『落研ファイブっ』(43)「青い小瓶」
〔餌〕「今年は全年齢型プレゼントをちゃんと用意しましたよ。今流行りのSDGsにも完全対応済みです」
恐る恐る餌の顔をのぞき込むシャモをなだめるように告げると、餌は星の砂のような青い小瓶を全員に配った。
〔仏〕「俺のだけ妙に大きい。嫌な予感がする」
何故か誕生日でも何でもない仏像だけは、明らかに大きな瓶を受け取っている。
〔餌〕「僕は約束は守る義理堅い男。逗子海岸でこのSDGsフレンドリーな僕に何を言ったか、忘れたとは言わせないよ」
〔仏〕「逗子海岸、SDGs、そして俺に明らかに不満を抱えた目。まさかっ」
〔三〕「棒鱈」
〔餌〕「その通り! 僕は最初から棒鱈を食べる気でいたと言うのに! ほらあーん♡」
餌は棒鱈でんぷの入ったコルク栓を開けた。
〔仏〕「断る! お前の手汗とブルーハワイシロップとトンビの何かが混じったような物食えるかはっ、んぐうううう」
餌は仏像の形の良い鼻をつまむと、開いた口めがけて手製の棒鱈でんぷを大量投入した。
〔仏〕「ふざっけんな!」
餌に向かって蹴りを一発入れると、仏像はむせかえりながらビワの葉茶で口に張り付いたでんぷを洗い流す。
〔仏〕「口の中の水分をマジで全部持ってかれた。本気で窒息するかと思った」
〔三〕「さすが寝込みを襲ってきたマフィアを味方につけた男の息子」
〔シ〕「コソ泥に家賃と光熱費を払わせた男の息子」
〔三/シ〕「絶対敵に回したくねえ」
蹴りをマトモに食らってもんどり打つ餌を見ながら、二人は手渡された青い小瓶をそっとテーブルの奥へと追いやった。
〔餌〕「でんぷですからちらし寿司には最適です」
三元が奥に追いやったはずの小瓶に手を伸ばすと、餌は腹を押さえながらちらし寿司の上に青いでんぷを振りかけた。
〔三〕「明らかに食欲が失せる色だ」
〔シ〕「ちょうど良いじゃん。毎食コレ掛けろよ」
シャモが三元に自分の瓶を渡すと、松尾と飛島もお使いくださいと言いながら三元にでんぷを押し付けた。
〔三〕「意外にまともなでんぷだった」
三元の感想に餌はじろりと仏像をにらむと、製作工程の映像をスマホで流し始めた。
〔仏〕「分かった。お前がちゃんと有言実行したのは分かった。俺が悪かった。だが断りもなく無理やり何かを食べさせようとすんな。死ぬかと思ったわ」
〔餌〕「分かればいいんだよ分かれば。ごめん。熱くなり過ぎた」
はたから見ていると、仏像と餌は時折シャレにならないほどやり合うことがある。
〔シ〕ああ、そうだ。『みのちゃんねる』のオフ会前説だけを先に撮って粗編集したんだわ。チェックしてくれる」
どこか微妙な空気を換えようと、シャモは苦し紛れにスマホを三元に差し出した。
〔シ〕『みのちゃんねるでーす! 今日は緊急企画と致しまして泥んこサッカー会をお送りしまーす!! 今日は俺っちのリアル友も参加してくれてまーす』
〔天〕『元気ですかー!』
〔長〕『どこからでも掛かって来い!』
〔服〕『いきまくります!』
プロレス同好会の三人が、覆面姿で叫びながらフレームインする。
〔シ〕『今回はフォロワーさんの中から、オフ会に招待する方を数名様選ばせて頂きました。まずはそのセレクトシーンからご覧いただきましょう』
〔飛〕「うわ。見たい見たい」
〔松〕「面白そうっ」
〔シ〕「ハイチャンネル未登録者の皆様はここまで。後は配信日にちゃんと見てね。ドンミス!」
シャモは一旦再生を止めると、一年生二人にチャンネル登録を迫った。
※本作はいかなる実在の団体個人とも一切関係の無いフィクションです。
(2023/8/3 改稿・改題 2023/11/23 一部再改稿)
https://note.com/momochikakeru/n/nb4379e476e6d
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