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私たちはまだ恋をする準備が出来ていない #30 Ryusei side

アラサー・アラフォーが恋をしたくなる小説。
あらすじ:さとみ32歳、琉生25歳。内緒で社内恋愛中。今回の主役は、琉生です。
※毎回1話完結なのでどこからでもお楽しみいただけます

さとみと同棲を開始して、10日ほど経った。

「どうした?」

夕飯時。さとみの箸を持った手が時々とまる。

「え、あ、ううん。ごめん、なんでもない」

「そう」

俺は話題を変えることにした。多分、仕事でなんかあったんだろう。

たまにある事だから、気にさせないほうがいいかなと思って。

「肉じゃが、おいしい。平日、さとみとこうやって食卓付けること、あんまりないし」

「そうだね」

さとみがちょっと笑った。そうだ、この調子。

「そういえば、前に言ってた光先輩っていつから戻ってくるの?」

「本当は4月1日からの予定だったんだけど、お子さんの保育園のスケジュールで、少しずれるみたい」

「そうかあ。そういうの、俺全然分かんないからなあ」

まだ結婚前提とはいえ、同棲を始めたばかりなので、俺らに子供がいるイメージは全然湧かない。

当面、さとみとどういうスケジュールで結婚まで持っていくかだな・・・。

「さとみは何歳までに結婚したいとか、ないの?」

「なに、急に」

さとみはちょっと考えて

「前も言ったけど・・・今は、ないかなあ。20代後半では30歳までに、とか漠然と思ってたけど、過ぎちゃったし」

と、言った。

「そっか」

「まー、俺は今すぐでもいいんだけどなあー」

「わかってるよ」

ふざけた感じで言った俺を見て、さとみが笑ってくれた。

「でも、真面目に。さとみがいいって思えたら、言って。ちゃんとプロポーズはしたいから」

「うん」

こんだけ結婚したいって言っておいて、プロポーズも何も、というかんじかもしれないが、そこはやっぱりちゃんとしたいなと思っている。

「さとみは何を確かめたいの?」

さとみはちょっと考えてこう答えた。

「私が、琉生とちゃんとやっていけるかどうか」

「ちゃんとって何?」

「・・・気持ちが・・・変わらないかとか」

「気持ちかあ」

「よくわかんないけどさあ、気持ちは変わるんじゃない?」

「え?そうなの?」

「だって、俺は今の時点で、付き合う前と付き合ってからと、変わってきてるの感じてるし」

「そ、そうなんだ」

「付き合う前は、あんまりさとみのこと知らなくて、主に外見と雰囲気で付き合いたいって思って」

「付き合ってからは、うわー、こんな感じなんだーとか、いろいろ知れて嬉しいと思うじゃん?」

「うん」

「同棲始めてからは、ウキウキする気持ちから、安心感とかやすらぐ感じに変わってる、かな」

こういう言い方はよくないかなと思って、敢えてさとみには言わないけど、やっと俺のモノにしたぞ、というかんじ。付き合った時も思ったけど、それが強固になったと感じている。

「そっか」

「きっと結婚したり、子供が生まれたら変わるだろうし。長く一緒にいたら、そりゃー相手にイライラしたりムカつくこともあるだろうけど、結婚したら多少のことじゃ別れられないから、お互い歩みよっていく方法を一緒に考えていくんじゃないかなあ」

そこまで言った時に、さとみはふうっとため息をついた。

「琉生はすごいね」

俺は思ってることをいつも言ってるだけだから、そんなにすごくないんだけど。

「さとみはいつもそういうけど、普通じゃない?」

さとみは首を振った。

「だって、いつも自信を持って、自分が思っていることを相手に伝えられるから。私はそんな風に、自分の想いを言葉にできないし」

今度は俺がうーん、と考えるところだった。

「仕事柄かなあ。営業だと、わりと言い切らないと舐められるとこ、あるし」

「そういう問題かあ」

さとみが笑った。

「私はいつも、そんなに自信がなくて、何か間違ってないかとか、間違えないかって考えてるから」

「さとみは慎重なんだよ。別にそれはそれでいいんじゃない。性格の違いでしょ。結婚もさ、こうやって同棲できたわけだし、俺、全然待つから」

「現に今も・・・」

「何か不安?」

「あ、ううん。不安っていうか・・・」

さとみが何か言葉を飲み込んだように見えた。ただその雰囲気で、俺はそれ以上詮索できなかった。

「琉生・・・」

「なに?」

「私のこと、離さないでね」

「どうした?急に・・・」

さとみが俺の袖をぎゅっと引っ張った。

「離さないよ?絶対」

俺が自信たっぷりに答えると、さとみは安心したように袖から手を放した。


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