私たちはまだ恋をする準備が出来ていない #52 Jun Side
アラサー・アラフォーが恋をしたくなる小説。
あらすじ:さとみ32歳、琉生25歳。内緒で社内恋愛中。それを知らずにさとみを口説いている志田潤が二人の関係に気付く。潤は琉生に片思いをしている由衣と結託して、自分と付き合えるように画策している。
※毎回1話完結なのでどこからでもお楽しみいただけます
シャワーの音で目が覚めた。
時計は8時半。結構寝たな。日曜日だから、普段ならもう少しゆっくりしていられるけど。俺は由衣さんを家に送り届けなければいけない。
ベッドから起き上がると、机に載っている由衣さんのスマホが1回鳴って切れた。
LINEの通知が光っている。相手は斎藤部長だった。
「由衣さーん。LINEー!」
狭いワンルームの部屋で声を張り上げているが、ザーッというシャワーの音しか聞こえない。俺は仕方なく浴室まで行って、ドアを叩いた。
「由衣さん、斎藤部長からLINE」
10センチくらいドアが開いて、由衣さんがびしょ濡れの身体を現した。
「は?置いといてよ、そんなの」
「仕事の話じゃないの?休みの日に」
「違うわよ。プライベート」
「あー、そう」
由衣さんがバンとドアを閉め、またシャワーの音が聞こえ始めた。
斎藤部長とプライベート。よくわかんないけど、あんまりよくない関係なんじゃ・・・。ていうか、由衣さん、琉生さんのことが好きだったんじゃないの。
いろんな憶測が浮かぶが、まあ、俺には関係ないし。
俺は昨夜のことを思い出していた。
昨夜は合コンの後、由衣さんとは同じ路線なので、駅まで一緒に歩いていった。乗る電車は、反対方向。
ヤマダ氏やカナコさんとは店前で別れたので、あの4人がどうなったかはわからない。
改札を通る前に、由衣さんが不意に立ち止まった。
「どうしました?」
「気持ちわる・・い・・・」
由衣さんの顔を見ると青白い。いつも怒っているような顔の由衣さんが、生気ない表情で、俺もヤバいと感じた。
「えっとお。あんな短時間にめちゃくちゃ飲むからですよ」
無言でよろめく由衣さんを支える俺。容赦なく体重がかかってくる。
「気安いメンバーだったから・・・つい・・・」
由衣さんがしゃがみ込む。
「え?どうしよ、吐く?トイレ行きます?」
「む・・・り・・・」
死にそうな由衣さんをトイレに連れていき、なんとか介抱。出すべきものは一通り出させたものの、1人で帰せる状態ではなかった。
「由衣さーん、由衣さんちわかんないから、俺んち連れて帰りますよ。いいですか?」
「う・・・・」
意識もあるんだかないんだかわからない。俺は仕方なく、駅の改札からもう一度ロータリーに戻って、タクシーを捕まえた。
***
タオルで髪の毛を拭きながら、由衣さんが浴室から出てきた。
「ねー、ドライヤーない?洗面所にあったやつ、風量弱い」
「あ、元カノが置いてったやつ、多分洗面所の下の収納にあります。適当に使ってください」
「じゃ、借りるわ」
そういうと由衣さんはまた洗面所に戻っていった。グオーというドライヤーの音が10分くらい鳴り響いていた。
次に由衣さんが戻ってきた時には、化粧も済んですっかり“いつもの由衣さん”だった。
「お腹空いた。なんか食べにいかない?」
由衣さんがスマホをチェックしながら言う。
「もちろん由衣さんの奢りですよね?」
「ええ?!なんで?自分の分は自分で払いなさいよ」
「なんでって。介抱してもらって、さらに抱いた男にエサやらないって道理が通りませんね」
むくれる由衣さんの真似をして、俺もむくれた。
「昨日のこと、あんま覚えてないし」
由衣さんが先に目を逸らした。
「昨日、ベッドで志田ぁあってめっちゃ甘えてきたのはどこの誰でし・・・」
「ああっ。もーわかった。朝マックだったら奢る。それでチャラ。それ以上言うな!」
俺にかぶせて由衣さんが怒鳴る。
あー、よかった。いつもの由衣さんだわ。
俺らは駅前のマクドナルドに向かった。
「好きなもん頼んだら。私はエッグマフィンのセット、コーヒーで」
「あー、じゃあ、俺も同じので。あと単品でフィレオフィッシュとナゲットつけてください」
