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私たちはまだ恋をする準備が出来ていない #103 Satomi Side
毎回1話完結の恋愛小説。下のあらすじを読んだら、どの回からでもお楽しみいただけます。
あらすじ:さとみ32歳、琉生25歳は社内恋愛中。琉生の後輩、志田潤はさとみに片思い。さとみと琉生は結婚を前提に同棲を始める。小さなケンカやすれ違い、違和感を感じつつも、どうすり合わせていくのかを模索している。そんな中、潤が仕組んだいくつかのことをきっかけに、潤はさとみとの距離を縮めていく。
▼時間軸としてはこちらの後になります
琉生が今日も出張なので、潤くんとご飯に来た。オシャレなイタリアンのお店は、ビルの最上階にあった。
ガラスが張り巡らされた店内からは、ビル群が見渡せる。
周りはほとんど恋人同士とおぼしき人たちばかりだ。
料理が来たタイミングで、私は尋ねた。
「ねえ、潤くん、私たちの“友達”って成立してる?」
「え?」
潤くんがきょとんとしている。私も、そう返されて、逆に慌ててしまった。
「ご、ごめん。唐突に。でも気になってたの・・・」
「友達になりたいっていったのは、私からだけど・・・考えてみたら潤くんが私に好意を持ってくれているのをわかってるのに、それって成立しないんじゃないかと思って」
「友達に“成立”とかあります?」
潤くんが笑う。
「だって、仕事みたいに、契約!とかそーゆーモンじゃないですよね。恋人・・・ではなく、こうやってたまにご飯行ったりして、これって友達じゃないですか?」
「そ。そうかあ」
「潤くんはそれで・・・いいの?」
ぷっと潤くんが吹き出す。
「よくないですよ」
笑いが堪えられないようで、潤くんがケラケラと笑い出した。
「よくないですけど、じゃあさとみさんは友達から恋人に昇格させてくれるんですか?」
「そ・・・それは・・・」
私は飲みかけたグラスを持って、静止した。
「この前焦ってるって言いましたし、それは本当ですけど、だからって無理矢理自分のモノにしようとか思ってないので安心してください」
「う・・・うん・・・変なこと聞いて、ごめん・・・」
喋りながらも、潤くんの前菜が半分以上減っていることに気が付き、私は慌てて食べ始めた。
「さとみさんて本当にしょーもないこと、気にする人ですよね」
私の欠点を、わざと笑えるような言い方で言ってくれている潤くんは、優しい。
「いろんな人にそう言われる・・・」
「そういう所も可愛くて好きなんですけど」
「・・・・・・・」
「今朝、もう少しさとみさんの気持ちと彼氏さんに向き合ってみるって言ってましたけど、向き合うってどういうことですか」
「え?・・・た、例えば・・・よく考えてみる、とか」
「考えてもなんか変わります?だってずっと考えているでしょう」
言われてみればそうだ。
琉生と自分の事、考えていなかった日なんてほとんどない。近頃はずっとそればかりだ。
「考えてるだけじゃ答えってでないと思いますよ。何か行動を変えないと」
「行動・・・」
「例えば、同棲を始めたけどしっくりこないんだったら、もう一度別々になってみるとか」
「えっ」
「それはまー、例えですけど。要は結婚してほしいって言われて、踏み切れないってことですよね」
「うん」
「であれば、やっぱり朝も言ったんですけど、もう少し時間が必要だと思うんですよ。じゃあ、仮に彼氏さんと結婚するとなって、どうしたらすっきり結婚できるんですかね」
「いろいろ、クリアになったら」
潤くんはいつも的確でまっすぐに、私の核心を突いてくる。
「クリアって何がですか?」
私はモヤモヤしていることを、上手く言葉に出来ない。自分の中でしっくりくる言葉を探しているのだが、見つからない。
「私の・・・気持ち、かな」
「気持ちの何がクリアになってないんですかね」
「彼を・・・」
私は次の句を潤くんに言うべきなのか、わからなくて一瞬止まった。けど、潤くんは行動を変えなきゃ、って言ったので言うことにした。
「彼を、好きだっていう気持ち」
潤くんは少し黙っていて、それからゆっくり口を開いた。
「彼氏さんのこと、好きかどうか曖昧ってことですかね」
「うん」
「そもそも告白されて・・・かなり真剣に、何回も言ってくれたから・・・そこまで言ってくれるなら・・・っていう感じで付き合い始めたんだけど、そこに、私が好きだったか、という確信がないの」
「なるほど。言われたから付き合った、みたいな」
「うん。自分が本当に彼のことを好きなのか、付き合ってほしいって言われたから付き合っているのか、よくわからない」
「でも別に嫌いとかイヤっていうわけじゃないんですよね」
私はそこでどう返事をしていいか、また迷ってしまった。
琉生のこと・・・嫌い、ではない。優しいし、かっこいいとも思う。全然知らない男の子よりかは、全然好きなほうだと思う。
でも結婚して、一生一緒に居たいかと言われたら・・・わからない。
「いつもそこで思考が止まっちゃうの」
「正解なんてないんじゃないんですか」
潤くんがふわっと笑う。
「さっきも“成立”とか言ってましたけど、人の気持ちなんて、そんなにしっかり割り切れるわけじゃないですよね。曖昧なところもあるし、言葉で説明しきれないところもある。今、彼氏さんと幸せっだったら、それでいいんじゃないですか」
潤くんは、本当にいつも優しい。私を安心させてくれる。
「そっか。そうだよね。ありがとう」
私はほっとして、再び、目の前の料理を食べ始めた。
「って、俺が彼氏さんに塩を送るようなことをしても、無意味なんですけどねーっ」
潤くんは大げさに頭を抱えるふりをした。
「もう一杯どうですか?」
私のグラスのワインが少なくなっていることに気が付き、潤くんがワインを注いでくれた。
「ありがとう」
私はニコニコしている潤くんを見て、本当に犬みたいで癒されるな、と思った。
*** 次回は8月2日(月)15時ごろ更新予定です ***
雨宮よりあとがき:毎日暑いですね。脳が働いていません・・・今週もバタバタと過ぎ去っていきました。来週はゆっくり味わって書きたいです!
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