憧れの祇園祭宵山デートで、苦い目に遭った思い出
おかげさまで、拙著「京都祇園もも吉庵のあまから帖」シリーズは、第9巻までお話を重ねることができました。どの巻も、京都の名所旧跡やスイーツとともに、春夏秋冬の四季の移ろいを5つのストーリーの中に編みこんでいます。
そんな中、もっとも登場回数の多いのが祇園祭です。
期間中、洛中をぶらぶらするだけで、心が躍ってしまいます。
特に、私が好きなのは、山鉾巡行の前夜の「宵山」です。
夕ぐれどきになると、各山鉾町からは鉦、横笛、太鼓の祇園囃子が聴こえてきます。
「コンチキチン コンチキチン」
やがて提灯が灯ると、街は幻想的な世界へと一変します。
山鉾を保存する会所では、「会所飾り」と呼ばれる 山鉾の懸装品や御神体の展示が行われます。室町や江戸時代に遠くヨーロッパやペルシャから渡った前懸(まえかけ)・胴懸(どうかけ)などを、目の当たりに見ることができます。
さらに、屏風祭も大きな楽しみ。
山鉾町の旧家では秘蔵の屏風や美術品などを、通りを歩く人たちが見られるように飾るのです。
「どうや、うちの屏風は立派やろう」
「なに言うてるんや、うちの方が古うて価値があるんやで」
と、口にこそ出さずとも競う声が聞こえてくるようです。
格子を覗き込むと、金色の屏風や花、鉾のレブリカなどが飾られています。
さて、高校の同級生が京都の大学に進学しました。
私は地元、名古屋の大学へ。
2年生の夏、その友人を訪ねて上洛した時のことです。彼が、こんな話を聞かせてくれました。
「京都の学生は、祇園祭が近づくと、なんとなく周りの友達がそわそわし出すんだ。なぜなら恋人たちにとって、祇園祭の宵山デートは、年に一度の大イベントらしい。クリスマスイブと同様に、カレシ、カノジョのいない者は、それまでになんとか募る思いを告白して、宵山デートに持ち込もうと躍起になるんだ」
恋人たちは、二人とも浴衣を着て、まだ明るい時間に待ち合せをして、カフェでおしゃべり。午後6時になると、四条烏丸を中心に交通規制が行われて車両が進入禁止になります。屋台がたくさん出て、場所によっては身動きが取れなくなるほどの賑わいになります。そんな中、はぐれないようなと、しっかり手を握って歩くのです。
ああ、羨ましい。
その時、彼女のいなかった私たちは、「いつか俺たちも実現しよう」と誓い合ったのでした。
さて、時は流れて20代は終わりました。
残念ながら、一度も彼女を連れて「宵山」へ行くことはできませんでした。
ところが、その後、結婚をして新婚3か月目に奥さんと祇園祭へ出掛けたのです。
八坂神社と清水寺の中間辺りの旅館を予約しました。
その宿で少し早めに夕食を済ませ、浴衣に着替えて下駄ばきで、宵山へと出掛けました。
長刀鉾、函谷鉾などのある四条烏丸の交差点辺りは、猛烈に混雑していました。
夜になっても街の気温は下がらず、汗だく。
二人とも、ぐったりです。
疲れ果ててフラフラになった奥さんは、
宿への帰り道に、
「ももう動けない。足も痛いし」
と、歩道でしゃがみ込んでしまいました。
私はオロオロするばかり。
「あと、少しだから頑張ろう」
と言うと、怒鳴られてしまいました。
「京都に詳しいって言うから頼りにしてたのに、なんでこんなに遠くの旅館を予約したのよ」
・・・返すことばもありません。
とほほ、のほ。
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