私たちはまだ恋をする準備が出来ていない #51 Ryusei Side
アラサー・アラフォーが恋をしたくなる小説。
あらすじ:さとみ32歳、琉生25歳。内緒で社内恋愛中。それを知らずにさとみを口説いている志田潤が二人の関係に気付く。潤は琉生に片思いをしている由衣と結託して、自分と付き合えるように画策している。
※毎回1話完結なのでどこからでもお楽しみいただけます
例年より早い桜は、もう散りかけていた。
宿の周りを囲うように、桜並木になっており、夜はライトが当てられていた。
「去年も今年も桜を見に行くのは憚れたから・・・今日見られてよかったね」
さとみがスマホを出して、桜を撮ろうとする。浴衣から伸びた白い腕は、いつもより艶かしく見えた。湯上がりだからだろうか。
「うーん、ぼやけて巧く撮れない・・・・」
低い位置にある桜を懸命に撮ろうとして、腕を伸ばしている姿がなんだか幼い子供みたいで可愛らしい。
「夜景モードにするとか」
俺が提案すると、ぱっとさとみの顔が明るくなった。
「そっか。やってみよう」
それから二人でしばらくい試行錯誤してみたが、肉眼で見るよりきれいには撮れなかった。
「やっぱり記憶に残しておくのが一番なのかな」
さとみが諦めて、スマホを下ろした。
「毎年一緒に見ればいいよ」
俺が提案する。
「ん」
短い返事だった。
“約束”が順当に行けば、来年は結婚しているし、その次の桜の時期には子供がいるかもしれない。
俺にはもう楽しみな未来しか、見えなかった。ダイスケやサキのようなケースもあるけど・・・俺らにはきっと当てはまらない。
それからしばらく、さとみと仕事のことや家でのことなど、他愛もない話をしながら、宿の周りを歩いた。
「丁度いい散歩コースになってるんだね」
その時ざっと強い風が吹いて、あたりに花びらが舞った。
舞う夜桜をバックにしたさとみ。その姿は見惚れるほどきれいだった。
一瞬写真を撮りたいと思ったが、嫌がられそうなので、止めた。
「琉生?」
少し先に行っていたさとみが振り返った。
「あ、ごめん」
俺は慌てて追いついた。
「来年も桜、一緒に見られるかなあ」
今度はさとみに問われる番だった。
「見れるよ。見ようよ」
「・・・うん」
さとみはいろんなことに対して、慎重な性格だから仕方がないんだろう。
結婚がゴールではないけど、俺の人生にはもうさとみがいない人生は考えられない。
「旅行もまた行こう。次はゴールデンウイークかな」
「近いよ。すぐじゃない」
さとみが笑う。
「じゃあ、お盆休みくらい?」
「うん。それくらいでちょうどいいかな」
「次はどこ行く?」
「考えとく」
さとみがちらっとスマホを見た。
「私は、そんなに先々まで考えなくてもいいんだよね。今がよかったら、それで」
「そうなの?さとみ、慎重派だから、先々まで考えていたいのかと思った」
「それは仕事だけでしょ」
さとみが言わんとしていることは、分かっていた。元カレとも結婚の約束をしていたらしいが、あっけなく別れてしまったから。それを引き摺っているのは知っている。軽々しく結婚しようと言われて、信じてダメになったら、という怖さはあるんだろう。
俺はそんなことしないけど。
この前の由衣の件もあるので、信用を取り戻すまでは、また1つずつ積み上げていくしかない。
夏が終わったら、付き合い始めて1年だ。
そのときに改めてプロポーズしよう。
「じゃあまた、夏に行きたいところ考えといて」
「わかった」
さとみはひらりと浴衣を翻して、宿の中に入っていった。
*** 次回更新は4月2日(金)15時ごろ更新予定です ***
雨宮より:あーあーあー。今日は16時更新になってしまいました。とほほ。琉生の回全然進まないー。
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