paradiso 惚れました
ドアを開けてすぐに綺麗なパンたちの並びに目を奪われた。
しばし見とれてしまい「はっ」として目を上げると
レジ前でシェフと常連さんが話してる。
おかしな話だが、シェフの顔とその手が目に入った瞬間にもう満足をした。
「どうぞ。大丈夫ですよ」
いらっしゃいませ、じゃない。
あきらかに初めての客に対して笑みを、それも満面の笑みじゃない、
〝職人〟の顔を残したままの笑みを浮かべ、奥の席に手招きをくれる。
その手を見て勝手に思った。もう、この時点で満足だ、と。
「パン屋のイートイン」なんて言葉はしっくり来ない。
この言葉、「Boulangerie」がぴったり。もう嬉しくなった。
席に着くと、
片方の隣は女子会中のおねえさんたち、
もう片方の隣は食べ終わってスマホゲームをしているおにいさん。
「えー。こんな空間でスマホゲームすなよ」
とはもう既にわたしの偏見と押しつけの気持ちでしかない。
テーブルにきてくれたのはシェフ……ではなく、
めちゃくちゃ愛想のないおねえさんだったのだが、
注文をするとコーヒーを持ってくるタイミングと共にこうも聞いてくれた。
「耳は残しますか? 切りますか?」
もう満足した、って、これ、まだ品すら来ておらず食べてもいないのに。
勿論耳は残してもらう。
シェフは常連さんに押しつけがましくなくおすすめというか「作品」の紹介をしていて、でも余計なことは喋らなくて、そのまま奥にひっこんだ。
広くも客席数も多くもないイートインから帰るお客さんの満足率は相当高いのか、
ほぼ皆が並んでいるパンをお土産に買って帰る率が高く、
またパンだけを買いに来るお客さんもちらりほらりで、
シェフはそのたびに、いや、手があいたタイミングですっと出て、話をされたりいていた。
さっきのスマホゲームのおにいさんもたくさん買って談笑して帰って行かれた。
というのが目に入ったり入らなかったりしながらいただいたクラブハウスサンドは、とても沁みた。主張しすぎることもなく、でも、ちゃんとしていて、重たすぎもせず、心身にじぃんと来た。
残してくれた耳の「カリッ」と共にね。
技術。仕事。職人。
嫌な言い方をすると愛想とか媚びとか、
技術技量芸じゃないことも勿論大事なんだろう、
いや、とても大事なことだろう、
もしかしたらこんな時代はそういうもののほうが大事なのかもだし、
そのほうが生きれたり生きられたり生き延びられたりも多くするのだろうし
したくなくてもせなならんのが世で常で、そうなんだろう。
でも、でもでも。だから、でも。そうじゃなくて。
いや、それだけじゃなくて。そうじゃなくて。
技量。仕事。矜持。職人。
みたいなことを、手、顔と手から、
ちゃんと1皿から、わたしは感じた、気がした。
その店と、それをつくるひとと、そのクラブハウスサンドに。
きれいに並んでいたパンたちと雰囲気に合うBGMのせいかもしれない。
しょうもない有線とか、ありがちなJ-POPじゃない、
ありがちな洋楽でもない、という効果もきっとあるのだろう。
最後のコーヒーまでゆっくり飲んで席を立つと、
シェフはお昼休みなのかお店にいらっしゃらず、わたしは喋ることが出来なかった。「ノー!」(笑)
財布の中身をみたらこんな時に限ってぎりぎりしか入っていなくて持ち帰りのパンを買える額すらなかった。いろいろ、「ノー!」(笑)
え? どこのなんて店?
イタリア語で天使という名の店だった。
幻だったのかもしれない。
いや、幻じゃない。
*
謎のクラブハウス話、前後編。昨日の前編はこれ。
*
paradiso、
といえば、
オノナツメの『リストランテ・パラディーゾ』。
職人、
といえば、大好きな柚木麻子さんの『その手をにぎりたい』。
ハマって、友人に貸し付けて、友人も一気読みした一冊。
で、一緒に刺身呑みをした思い出。笑。過去感想もこちらにあり。
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【略歴や自己紹介など】
構成作家/ライター/エッセイスト、
Momoこと中村桃子(桃花舞台)と申します。
旅芝居(大衆演劇)や、
今はストリップ🦋♥とストリップ劇場に魅了される物書きです。
普段はラジオ番組構成や資料やCM書き、
各種文章やキャッチコピーなど、やっています。
劇場が好き。人間に興味が尽きません。
舞台鑑賞(歌舞伎、ミュージカル、新感線、小劇場、演芸、プロレス)と、
学生時代の劇団活動(作・演出/制作/役者)、
本を読むことと書くことで生きてきました。
某劇団の音楽監督、
亡き関西の喜劇作家、
大阪を愛するエッセイストに師事し、
大阪の制作会社兼広告代理店勤務を経て、フリー。
lifeworkたる原稿企画(書籍化)2本を進め中。
その顔見世と筋トレを兼ねての1日1色々note「桃花舞台」を更新中。
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旅芝居・大衆演劇関係では各種ライティング業をずっとやってきました。
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担当していたDVD付マガジン『演劇の友』は休刊ですが、
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