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私たちはまだ恋をする準備が出来ていない #47 Satomi Side

アラサー・アラフォーが恋をしたくなる小説。
あらすじ:さとみ32歳、琉生25歳。内緒で社内恋愛中。それを知らずにさとみを口説いている志田潤が二人の関係に気付く。潤は琉生に片思いをしている由衣と結託して、自分と付き合えるように画策している。
※毎回1話完結なのでどこからでもお楽しみいただけます

「まー、そりゃー、そういうことがあるなら、心も離れるっていうか、冷めるよねえ」

電話口で光先輩が言った。

私はしばらく抱えていたモヤモヤをどうにかしたくて、産休中の総務の先輩に電話をしたのだった。

「光先輩も、斎藤部長とそういうことありました?」

「私はさとみみたいにしおらしくないから、正面切って訊いたけど」

「え?そうなんですか?それで斎藤部長はなんて?」

「“そういうこともあったかな”って言ってた」

夫である斎藤部長の渋い声色を真似る光先輩がおかしくて、私は笑ってしまった。

「私は“あったかな、じゃねーよ!”って怒鳴ったけどね」

「あー・・・ははは」

光先輩が怒鳴っているところは、なんとなく想像がついた。

「もうさあ、同じ会社の女に手、つけんのやめてほしいよね。っていいながら、私たちも社内恋愛、社内結婚なわけだけど・・・」

光先輩が自虐的に笑った。

「でもまあ、アイツの女癖の悪さは未だ治ってないみたい。そういう男と結婚するってある程度覚悟してたしね。私も」

「え。まさか、斎藤部長がそんな・・・」

ため息交じりにいう光先輩に、私はどうフォローしていいかわからない。

「あー、そーいう重たいヤツじゃないと思うけどさあ。時々スーツに化粧か香水の匂いとか付いてんのよ。毎回変わるから、同じ相手じゃないと思う」

私は経験豊富な光先輩に、何と声をかけていいか分からなかったので、黙って訊いていた。

「夜はまあまあ常識的な時間に帰ってくるから、多分、営業行ったついでとかに会ってるんじゃないかと」

私は以前、斎藤部長に届け物をした日のことを思いだした。確かにあの時、急に現場に直行しなければいけなくなった、という斎藤部長の言い分は不自然だった気もする。もしかしたら急にその相手に会いにいったのだろうか。いや、斎藤部長に限って、そんな、仕事中に・・・?

「光先輩、もし私が会社で斎藤部長に怪しいところを見つけたら、報告したほうがいいですかね・・・」

私は恐る恐る訊いた。しかし光先輩はそれを豪快に笑い飛ばした。

「あー、もういい、いい!諦めてるから!モテる旦那と結婚しちゃったんだなーと思って諦めてる!それよりさとみのことのほうが大事」

私は急に矛先を自分に向けられてびっくりした。

「結婚しちゃったら片目を瞑ったほうが平和なこともある。けど、付き合ってる時はよーく相手を見ておきな。許せないと思うことがあれば、ちゃんと相手に言うこと。それは確実に直るとも限らないけど、善処する姿勢をみせるのか、そうでないのかでは大きく違う」

「斎藤部長は善処する姿勢を見せてくれた、と?」

「その時はねー」

ははは、と光先輩が笑った。

「言わないってことは、怒ってないのと一緒だから」

「はい」

「怒ってても言わないでしょ、あんた」

「怒ってる、とはいわないですねえ。どちらかというと、今回の件も悲しかったからかも」

「それ、ちゃんと悲しいって言った?」

「いいえ」

「怒りって悲しいから湧いてくんのよ、知ってる?」

「そうなんですか?」

怒りと悲しみは、真逆なパワーを持つものに感じるが。

「ちゃんと言ったほうがいいよ。我慢し続けてると、言わないのが癖になって溜まっていくから」

いや、それはもう癖になっている。

というか、琉生に限らず誰にでも言わないことを選択するのが当たり前になっていると思った。

「じゃあ、由衣さんのときも怒って良かったんですかね」

「でもさとみがビンタしたんでしょ。充分伝わってるんじゃない?」

光先輩はケラケラ笑っていた。

「さとみが人のことビンタするなんで想像できない。よっぽどだったんだね」

「はあ。今思うと悪いことしちゃったなとは思ってるんですけど」

「いい、いい。そのくらいやってやんなきゃ。付け込まれても厄介だからね。カマしてやんないと」

光先輩が味方をしてくれたお陰で、私の心も少し軽くなった。

その時後ろから赤ちゃんの泣き声がした。

「ごめん、子供起きたわ。また、仕事復帰したらご飯行こ、ゆっくり」

「はい、ありがとうございました」

私は電話を切って、スマホの画面を見た。

LINEの通知が3つ。

1つは帰りが遅くなるという琉生からのLINE。

もうひとつは、潤くんからのLINEだった。

“今日も琉生さんに拘束されて残業です”

というのが、犬が泣いているスタンプとともに送られていた。

“頑張って!”

私は一言だけ返信をして、夕飯の準備に取り掛かった。


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