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『落研ファイブっ』(47)「落研ファイブっ」

〔三〕「シャモ、お前裏切らねえよな。俺たちモテない組だよな。な、そうだよなそうだと言ってくれよ頼むこの通り」
〔仏〕「そんな立ち位置に自分を置こうとするからモテねえんだよ」
 シャモに彼女が出来るかもしれないと知った三元は、哀願あいがんと心配の形を取った呪いの言葉の数々をシャモに投げつけた。

〔多〕「日曜の草サッカー同好会の試合いかんで、岐部きべがリア充になるかモテない組続行か決まるって事なんだな」
〔仏〕「『草サッカー同好会』でチーム登録すんの。色んな所とかぶりそうで嫌なんだけど」
〔多〕「じゃ何か名前つけてよ」

〔仏〕「えっ俺が?! 三元さんげん顔役総務かおやくそうむじゃん。三元さんげんがつけろよ」
〔三〕「『落語研究会』で」
〔多〕「ビーチサッカーで落語研究会って全く意味が分からないよ」
〔三〕「落語はゆずれません」

〔シ〕「戦隊ものっぽいのは。一並ひとなみファイブとか」
〔三〕「クールファイブかよ」
 往年の歌謡グループ名を出して一人えつに入る十八歳をよそに、落語研究会の顔役かおやく達は真剣に登録チーム名を考え始めた。

〔仏〕「落語要素があって、戦隊もので。そう言えばシャモの誕生日Tシャツってもしかして戦隊意識した」 
〔シ〕「ユニフォームも戦隊ものっぽく赤・黒・青・ピンク・黄色・緑とかあるとカッコいいかなと思って試作したんだけど、ユニフォームって色統一しなきゃならないのすっかり忘れてて」

〔餌〕「それであのうどん粉病Tシャツが出来たんですね」
〔飛〕「抹茶ミルクTシャツですっ!」
 うどん粉病Tシャツを誕生日プレゼントにもらった飛島とびしまが、強い語気で訂正した。

〔シ〕「落語戦隊一並らくごせんたいひとなみず」
〔松〕「語感が締まらない。○○ファイブって感じが締りが良いですよね」
〔三〕「クールファイヴみたいな」
〔仏〕「じゃあもう落研ファイブで良いじゃん」
〔三〕「それだっ! それなら落語要素もちゃんと残る」
 三元さんげんは戦術分析ノートに『落研ファイブ』と書いた。

〔三〕「うーん、何か足りない」
〔餌〕「読点とうてんつけると『落研ファイブ。』何か違う」
 皆で戦術分析ノートをのぞき込んでいると、餌がボールペンを再び取った。
〔餌〕「『落研ファイブっ』。これですっ!」
〔三〕「おー言われてみれば勢いがまるで違う」

〔仏〕「『落研ファイブっ』には ビックリマークは要らねえの」
〔松〕「響き的には最後の『っ』だけで良いような」
〔シ〕「良いね。何か来た来た」
〔多〕「じゃ『落研ファイブっ』で今後チーム名は登録するぞ」
 多良橋が出席簿の端に『落研ファイブっ』と走り書きをした。


〔仏〕「公式戦に出るとなれば、協会に入っていないと門前払もんぜんばらいを食うはずだが。その辺りどうする気なんだ」
 仏像が多良橋たらはしに問いかけた。

〔多〕「そこはサッカー部顧問こもんかつら先生と相談した。今年は協会登録選手きょうかいとうろくせんしゅでなくても参加できるオープン戦だけに出る。来シーズン以降も本格的に続けたい部員が多いなら、その時に協会加盟きょうかいかめい申請しんせいする結論に至った」

〔仏〕「なるほどな。となると青柳あおやぎの描いた青写真とはかなり事情が変わってくるわけだ」
〔多〕「放送部と応援部はサッカー部の代わりに出来る『絵』が欲しいだけだから、どっちでも構わないんじゃない」
 その言葉に仏像がいらだちをあらわにした。

〔仏〕「やっぱりスゲー腹立ってきた。何で放送部と応援部の都合の良いように使われなきゃならねえんだ。とっととサッカー部の全活動自粛ぜんかつどうじしゅくを解けよ。そしたら俺らは用済みで、視聴覚室しちょうかくしつで落語DVD見ながら自習に戻れるじゃん」
〔多〕「そんな事言うなよゴー君」

〔仏〕「何でいきなりゴー君呼びよ。大体な、宗像むなかた先生のあんな辞め方を許す所からこの学校はおかしい。それに俺たちは落語研究会なの。百歩ゆずって、新しい顧問はせめて古典芸能こてんげいのうに詳しい人がなるべきだろ。何でよりにもよって矮星わいせいなんだよ」
〔多〕「だってそう言うのが分かりそうな先生は、もう担当部活持ってるもん」

〔仏〕「それはそうだけど。これで得するのは放送部と応援部とサッカー好きな矮星わいせいだけだろ。俺ら何も得しねえ。休日も潰れて勉強時間も削られて、何なんだよ。知るかっ。退部するわ」
 仏像は着替えもせずにカバンと制服を抱えたまま校舎へと去った。

 一同が凍り付く中、部活終了五分前の予鈴が鳴った。

〔多〕「お疲れさん。じゃ、水曜にな。岐部きべ、彼女が出来たら先生が大事なプレゼントをやるから報告しろよ」
〔シ〕「報告したい所ではありますが、えさ案件だからな」
〔餌〕「実は僕もあんまりお勧め案件じゃないんですよねこれが」
 カッターシャツに着替えたえさが、またしても意味深な一言をつぶやいた。
 
 ※本作はいかなる実在の団体個人とも一切関係の無いフィクションです。

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