私たちはまだ恋をする準備が出来ていない #20 Satomi side
アラサー・アラフォーが恋をしたくなる小説。
あらすじ:さとみ32歳、琉生25歳。内緒で社内恋愛中。来月からの同棲の準備中。そんな中、後輩の志田潤が出てきて波乱の予感。
※毎回1話完結なのでどこからでもお楽しみいただけます
自分の部屋に琉生の荷物が増える度に、自分が塗り替わっていくような感じがする。
二年前に元カレに振られてから、止まっていた時間。時間が動き出すというよりは、新しい自分になっていくようなイメージ。
「わがままかもしれないんだけど、一個だけお願いがある」
週末、琉生が改まって切り出した。居心地が悪そうな困った顔をしているので、私のほうも身構える。
「なに?」
「処分費も新しいのも俺が出すから、ベッドだけ替えさせて」
懇願、という感じの琉生を見て、私の胸が痛む。それは私が早く切り出さなければいけないことだった。
「あ・・・うん。ていうか、それは私も出すよ」
いや、自分自身、琉生が泊まっていくたびに、元カレと使っていたベッドを使うのはどうかと思っていた。かといって易々と買い替えられるものでもなく、なんとなくうやむうやに気づかないフリをしていたのだ。
「いや、なんか、気にしないふりしてたんだけど、やっぱ一緒に住むなら毎日使うものだし・・・なんか・・・ちょっと嫌だなと思って」
気まずそうに琉生が言う。
「ううん、私のほうこそ、ごめん」
「いや、さとみが謝る事じゃないし」
琉生がへへっと苦笑した。
琉生はすごいな。自分の嫌なこととか、ちゃんと言えるし。私は相手がどう思うかを考えすぎて、結局言えないまま、うやむやにしてしまう。
「さとみもさあ、なんか俺に言っておくこととかあれば、遠慮なく言って。前の・・・その・・・教訓というか、こーゆー事はヤダとかがあれば」
琉生が言わんとしていることはわかる。
「うーん・・・特にないかな」
「そう?毎日この家事はやってほしいとか。俺、全然わかんないから、言って!洗濯物干すとか畳むとか、ゴミ出しとか」
私は琉生が洗濯物を畳む姿を想像して、思わず笑ってしまった。
「や、洗濯物は下着とかあるから、いいや。ゴミ出しは・・・重いからやってもらえると助かるかな」
「オッケー。ほかにも出てきたら言って。料理は・・・前も言ったけど、手伝うところから頑張る」
「うん。あ・・・」
琉生にお願いしたいこと、一個だけあった。
「お願いごとって抽象的なことでもいい?」
「もちろん。意味わかんなかったらちゃんと訊く」
元カレとのことを思い出していた。だけど、言い方に悩む。
「・・・隠し事、なしで」
琉生は笑った。
「オッケー」
琉生も元カレとの別れ方は知っている。半年くらい二股を掛けられていて、結局は向こうが出ていったのだ。
「でもそれ、さとみも一緒な」
「隠し事なんてしてないよ」
私にはちょっと心外な言い方だったので、むっとした顔をしてしまった。
「違う違う。浮気の心配とかじゃなくて。時々、なんか言いたそうなのに、飲み込んでるのかなって思う時あるから。なんでもちゃんと言って」
琉生が見透かすように言った。
「善処します・・・」
敵わないなあ、琉生には。年下なのになんでこんなに気が回るんだろう。
でもそこが私にはないところで、惹かれるんだろうなあと思った。
このまま元カレのことも忘れていけるといいな。古くなった壁を鮮やかなペンキで塗り替えるように。
*** 次回は1月20日(水)更新予定です ***
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