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『落研ファイブっ』第二ピリオド(25-2)「こっち側」
「えっ、餌の、いや、伴君のお父さん?!」
赤いうどん粉病Tシャツに身を包んだシャモに声を掛けた餌の父は、相変わらず胡散臭いチョイ悪オヤジファッションで決めている。
「息子からこの大会に出ると聞かされたからやって来たのは良いが、うちの母ちゃんも来ているとは思わなくてな……。ちょっと、その」
「一緒に試合観戦をすれば良いじゃないですか」
「そう言う訳には行かないのよ。俺もすねに色々と傷持つ身。母ちゃんはカタギの女だから巻き込む訳には行かない」
「だったら僕も巻き込まないでくださいよ」
「いんや。兄ちゃんは『こっち側』の匂いがする。大丈夫だ」
「大丈夫って何すか! 僕はカタギですよ。断然カタギですよ。バンドやってて赤髪だった頃は職質食らいまくりでしたけど、カタギなんっすよ。家業もしっかり手伝って、孝行息子なんですよ」
非カタギ認定をされたシャモは全力で餌の父に抗議する。だが――。
「とりあえず、何も言わずこれを受け取ってくれ。それでちょっと頼まれてくれるか」
「なな何なんですかこの白い包みは。何か中からサラサラ音がしますけど?! 僕をアレなブツの運び屋にしようとしてません? あなた本当に伴君のお父さんですか」
シャモは真夏の太陽にあぶられる餌の父の、見るからにお高そうな腕時計にドン引きしつつ後ずさる。
「ちょい待ち。これ見て。本当に父ちゃんなんだよおお」
餌の父はロレックスのサングラスを取って、スマホをシャモに向けた。
「あ、本当だ。目元が餌そっくり。で、スマホのやり取り……。確かに、これは本物のお父様。でもねでもね、ほら本人が探してますよ。返信してあげたらどうですか」
「あいつの事だから、俺が来ていると知ったら母ちゃんと引き合わせようとするはずなんだよ。でも俺もいつまで日本に居られるか知れたもんじゃねえ。せめて息子の晴れ舞台をまぶたに焼き付けてから逝きてえと思ってな」
「お父さーん?! ちょっとちょっと。まさかこの白い包みのせいで横浜港に浮かぶような事をやってるんじゃないでしょうね」
「ったく。しょうがねえな」
餌の父は白い包みを開いた。
「何すかこれ、砂?」
「ああ。俺を今の俺たらしめてくれた霊験あらたかな大山の砂よ」
「まさかあの『大山詣り』の、大山阿夫利神社の大山?!」
「それ以外に何があるよ。若い頃の俺は大塚の風呂屋と学校近くの雀荘の往復で一日が終わるだらしねえ学生だった。だから、やとわれ人になるのだけはどうしたって性に合わねえ。それで、性根入れかえて真人間になろうとして、とあるお偉いさんのカバン持ちを志願した。そうしたら、大山に行ってから出直して来いって追い返されてな」
餌の父は感慨深げに砂を包みなおす。
「ままままさか、その際には『鶴巻中亭二〇二号室』にお泊まりでは」
「大山までの電車賃すら出せねえ人間に宿代があると思うなよ。ふもとの東屋で野宿して、徒歩で山頂まで登ったに決まってるだろ。この土は、それから三十年が経った記念にお参りに行ってお分かちを頂いたお宝よ。そいつをな」
餌の父は、餌に良く似たパンダのような顔をずいっとシャモに近づけた。
「俺もいつまで生きていられるかもしれねえ。また息子に元気で会えるとも分からねえから、今日会ったらいつも通り小遣いと一緒に渡してやりたかったんだ」
「渡せば良いじゃないですか。お父さんが来るのをこんなに待っているじゃないですか」
「そうは言っても。母ちゃんが来ている以上俺はのこのこと顔を出せないし、これ以上アイツに嘘をつかせるのも不憫になって来てな。だから、頼まれてくれ。これを渡して」
「嫌あああああっ! 僕を巻き込まないでくださーい」
シャモはやさぐれモードもどこへやら、自己最速記録で走り去った。
※本作はいかなる実在の団体個人とも一切関係の無いフィクションです。
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