

私は一生懸命犬のスタンプを探して、購入している潤くんを想像して、思わず笑ってしまった。

「え?何?今の笑うところ?」

琉生が驚いた顔でこっちを見た。映画の中では俳優が真剣な顔で会話しているシーンだった。

「あ、ごめん。ちょっと思い出し笑い」

「そっか」

さとみが珍しいな、と呟くと、琉生はまたテレビの画面に戻っていった。

横にいるのになんだか遠い。

結婚したら、こんなかんじなのだろうか。

おかしいなあ。結婚出来るかどうかを確かめるための同棲だったはずなのに。同棲しよう、と言った時より心が離れているかんじがした。

琉生がふいに肩を抱いてきた。私は心が見透かされたのかと思って心臓が飛び出しそうになった。

そっと琉生を見るが、相変わらず映画に釘付けで、無意識というか普段どおりで抱き寄せたけなんだろう。

私も不自然にならないように、琉生に体を預けた。

琉生が私の頭を撫ではじめた。目はテレビに流れる映画に向かったままだ。

琉生のしなやかな指は、私の髪の感触を確かめるように、梳いたり撫でたりしている。

元カレはこんな風に触れる人ではなかったので、自然にこんなことが出来てしまう琉生に驚くと同時にときめいたのだが。

今は当たり前になってしまって、何も感じない。

それどころか、由衣さんの一件の罪滅ぼしなのかなと思ってしまう自分が嫌になった。

「琉生」

「ん?」

「同棲の期限、決めてなかったね」

「あ、うん」

「決めようか。いついつまで、一緒に暮らせたら結婚するって」

「ああ、うん。いつ、にする?」

琉生がクライマックスにさしかかった映画から目を逸してこちらを向いた。

私はタイミングが悪かったことを、心で詫びた。

思いつきで言ってしまったので、いつ、と聞かれても答えがすぐ出せなかった。

1年くらいだろうか、それとも2年?自分が考えている時間が長いのか、妥当なのか、それとも短すぎるのか、検討がつかなかった。

「半年。今から半年にしよう。そしたら付き合って1年だし。ちょうどいいんじゃない?」

琉生から提案された期間があまりに短くて、びっくりした。

「半年って短くない?」

「そうかな。それ以上一緒に住んでどうするの?季節が一巡すれば十分じゃない?」

琉生の意見に反論したかったが、明確な理由が出てこず、断念した。半年は短い気がする。確かに、入籍するかしないかの差で、2年3年一緒に住むくらいなら、結婚しても同じなのかもしれない。

「俺は今すぐでもいいんだけど」

琉生は自然な流れで私の唇に自分の唇を重ねた。

「半年経ったら結婚しよう」

「ん」

琉生がもう一度唇を重ねてきた。そのままソファに押し倒される。

今のはプロポーズになるのかな?

私は映画のエンドロールが流れる中、琉生の重みを感じながら、ぼんやりと考えていた。


*** 次回は3月17日(水)15時頃更新予定です ***


雨宮より(?)あとがき:今回、後半が行き詰まってしまい、懐かしの光先輩(総務でさとみの先輩、産休中)を出してみたところ、逆に話が盛り上がってしまい、書きすぎたので #47  に移動しました(笑)来週月曜日を楽しみにしていてください。

ところで、週末、急にフォロワーさんが増えて驚いています。金曜日まで17人くらいだったのに、66人になってる。。。なにがあったんだろう?にしてもありがたいことです。今後とも宜しくお願いします。


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