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『落研ファイブっ』(57)「オールドベアーズ戦第一ピリオド」
〔青〕「一並高校草サッカー同好会『落研ファイブっ』対神奈川地区ベスト四入りを果たした、平均年齢七十二歳、奇跡の強豪チーム『奥座敷オールドベアーズ』の注目の一戦」
放送部長の青柳が、ピッチ脇に即席ブースを作って実況練習を始めた。
押しの強い彼らしく、ちゃっかりと解説役も用意している。
〔青〕「実況は私青柳真中、そしてゲスト解説は『でかでかちゃん』左アラの本郷鷲さんと右アラの大神裕二さんのお二方にお願いいたします。どうぞよろしくお願いいたします」
〔本/大〕「ワイルドでムンムンなお兄さんたちが、ねっとりと解説してやんよ」
笹かまぼこ柄のワンポイントをあしらったユニフォームに身を包んだ、力士体形の二人。
投げキッスが妙に様になる。
〔三〕「あれ、青柳部長撮影は」
〔青〕「本職さんだって言うから任せちゃいました」
青柳は一枚の名刺を三元に見せた。
〔三〕「HDⅬ第二制作局プロデューサー富士川高俊さん。なめ茸監督に富士川P。青柳部長の『引きの強さ』には恐れすら感じるわ」
やたら陽気な富士川Pは体形を裏切るフットワークの軽さでピッチサイドをうろついている。
※※※
〔青〕「現在キックオフから五分になる所。ここで『落研ファイブっ』にPKのチャンスが訪れました。キッカーは背番号四番ピヴォ政木。本来ならばフィクソを務める彼が、珍しくピヴォでの出場です」
仏像は慎重に盛り土を作ってボールを固定させる。
〔本〕「この盛り土を作る作業が、PKを成功させる肝なんだね」
〔大〕「第一審判が手振りで示したゾーン内には、相手のキーパー以外は立ち入れない」
〔青〕「さあ政木、一つ大きく深呼吸をして」
〔多〕「Almost!」
仏像のボールは、ゴールバーを叩いて跳ね返された。
〔青〕「ここから『奥座敷オールドベアーズ』ゴレイロ遠藤権助がボールを持ってそのまま前進――。高速カウンター決まったーっ」
〔多〕「Gosh!」
青柳の絶叫に合わせるように、多良橋がくず折れた。
〔青〕「『奥座敷オールドベアーズ』先制点は芋名人の八五郎こと、右アラ高橋八五郎選手っ。不動のキャプテン樫村熊五郎選手のはたいたボールをノートラップでボレーっ」
〔大〕「いやあ七十歳と七十七歳のプレーとは。ちょっと信じられないね」
大神が苦笑いしつつ手を叩く。
※※※
〔青〕「第一ピリオド残り後四分。一点のビハインドを追う『落研ファイブっ』。飛島と火消しの喜六こと丸岡喜六とのマッチアップは、火消しの喜六が圧勝」
明らかに穴となっている飛島だったが、勝負を投げ出さずに何度も喜六に食らいつく。
〔飛母〕「純君。立派になって」
〔飛父〕「あの子があんなに運動が出来るようになるとは」
飛島の両親は感極まったように目を赤くしている。
〔青〕「あーっとここで火消しの喜六のチャージがファウル判定にっ。右アラ飛島FKを得ました。じっくりと砂山を作ります」
飛島の両親が祈るように飛島を見つめる中、飛島は小さな体いっぱいに大きく息を吸って、右足を振りぬいた。
〔青〕「蹴り上げたボールを、トラック野郎の権助ことゴレイロの遠藤権助選手がパンチングで処理」
〔大〕「惜しいっ」
〔青〕「政木がシュートを打つがバーに阻まれ」
こぼれ球にむかって砂煙を上げながら、天河と権助が突進する。
〔青〕「きたあああああっ! こぼれ球を『落研ファイブっ』左アラ天河龍彦、通称彦龍が押し込んでゴール。落研ファイブっの守護神が珍しく左アラとして出場さらには得点っ」
〔三〕「あいつのニックネームって彦龍なの」
三元が首をひねる中、見た目年齢四十代の顔をくしゃくしゃにして喜びを爆発させた天河を、仏像と山下が真っ先に祝福しに行った。
〈第一ピリオド終了〉
〔青〕「ここで長い笛。第一ピリオド終了時点で一対一の好ゲームとなりました。ここから三分間のインターバルを経て第二ピリオドとなるわけですが。解説の大神さん、本郷さん。第二ピリオドに向けての展望をお願いします」
青柳はプロアナウンサーも真っ青の名調子で、本日初対面の二人に絡む。
〔大〕「『奥座敷オールドベアーズ』に『落研ファイブっ』が勝利するとしたら、彼らの疲労を突くのがカギだね。彼らはここまでメンバー交代を一切していない。特に火消しの喜六と命知らずの清八はテクニックは抜群だが、スタミナ面では他のメンバーに劣る」
〔本〕「一気に突き放して行きたい『奥座敷オールドベアーズ』を、メンバー交代に余裕のある『落研ファイブっ』がいかに消耗させられるかだね」
〔青〕「『奥座敷オールドベアーズ』は現時点まで交代の気配は一切見受けられません。っとあーここでついにカードを切った」
『応援部部長の樫村が、部員二人と共に黒学ランを脱ぎ捨てた。
※本作はいかなる実在の団体個人とも一切関係の無いフィクションです。
※2023/11/23 一部再改稿
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