上を向ぅいて
母方の祖母は歌が好きだ。
通っているデイサービスの催しものの中でも
月1のカラオケの日を心待ちにして稽古をしている。
長年昭和歌謡番組を担当してきたといういけすかねぇ孫が、
週に何度かの訪問の際に面白がってスマホのYouTubeから大音量で動画を観せたことが、いけなかった。
「今時はそんなケータイから音が出るのんか」
「せやねん。携帯から音出るし観れるねんで」
延々リビートさせる。耳元に置かせ大音量の中よろりよろりと歌う。
歌詞を紙にデカい字で書いて渡せと言う。
「なんやこれ、字ぃ汚ぁて読まれへんわ(笑)」
「なんやねん読めるように大きく書いたのに。貸して書き直すわ(笑)」
その紙を見てよろりよろりと歌う。
実の娘は歌舞音曲が大嫌いだ。下等で愚かなものと言い毛嫌いする。
今これだけしんどい実の母の願いであっても嫌らしい。〝携帯〟は持ってないらしい(嘘)
そんなわけで孫の担当となる。なっている。
という話は、以前にも書いたけれど。
全く動かないことはないけれどほぼ動きにくくかなり不自由となっている中、
いや、中だからこそ、歌を歌うと「気ぃが晴れる」と言われると
この歌唱指導兼選曲プロデュース業はやめられない。
いや、そもそも、歌が好きだから、嫌ではない。
ゲネだ。本番前のゲネ。わたしはその最初の観客でもあるのだ。
ということで片手には缶ビールだ。朝だの昼だのからね。
え、缶ビールいらん? 呑んだら喜ぶねん。拍手や手拍子なぞしながらね。
思えば、祖父も歌が好きだった。
夏休みだのにあちらに帰った際は手を繋いで童謡を歌いながら散歩に連れて行ってくれた。
その後、呑む。ビール、そして、デッカい湯呑みで日本酒だ。
ボクシングとプロレスと阪神タイガースと歌が好きだった。
あの時代あの地域においては、それこそ叩き上げというか必死でいろんなこととたたかってきた人だった。
という漠然とした書き方をネット上なので敢えてする。
製材所で働き、晩年は地域の世話役や地域の学校に戦争やまちの歴史の語り部として招かれたりしていた。
亡くなる前、病室にわたしが「阪神グッズ持ってきたで」と某選手のタオルを持っていったら「そいつのんはいらん」とハッキリ言われた。あと、新庄のことはずっと嫌いだった。
そんな祖父が何年も前にあちらに逝き、
でも諸々の色々で祖母はひとりその地その家にかなり色々無理に近い状態で残り、
近年は泊まれはしないがデイサービスに通い、で、で、カラオケの日を心待ちにしている。
祖父が元気な頃はたまに一緒に「喫茶店で歌い放題」に行ったのだと、最近になって知った。
祖父の十八番が『青葉城恋唄』だったというのも聞いた。ちょっと笑った。
祖母はガチ演歌勢だ。伍代夏子に藤あや子に島倉千代子、三笠優子、三船和子に原田悠里。
ちなみにデイサービスでは藤あや子さんと呼ばれている。ご本人とは似ても似つかぬ見た目だけれど。
カラオケ大会の日は主役らしい。勿論、上から数えてトップクラスの年齢のせいもあるが、中村美津子のセリフ入り浪曲演歌を歌うどっかの知らんひとと並んで「2大スター」らしい。
でも最近「若い子」が入ってきてスターの座が狙われている。
今流行りのリズム演歌を「踊りまわして」歌う男前らしい。男前だからいいらしい。あ、若い子と言ってもここに入ってくる時点でお年寄りだ、念のため。
それでかなんでかわからないがガチ演歌勢のオバアは最近演歌じゃない曲を稽古し始めた。
先日は「きゅうちゃんを歌いたいねや」と言い出した。もちろんオバQではない。
「知らん男の人が歌ってはってええ歌やなあと思ったんや」
人の歌とったらあかんやん。気ぃわるぅしはるやん。
「せやけど歌いたいねん、ええ歌やから」スターは傲慢。
さよか。と、いつもながら爆音を流したらよろりよろりと歌いよって、これが意外とわるくなかった。
色気歌でもなく押しつけがましい望郷唄でもない。
世界中で愛されるSUKIYAKIソングがやっと腑に落ちてわかった気がした。
〝ひとぉりぽぉちのよるぅ〟
ちょっと泣いた。いや、笑ろた。ビールがあってよかったなと思った。
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過去記事より。祖父の嘘みたいな忘れられない話。戦争中の国定忠治。
祖母のカラオケ、望郷唄篇。
祖父コレクション、シャンソン篇やらコレクション篇。
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以下は、ちょろっとですがいつもの自己紹介 。
と、苦手なりにもSNSあれこれ紹介、連載などなどの紹介!!も。
よろしければお付き合い下さい🍑✨
ご縁がつながったりしたらとても嬉しい。
大阪の物書き、中村桃子と申します。
構成作家/ライター/コラム・エッセイ/大衆芸能(旅芝居(大衆演劇)やストリップ)や大衆文化を追っています。
普段はラジオ番組の構成や資料やCM書きや、各種文章やキャッチコピーやら雑文業やらやってます。
現在、lifeworkたる原稿企画2本を進め中です。
舞台、演劇、古典芸能好き、からの、下町・大衆文化好き。酒場好き。いや、劇場が好き。人間に興味が尽きません。
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現在、関東の出版社・旅と思索社様のウェブマガジン「tabistory」様にて女2人の酒場巡りを連載中。
と、あたらしい連載「Home」。
皆の大事な場所についての話。
以下は、過去のものから、お気に入りを2つ。
旅芝居・大衆演劇関係では、各種ライティング業。
文、キャッチコピー、映像などの企画・構成、各種文、台本、
役者絡みの代筆から、DVDパッケージのキャッチコピーや文。
あ、小道具の文とかも(笑)やってました。
担当していたDVD付マガジン『演劇の友』は休刊ですが、
アーカイブがYouTubeちゃんねるで公開中
(貴重映像ばかりです。私は今回のアップにはかかわってないけど)
あなたとご縁がありますように。今後ともどうぞよろしくお願いします。
皆、無理せず、どうぞどうぞ、元気でね。