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私たちはまだ恋をする準備ができていない #42 Ryusei Side

アラサー・アラフォーが恋をしたくなる小説。
あらすじ:さとみ32歳、琉生25歳。内緒で社内恋愛中。琉生の後輩、志田はさとみに片思いをしており、琉生の元カノ由衣と、二人を別れさせようと画策中。
※毎回1話完結なのでどこからでもお楽しみいただけます

さとみに由衣のことを聞かれたら、どう答えようか。

いろいろなパターンを想像して準備していたが、結局ほとんど何も聞かれなかった。

咎められたのは、付き合っていた過去を隠していたということだけ。

自分からもっと説明したほうがいいのか?とも考えたけど、さとみがそれを求めているようにも感じなかったので、あの日謝って、その件はそれっきりだった。

もちろん、最悪このまま別れることになるかもしれないと考えていたので、それは回避できてほっとした。

俺は気になっていたことを訊いた。

「一晩、どうしてたの?友達といた?」

「・・・・・・」

「ネカフェとかにいた?」

「ううん、違うけど」

頑なに言わないさとみに若干苛立ちを感じつつも、軽く仕返しされているんだと理解した。

確かに、隠し事をされていると思うと、気持ち悪い感じがした。ただ今はそれを罰だと思って受け止めるしかないと思った。

答えてもらえないことを、何度も聞いても仕方ない。

それからは、いつも通りの日々だった。

相変わらずご飯は作ってくれるし、スキンシップもある。同棲前からの普通の日々。だけど、どこか見えないところに小さな棘が刺さっているような違和感がずっとある。

「今度の週末、旅行にでもいかない?一泊で」

世間の自粛ムードもなし崩しになってきているし、毎週、家かせいぜい近場の買い物程度で過ごすのにも飽きてきた。

今の二人に漂う、よくわからない重い雰囲気も解消できるんじゃないかと思っての提案だった。

俺は食後の食器を洗いつつ、さとみに聞いた。さとみは手際よく皿を拭いて、重ねていっている。

「いいよ。琉生はどこに行きたい?」

一緒に夕飯の片づけをするのも、だいぶ慣れてきた。

「さとみの行きたいところ行こう。どこがいい?」

「うーん、せっかく遠出するなら、自然があるところかなあ」

ちょっと考えてから、さとみが漠然とした希望を述べる。

「海と山だったら、どっち?」

「その二択だったら、海、かな」

「オッケー、宿と車、手配しておく」

さとみが最後の皿を拭き終えたのを見計らい、俺はそれらを食器棚にしまった。

「こうしてると、ほんと夫婦みたいだな」

俺は、何気なく言った言葉だった。しかしその返事はそっけないものだった。

「そう?」

「え、そうじゃない?」

俺の言葉に続く返事は、そうだね、だと思っていたので、俺のほうが変な間で返事をしてしまった。

さとみの短い返事。やっぱり棘があるように感じた。前までだったら「そうだね」と返していたんじゃないだろうか。

それとも俺が考えすぎなのか。

どちらにしろ、結果的にさとみを傷つけてしまったのは事実だ。罰は受けとめるしかない。しばらくはこのままかもしれないと思いつつ、俺はその話もやめることにした。

***

「久しぶり」

今一番会いたくない人物、由衣が営業部に顔を出した。

「そんな嫌そうな顔しないでよ」

「してねーよ。仕事は仕事だろ」

と言っても、多分顔には正直に出ているんだろう。由衣は気にせず話を進めてきた。

「こっちだって仕事で来てるんだから。この前斎藤部長に借りた資料、返しといて」

「はいよ」

俺は由衣から分厚い資料のファイルを数冊受け取った。

「女子がこんな重たいもの持ってきたっていうのに、労いの言葉もないの」

由衣が顔をしかめた。露骨にそういう不機嫌な顔をしなければ、可愛いのに。

「俺が頼んだんじゃねーもん。・・・ほら」

俺は仕方なく引き出しからガムを一個出して、渡した。

「もうちょっといいもの欲しいなあ」

由衣はそう言いつつも、ガムを受け取る。

「例えば?」

由衣は回りに人がまばらなのを確認して、顔を寄せてきた。

「その後、どう?彼女と」

そういう“いいもの”か。俺は察したものの、どうにもならないので冷たくあしらった。

「別に。フツーだけど?」

いや、厳密にいえば日々若干の不安はある。が、それを由衣に言っても付け入られるだけだ。

「つまんないの。もっと二人ともズタボロになるかと思ったのに」

「あんな話くらいでなるかよ」

「彼女さん、めちゃくちゃ泣いてたっぽいし、あの後、何でか知らないけどワンコくんが慰めてたって聞いたから、てっきり別れるのかと思った」

ふふん、という感じで由衣が言う。

「は?ワンコって・・・志田?」

ズキっと心臓に何かを刺されたような痛みを感じた。

「うん。私はワンコくんから聞いたけど」

「・・・・・・」

さとみがあの日のことを頑なに言わないこと。気にしないようにしていたが・・・。それが本当なら・・・。いや、さとみに限って、志田と一晩過ごしたっていうことはないだろう。

「会社ですれ違ったから、とか、そんなもんだろ」

俺は無理矢理声を絞り出した。今すぐにでも志田を問い詰めたいが、今日に限って、クライアント先に行っていて、直帰の予定になっている。

「え、でも二人でホテル行ったって聞いたけど」

「はあ?」

思わず立ち上がりそうになった俺は、なんとかそれを堪えた。遠くで別なスタッフがこっちを向いた。俺はなんでもないです、という風に手を振った。

「聞いてないの?」

由衣がニヤニヤしている。

「あー、そうだよねえ。さすがに彼氏に言うわけないかあ。すごいなー、さとみさん、そんなことあってもそのまま彼氏と住めちゃうんだ。ごめんね、訊きたくないこと聞かせてたら」

「お前が言うことは信じてないし」

俺は冷静を装って、言ったが、最後の語尾は震えていたかもしれない。

「いいよ。じゃあ。明日ワンコくんに確かめてみればいいじゃん」

由衣はさっき渡したガムをポイっと口に放り込むと、自分の部署に戻っていった。

言われなくても確かめるわ。

俺はさとみに聞くべきか、志田に聞いてからそれを判断するか、迷っていた。


*** 次回は3月12日(金)15時ごろ更新予定です ***

雨宮より(あとがき):こんにちは。完全に潤贔屓なので、琉生に不幸になれーと思っている雨宮です(おい)。今日は午前中かなり時間があったのに、普通に仕事に没頭していて更新し忘れてました。いや、それが普通ですね・・・。

ただこの連載は少なくとも登場人物を少しずつ混ぜつつ(斎藤部長のターンとかあるぜ)12月ごろまで続けていこうと思うので、気長に読んでいただけたら嬉しいです。

個人的に今回気に入っている(言われたい)セリフ「さとみの行きたいところ行こう。どこがいい?」ですねー。もう今じゃ子供優先の生活ですから。潤みたいななつっこい彼氏に「桃子の行きたいところどこでも連れてってあげる!」とか言われたいです!

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