ホテルに缶詰めにされてみたい
その昔、テレビドラマで人気作家がホテルに缶詰めにさせられるシーンを見
たことがあります。ルームサービスの食事はとり放題。「疲れた」と言っては編集者さんに、マッサージをしてもらったり、「どこどこの大福が食べたい」と言っては買いに行かせたり。わがままぶりに呆れるとともに、
「大作家になるとこんな待遇がいいのか」
と、憧れたことがありました。
それから幾星霜、時が経ちました。
気が付くと、作家になっていました。
そして、まさかまさか、この自分が締め切りに追われる身になると思いませんでした。
毎回、次の作品の打ち合わせをする際、最後に締め切り日の話になります。
「ええっと、志賀内さん。前作はかなり日程がタイトでしたので、今回は早めにお願いします」
「早めっていうと・・・」
「できたら8月末で」
「と、とんでもない。不可能です」
「やっぱり。一応、言ってみただけです」
(そんな無茶な)
「それでも、9月末までにはなんとかしていただきたく」
「え~そんなぁ。せめて9月中頃で」
「数日ならいいですよ。9月5日ではいかかですか?」
「う~ん。じゃあ10日で」
そんな攻防が繰り広げられます。
「では、よろしくお願いいたします」
でも、けっして、
「1月ほどホテルをお取りましょうか?」
などという話は出て来ません。それは、毎月10本もの連載を抱える傍ら、書き下ろしの長編小説を書くような大人気作家の話です。
それでも、
(締切り、間に合わなかったらどうしよう)
と、不安そうな顔つきをする私に、編集者さんは言います。
「大丈夫、大丈夫、志賀内さんはできますよ。いつも筆が早いから」
(なんで大丈夫ってわかるだよお~)
締切りには厳しくても、編集者さんは、
「いつでも行き詰まったら電話してください」
と、優しく声を掛けてくれます。それに甘えて、行き詰るとひんぱんに電話します。
「この表現はコンプラ違反にならないでしょうか」
「ラストシーンが弱くなのでしょうか」
「泣かせる以外に、どんな終わり方がいいでしょうか」
写真は、取材中、京都の街中で見かけたお寺の掲示板です。
はっきり言えます。ハイ!
今、小説を書き続けていられるのは、編集者さんのおかげです。