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私たちはまだ恋をする準備が出来ていない #17 Satomi side

アラサー・アラフォーが恋をしたくなる小説。
あらすじ:さとみ32歳、琉生25歳。内緒で社内恋愛中。後輩の志田潤が出てきて波乱の予感。営業部の部長斎藤はそんな3人をほほえましく見ている。
※毎回1話完結なのでどこからでもお楽しみいただけます

「さっとみさーん、回覧返しにきたよー」

う・・・志田くんの声・・・。

「ほら、ワンコくん来たよ」

ヨシダさんに促されるので、私は仕方なくパーテーションから顔を出した。

琉生が志田くんを苦手って言ってた意味が、ちょっと分かってきた。

「これ、別に私じゃなくてもいいんだよ?あと、誰も居なかったらそこのケースに置いといてくれたらいいんだし」

「えー、でも俺さとみさんに会いに来てるしなあ」

なんか、すっごい既視感。思い返せば、琉生も最初こんな風だった気がする。

「えっと・・・」

私は引き出しを開けて、個包装されたチョコレートをひとつ出した。

「お疲れさま」

「わー!チョコ!」

無邪気に喜ぶ志田くんは、見てるだけなら可愛い。だけど、なんか餌付けしてる気分にもなる。

最初はたまたまお土産でもらったお菓子があったから、渡しただけなんだけど。

「じゃあ!また来ます!」

笑顔で手を振りながら帰っていく志田くんに、私も手を振った。

「あ」

何かを思い出したように、志田くんが戻ってくる。

「今日、聞きたいことがあったんですよ」

カウンターからぐいっと身を乗り出す志田くんに、思わず後ずさりしてしまった。

なんだろう?なんか年明けに提出してもらう書類、あったかな。と私が1秒くらい考えている間に思いもよらぬ質問が飛んできた。

「さとみさんって彼氏いるんすか」

「え?!」

予想外すぎる質問に言葉に詰まってしまい、次の瞬間顔が赤くなるのが、自分でもわかった。

「い・・・います」

どういう意図で聞いてきたのか分からないけど、琉生と同じ部署にいるということもあるから変なごまかしをするより、正直に言ったほうがいいと思った。

「あー・・・やっぱそーっすよねー」

誰、と聞かれたらどう答えようかと思っていたが、志田くんはそれ以上詮索しなかった。

しばし無言の時間が流れる。

「サーセン!また来まーす!!」

再び笑顔になって、志田くんが帰っていった。

「ワンコくん、気にしてないと思うよ」

一連のやり取りを聞いていたヨシダさんが言う。

私もそんな気はする。

「多少は気にしてほしいです・・・」

私は本音を漏らした。

***

「はあ?やっぱ言いに来たわけ、あいつ。つーか聞くって言ってたけど」

日中の出来事を琉生にLINEをしたら、案の定、激怒した返信がきた。

「ちゃんと彼氏いるって言っておいたから」

「俺って言った?」

「それは言ってない」

「まー・・・しゃーないか」

「誰とは聞かれなかった」

「うん」

やっぱり社内恋愛で、隠しておくっていろいろ難しいな。

隠しておくことが難しいのか、社内恋愛が難しいのか。

ただ、やっぱり光先輩と斎藤部長が噂になってたときのことを思い出すと、とてもじゃないけど周りには言えない。

「やっぱ、一緒に住むタイミングで、誰かに言った方がよくない?」

私と真逆の考えの琉生は、全然違う提案をしてくる。

「誰かに言ったら、勝手に噂になるっしょ」

「だからーそれが嫌なの!」

“りょーかい”というふざけた顔の猫のスタンプが返ってきた。

琉生とのLINEはそこで途切れた。

不機嫌になっているかもしれない。けど、ここは曲げられないところなので、私もそのままにした。

*** 次回更新は1月13日(水)15時の予定です ***


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