私たちはまだ恋をする準備が出来ていない #4 ryusei side
さとみ32歳、琉生25歳。社内恋愛中。週末はどちらかの家で過ごしている。今日は水族館デート。※毎回ほぼ1話完結なのでどこからでもお楽しみいただけます
付き合い始めてからわかることもある。
「総務」というしっかり者のイメージで見ていたせいか、凛としてしっかり者がさとみ、だと思っていたら、意外と天然だったり優柔不断なところも多い。
仕事はテキパキするのに、着替えとか何かを準備するのはバタバタしている。
外食でメニューを決めるのが遅いとか、そもそもめちゃくちゃ考え抜いて
「もう、琉生が決めて。なんでもいい」
になってしまうのは、驚いた。
会話が止まったかと思ったら、ぼーっとしてどこか遠い世界に行っていたり、何かを考えこんでいたり。
「言いたいことあるんだったら、言ってくれていいんだけど」
「え?別にないよ」
「でもいつも黙ったり、何考えてるかわからないから、そういうの気になる」
水族館のチケット売り場に並んでいる今も、黙って何かを考えている(ように見える)さとみに声をかけた。
「一緒にいる時でも黙ってる時ってあるでしょ。別に四六時中話してないといけないってことはないと思うけど」
「そりゃそうなんだけどさあ」
不安になっているのはこっちだけなのか。
「琉生たちの年代みたく若くないんだから、そんなキャピキャピ話さないよ。そういう女の子のほうがいいっていうなら、努力してみるけど」
さとみが俺を見上げる。こういう時はまっすぐ見るんだな。
「ごめん。俺が不安なだけです」
俺は白状した。誤魔化しても仕方ないから。
「つまんないのかなって」
「え」
「さとみのほうが大人だし、いろんなこと知ってそうだし、俺といてもつまんないのかなって不安になってる」
「そんな」
さとみがぶんぶんと両手を振る。
「琉生のほうが女の子に慣れてるってかんじするし、私でいいのかなっていつも思ってるよ」
「そうなの?」
「うん。だって琉生モテるでしょ。会社の女の子の間でもいつも話題になってるよ」
「・・・いや・・・そんなことはないと・・・思うけど・・・」
いや、確かに学生時代から彼女が出来るキッカケって、向こうから告白してきたからとかばっかりだったけど。
「自分から好きになった人ってさとみが初めてだし」
「うそでしょ」
絶対信じてない顔でさとみが睨む。
自分で言うのもなんだけど、俺って絶対外見で損してる気がする。
「ホントだって」
「信じないよ、そんなの」
たまに感じるけど、さとみの中で俺ってめちゃくちゃモテ男に変換されてるんじゃ・・・
いや、確かに小学生の時からバレンタインデーにはチョコ10個くらいもらってたし、大学卒業まで毎年30人くらいに告白されてたし、夜に繁華街歩いてたら女の子とかまとわりついてきたりするけど・・・
「寄ってくる女の子がゼロとは言いませんが、自分から好きになったのはさとみが初めてです」
「でも付き合った女の子はゼロじゃないでしょ」
「いやそれはそうだけど、それ言ったらさとみだって彼氏いたことあるじゃん」
「私は琉生で二人目だもん。前の人と長かったし。しかも別れたのは2年も前だし。琉生は入社後から、事務のアミちゃん、企画の由衣ちゃん、営業部の詩織さん・・・ほかにも噂レベルで私の耳に入っている人は5人くらいいるんですけど?」
「そ、総務の情報収集能力、こぇぇ・・・」
俺は本気で青ざめた。いや、一人ひとりについては誤解というか、いろいろあるんですけどー・・・訂正できる雰囲気じゃない。
「参ったか。総務と女子の情報網なめんな」
さとみは冗談とも本気ともつかないセリフを吐く。
「不安にさせてたらごめんだけど」
俺はさとみの手をぎゅっと握る。どうやったらこの気持ちが伝わるんだろう。
「本当に好きなのはさとみだから」
信じてもらえないかもしれないけど、本当だから、そういうしかない。
お互い違う人間だから、言葉と態度で伝えていくしかないんだよな。
じっと見てたら、根負けしたように、さとみが微笑んだ。
「うん」
***#5へ続く***
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