「奢りだからって頼みすぎ」
由衣さんが千円札を二枚出しながら言った。
「え?ふつーでしょ」
店員のお姉さんがテキパキと用意してくれたバーガーとドリンクを受け取ると、すぐ近くの席に向かい合って食べ始めた。
食べてる間、由衣さんはスマホをいじっている。俺は気になっていることを聞いてみた。
「昨日のこと、ホントに覚えてないです?」
「・・・あんたの記憶から消して。酔っていたとはいえ、失態だったわ」
“失態”が酔っ払って嘔吐したことを指すのか、俺とヤッたことを指すのかはよくわからなかった。
「それって、吐いたことかセックスかどっちの・・・」
「両方よっ、“両方”!!」
「はーい・・・」
いろいろ察して、俺はそれ以上詮索しなかった。人恋しくなる時もあるよね。ただ俺はもう1つ気になってたことがあるので、訊くことにした。
「さっきの斎藤部長とのプライベートっていうのは・・・」
「そーよ、あんた。人のスマホ見るとか、最低。机に放ってあっても、見ないのがマナーじゃない?」
そんな、逆切れされても。仕方ない。俺もこの件はどうしても知りたいので由衣さんを脅迫することにした。
「言わないと、昨日いかに由衣さんが可愛かったか、琉生さんに言いますよ?!」
「お前ッ・・・そんなことあいつに言ったらマジで殺すっ」
由衣さんのパンチが飛んできたが、俺もだいぶ慣れてきたので、ひょいとかわすことができた。
「えっと・・・斎藤部長とは不倫ですか?」
「直球ね~。さわやかな朝のファストフード店で話すことじゃない」
由衣さんは声のトーンを落とした。
「別にお互い本気じゃないわよ。遊び。セフレ」
「よかった、パパ活じゃなくて・・・」
俺は安堵しながら呟いた。若干その可能性もあり?と思っていたからだ。
「由衣さん、琉生さんに片思いしてるんだったら、そーゆーことしないほうがいいですよ」
差し出がましいが、俺は由衣さんも琉生さんも好きだし、俺とさとみさんが付き合うためにも絶対この二人にくっついてほしいので忠告した。
「だって、男いなかったら暇じゃん。相手が了承してたら、いいでしょ。大人なんだから」
がぶりとマフィンを頬張ると、由衣さんはそれをコーヒーで流し込む。相変わらず豪快な人だ。
「そ、そーゆー、感覚?」
「酔いつぶれた女、家に連れ込んでヤッちゃうあんたに言われたくないねー」
「それはー、由衣さんがしたそうだったからー。“そう”いう感じになって、拒否したら、女の子のほうが不機嫌になるじゃないですかあ」
「あ、あの、すいません・・・お客様」
大声を上げ合う俺らに、割って入ったのは店員さんだった。
「他のお客様もいらっしゃるので、もうちょっと声のトーンを・・・」
そういわれて周りを見渡すと、小さい子供を連れた家族連れやカップルが、じろじろこっちを見ていた。
「す、すいません」
俺と由衣さんは真っ赤になって、そそくさと食べることに専念した。
「家じゃないんだから、あんな下世話な話題、振らないでよ」
「だって気になるじゃないですかあ」
俺らはマクドナルドを後にすると、駅へ向かった。
「合コンには数合わせで付き合ってくれてありがと。多分あの子たちも楽しんでたし、それはお礼言っておく」
「いえいえ、こちらこそ、皆さんイイ人だったので」
俺はペコリと頭を下げた。
「で、昨日のことは、ほんと、忘れて。“両方”よ、“両方”!あと琉生に言ったらマジで殺すし、斎藤部長のことも他言無用」
「朝マック奢ってもらったので、忠誠を誓います」
「桃太郎の犬か、お前は。・・・じゃ」
最後、由衣さんが笑ってくれたので、俺の見送りはここまでにすることにした。
*** 次回更新は4月5日(月)15時ごろの予定です ***
雨宮より(あとがき):由衣が自分の若かれし頃にかぶります、いろいろ・・・。酔った失態、多かったなあ。
そういえば、志尊淳くんが入院されたそうで、めちゃくちゃ心配してます。悲しい・・・。
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