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私たちはまだ恋をする準備が出来ていない #43 Jun Side

アラサー・アラフォーが恋をしたくなる小説。
あらすじ:さとみ32歳、琉生25歳。内緒で社内恋愛中。それを知らずにさとみを口説いている志田潤が二人の関係に気付く。潤は琉生に片思いをしている由衣と結託して、自分と付き合えるように画策している。
※毎回1話完結なのでどこからでもお楽しみいただけます

深夜にLINEが届いた。

「昨日はありがとう。家に帰ってます」

さとみさんからだ。

俺はすぐさま、自分のLINEから、ピースをしている犬のスタンプを送った。

あんまり文字を送るのは得意じゃないので、ついついスタンプで済ませてしまうのだが、さとみさんとLINEを交換できたのは、大進歩だ。

「家に帰ったら、LINEくださいね」

「う、うん・・・じゃあ・・・」

会社の近くのビジネスホテルに送っていった時、さとみさんがスマホを取り出してくれた。

俺は嬉しくて、しばらくさとみさんからの「昨日はありがとう。家に帰ってます」のLINE画面を見続けていた。俺が送ったスタンプが既読になるのを確かめてから、画面を閉じた。

***

週が明けてから、俺は総務への日参を再開した。

「さーとーみさーん」

「あ、志・・・潤くん、おはよう」

俺は小さくガッツポーズをした。

「そんなに?」

「そーですよー。苗字と下の名前じゃ距離感が違うんで」

しつこく下の名前で呼んでもらうように懇願し、今やっと呼んでもらえたのだ。

ちょっと、2,3週間前からだいぶ関係性縮まってない?

とにかくさとみさんのようなタイプは時間をかけて関係を構築していかなきゃいけないということが分かったので、焦らないことにしたのだ。

「これ、出張先のお土産です。総務の皆さんで召し上がってください」

俺は昨日行った先で買ったお菓子をさとみさんに手渡した。

「わあ、ありがとう!おやつの時にいただくね」

いつもさとみさんにお菓子をもらいっぱなしなので、たまにはこういうこともしないと。ふと視線を感じるので、横を見ると、少し離れたところでヨシダさんがニコニコ見ていた。

俺、絶対ヨシダさんは味方だと思う。

「ヨシダさんも、ぜひー」

俺はヨシダさんに向かって声を掛けた。

「おー、ありがとねー、ワンコくん」

ヨシダさんが手を振ってくれたので、俺も振り返した。

「じゃ、また来ます!」

俺はさとみさんにも手を振って総務から離れた。

さとみさんも笑顔で手を振ってくれている。

よし、今日のノルマ完了。ウキウキして歩いていると、後ろから声を掛けられた。

「ちょっと」

振り返ると琉生さんだった。

「琉生さん!」

琉生さんから俺に声掛けてもらえることなんてめったにない。

俺はしっぽを振る代わりに全力の笑顔で、琉生さんに応じた。

「今、話せる?」

「あ、はい。全然」

うーん、やっぱりさとみさんのことかなあー。

俺は琉生さんに促されるまま、人気のない廊下の隅に行った。

「この前の水曜日にさあ、佐倉さんとホテル行ったの見たって聞いたんだけど・・・」

由衣さんが琉生さんに言ってくれたんだろうな。

由衣さんナイス過ぎる。俺は琉生さんを先輩として超尊敬しているが、恋のライバルでもある。ので、ここはうまくやらないといけないなと直感が働いた。

「えー、誰に聞いたんですか?」

俺はとぼけて、返した。

「ゆ・・・井川さんだよ、デザイン部の」

「井川さんて誰ですか?」

「井川由衣だよ、い・か・わ、ゆ・い。お前がいっつも仲良くしてる!!」

「あー、えー、そーですかあ。見られちゃってたのかあ」

実際由衣さんは見たわけじゃなくて、さとみさんをビジネスホテルに送っていったことを報告しただけなのだが。いい具合に琉生さんが勘違いするように仕向けてくれたわけだ。

「なに、お前。佐倉さんとどういう関係?」

「それ、琉生さんに言う必要あります?」

上から目線すぎる言い方に、俺もちょっとカチンときて、言い方がキツくなってしまった。琉生さんとは言え、ちょっと舐められすぎかと思ったので、ちょうどいい機会だと思った。

「べ、別に言う必要ないけど。雑談だよ雑談。お前、ちょっと前に彼女と別れたって聞いたから・・・」

「さとみさんに訊いてみたらどうですか?」

「聞けないから、お前に聞いてるんだろ」

「なんで聞けないんですか?」

俺はニヤニヤしてしまうのを抑えつつ、琉生さんに尋ねた。

俺が二人の関係に気付いていることは、まだ二人にバレていないようだ。

「・・・・・・・もう、いい」

琉生さんは、踵を返して、行ってしまった。

***

「と、言うわけなのです。ありがとうございました」

俺は前回さとみさんと来たファミレスに、仕事終わりの由衣さんといた。

昼間の件を由衣さんにも報告して、お礼を言っておこうと思ったのだ。

「性格わっる」

由衣さんはまたビールを煽ると、一緒に頼んでいたパスタを食べ始めた。

「あんたみたいなかわいい顔した策士、すんごいコワい」

「由衣さんだって美人なのに性格悪いじゃないですか」

「は?なんだと?」

パスタを巻いていたフォークを止め、由衣さんが顔を歪ませる。

「ほらー、もう。そういう言い方~」

俺はほとほと呆れながら由衣さんを見た。

「こういう性格なんだからしょうがないでしょ」

「そんなんじゃ、いつまで経っても琉生さん奪えませんよ」

「琉生の前だったら、もう少し大人しくしてるもん」

由衣さんは空になったジョッキを置くと、自分で店員さんを呼んでもう一杯頼んだ。

「大人しくとかいう問題じゃなくて、上品にね。さとみさんみたいに」

俺がたしなめると、また由衣さんはいや~な表情でこっちを睨んだ。

「うるさいなーもう。あの女の名前出さないでよ」

「いや、ダメです。ライバルはさとみさん。自覚してください。琉生さんがぞっこんなのもさとみさん。だけど、由衣さんと琉生さんがヨリ戻してくれないと、俺も困るんですよ」

「はいはい。上品に振舞えばいいんでしょ」

「そうです。俺、さとみさんと出会ってなかったら、絶対由衣さんに行ってますもん。それくらい美人なんで、自信持ってください」

俺はとびきりの笑顔で由衣さんに言った。

「な、によ。あんたに言われても嬉しくないんだからね」

言葉とは裏腹に顔を赤くして由衣さんがうつむく。

俺はそんな由衣さんは眼中にない。早くさとみさんと付き合いたいなあ、と思いながら、暗くなるのが遅くなってきた夕暮れの街並みを眺めていた。

***次回は3月15日(月)15時ごろ更新予定です ***

雨宮より(あとがき):ほんとはもうちょっと潤と由衣の関係を深めようかと思ったんですが、今回はやめておきました。

今日、矛盾がないかなーと思って再度1話から読み返してたんですが、だいぶキャラが自然になってきて、よきよき。と思っております。

1話完結といっても、話は続いているので、お時間ある時にぜひ1話から読んでいただけたら幸いです。5分に1回は胸キュンするドラマ!のように書いていけたらいいなーと。

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