医療における「仕事の範囲」は「野球の守備範囲」であるべき
病院で医療の質を改善するにあたり、他業界のことも勉強せねばなりません。
車の生産で世界に誇るトヨタ自動車のことを知らないで、質管理について語ることはできないと思い、大野耐一元トヨタ自動車副社長著「トヨタ生産方式」を読んでいます。
その中で、印象的だった文脈があったので、ご紹介したいと思います。
それは、医療業界の縦割りにメスを入れ、タスクシフトシェアを進めるうえで重要な考え方です。
「第二章 トヨタ生産方式の展開」に「チーム・ワークこそすべて」という節があります。これは、大野副社長の生産方式にチームワークがどう関係しているかという所感ですが、その一文を紹介します。
その後、話が野球の試合に及びます。
その後、「バトン・タッチの妙」という節ではこのような一文があります。
これまでの病院の仕事の考え方とは、真逆ではないでしょうか。
宇田川元一先生の「企業変革のジレンマ」という本の中で、「組織は一度環境適応を果たすと、その効率的な実行のために、分業化と仕事のルーティン化を進める」とあります。
その通りで、効率的にルーティンを行うために、特に大きな病院では多くの分野で縦割りになってきました。
国家資格というもので厳密に業務をわけて、その国家資格の中でも、専門性を高めるという名の元、多くの分野に細かく業務が分かれています。
こうすると、教育のコストや、働く人の心理的負担は少ないかもしれません。
でも、より多くの人員が必要となり、部署同士の隔たりは大きくなっていきます。
自分の業務の中の狭い認知の中でしか考えることができなくなり、分断が進むことで自分の仕事が顧客に何を提供しているのかが見えにくくなります。
大野元副社長の考え方は、当たり前のようでいて、医療業界に風穴を開ける考え方です。
病院で働いていると、「どうしてあの部署はちゃんとできないんだろう」「どうして自分たちだけが苦労しているのだろう」という声をよく聞きます。
それはもしかすると、自分の視野が急激に狭まってきており、自分のことしか考えられなくなっているのかもしれません。おそろしく効率が悪くなっているということかもしれません。
それぞれの守備範囲が明確に分かれていて、ここからこちら側は自分、ここからあちら側はお前、と言っている状況は、チームワークとは程遠いのではないでしょうか。
サードとショートの守備範囲を示す線を引いてしまったら。リレーでバトンタッチする区間を使わず、引かれた線でバトンを渡しているとしたら。野球やリレーでそのようなことをやっていると、勝てるものも勝てません。サードとショートの守備範囲は重なっているはずですし、走者と走者が同時に走る区間もあります。
でも、医療や病院では平気で、線を引いているのです。
もちろん、国家資格の範囲というのは法律(ルール)できまっています。それを超えることはできません。
でも、資格の範囲だけが仕事ではありません。自分が持つ資格とだれかの資格の間には、資格がなくてもできる業務はありませんか。
そのような仕事こそ、シェアやシフトしていくことが重要なのではないかと思います。
助け合い、という本来人間が持つ基本的な良心を潰すことなく、病院、医療業界にも活かしていきたいと思います。
医療の質のカイゼンにおいても、これから先、そのような能力や特性、いや心がけは重要となってくるはずです。