世界の医療保険制度×IT事情~イギリス~



世界の医療保険制度×IT事情~イギリス~

はじめに


こんにちは、ALTURA Xインターンのヨシムラといいます。
第一弾のアイルランドに続き、第二弾の本ブログではイギリスを取り上げていきます。
イギリスの衛生事情と保険事情、衛生・医療に関するいろいろ、そしてイギリスの医療×IT事情について紹介していきます。

イギリスとはどんな国


北緯51度に位置するイギリス。日本でいうと、日本の最北端の択捉島が北緯45度あたるので、北海道(北緯43度)よりもかなり北に位置しています。とはいえ、メキシコ湾から温暖な気候が偏西風で運ばれてくるため、日本と比べて冷涼ではあるものの、緯度に比較すると温暖な気候に恵まれているといえます。


イギリスの天気というとどんよりとした曇り空を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか?
実にその通りでイギリスの上空では、西側から大西洋を流れる北大西洋海流(暖流)が偏西風と共に流れ込み、北側からは冷たい風が北極圏から流れ込み、ぶつかります。これらには温度差があり、そのためイギリス上空で雲が発生しやすいのです。さらに冬場は日照時間が短いこともあり、暗くどんよりとした天気が多くなります。
とはいえ、芸術や文化を始め、魅力にあふれるイギリス。首都のロンドンを中心に多くの人の憧れの場所であることは間違いないでしょう。ではイギリスの衛生状況から見ていきます。

イギリス衛生状況

・水道水
イギリスの水道水は、他のヨーロッパ諸国と同じく、石灰水を多く含む硬水です。基本的に水道水はそのまま飲んでも問題なく、水質はThe Environment  Agency(環境庁)と水道事業会社により随時確認されています。


Environment Agency

重い口当たりが気になる場合は、水道の蛇口に濾過器を取付ることで、日本と同じ硬度の水を得ることができます。なじみがあるミネラルウォーターを購入してもよいでしょう。

・食べ物
イギリスではThe Food Standard Agency(FSA)によって食品の衛生管理は徹底されています。日本と同じような感覚で食品の購入および、調理ができると考えて問題ないでしょう。
ただ外務省イギリス衛生情報によると、食品汚染による食中毒が頻繁に発生しているとのこと。適切な調理前の洗浄や消毒が必要となるでしょう。


Food Standard Agency(FSA)


それではイギリスに滞在している間に病気やけがをしてしまった場合には?イギリス国民に対する医療制度と、日本から渡航しイギリスに滞在している場合の両面について次の章で説明していきたいと思います。

医療保険制度




まず、イギリスには全国民を対象として社会保険制度が一元化されており、年金、雇用関連の給付を含め、全国民が対象となっています。


医療については、この社会保険制度とは別にNational Health Service(NHS)といわれる国民保険医療制度がととのっています。
これは一般租税と国民保険料でなりたっており、原則受診時は無料になります。
(外来処方箋については一処方当たり定額負担となり、歯科医での診察や地域によっても一部例外があります)
この国民保険医療制度の財源のうち一般租税による収益が80パーセント、国民保険料(雇用主と被雇用者から徴収する社会保険料。収入により徴収率が異なる)が8.4パーセントほどを占めています。16才以上の就労者はNational Insurance Contributionと呼ばれる保険料の支払いが必要になります。(女性60才、男性65才まで)この支払いは所得に応じて異なります。

またこの他にもプライベートの保険制度があります。
両制度の違いとそれぞれのメリットデメリットについて本章では説明していきます。

まずは国民保険制度に当たるNational Health Service。これは1948年に創設された仕組みです。イギリス国民は救急での診察が必要な場合をのぞき、病気やけがをした場合には、まずホームドクターであるGP(General Practioner)の診察を受けまず。そしてそのうえで、GPから必要に応じて、専門医の紹介状を書いてもらい診察を受ける流れになります。
これは既に第一弾で紹介したアイルランドと同じ仕組みですね。

世界の医療保険制度×IT事情~アイルランド~


NHSを利用する最大のメリットですが、やはりこれは受診料が原則無料だということでしょう。ただ、受診に待ち時間を要することはデメリットであるといえます。常に混雑状況にあり、予約を取ることが難しいです。また、GPが専門医の診断が必要と判断し、専門医に紹介した場合でも、緊急性が低いとみなされた場合は、数カ月の期間が開く場合があります。イギリス国民でもプライベートの医療サービスを受ける場合があるのは、この待ち時間を避けるためであるといえるでしょう。また市販薬で対処が可能とみなされる症状には薬が処方されないことがあります。この場合は薬局で薬剤師に相談するよう指示されため、スムーズに薬を得られない場合があることもデメリットといえるかも知れません。

イギリスの医療費のうち、民間保険や自費におけるプライベート医療が占める割合は1割ほどになります。ですので、国民の医療のほとんどはこのNHSによってまかなわれていると考えてよいでしょう。

さてこのNHSですが、日本から渡航した場合、加入は可能なのでしょうか?



外国人の場合、
・6カ月以上合法的にイギリスに滞在できるビザを保持している
・永住ビザを保持している
・合法的に1年以上滞在している

場合、NHSに加入することが可能になります。イギリスへの短期滞在(6カ月未満)や旅行者の場合はNHSに加入することができません。

対してプライベートの医療サービスおよび医療保険ですが、無料で受診できる国営医療と比べ、高額にはなりますが、待ち時間が少なくGPを介さず専門医の診療を受けることができます。NHSでは必ずGPを介さなければいけないのとことなり、患者自身が自由に医療機関や専門医を選択できることはプライベート医療のメリットでしょう。日本から渡航し短期でイギリスに滞在する場合、NHSには加入できませんが、プライベートの医療機関では、受けつけから診察まで日本語で対応していくれるクリニックもあります。

ただし、プライベート医療では原則、救急対応は行っていません。この保険制度にはPrivate Medical Insurance(PMI)とHealth Cash Plan(HCP)があります。PMIはNHSの代わりにプライベートの医療サービスを受ける場合に適用になります。短期間滞在する外国人は国民医療保険サービスNHSに加入できません。それゆえ、緊急移送等がしっかりカバーされている旅行保険にイギリスへの渡航前に加入するか、現地のプライベート医療保険に加入することが日本の外務省のイギリス渡航者向けに推奨されています。

医療X IT



それでは最後に、イギリスにてどのようなアプリが活用されているか、ITの面で見ていきたいと思います。

まず第一にメジャーなアプリとしてNHS APPが挙げられます。


NHS APP

このアプリでは全てのGPと連携しており、イギリス国内でGPに登録している13才以上の全ての国民がこのアプリを使うことができます。このアプリは全てのNHS加入者がNHSが提供する健康保険情報とおよびサービスにアクセスできるよう2019 年に施工されました。初期設定を完了すると、登録したGPと安全に情報が共有されます。
このアプリでは、処方箋の発行や、GPの予約作成、オンライン上での健康に関する相談を行うことができ、患者と医療機関双方の余分な手間の解消、そしてよりよい個人の日々の健康な生活をサポートするシステムになっています。過去にGPで受けた診断結果やアレルギーの情報も確認でき、手術の結果などは確認に必要なコードを取得するとアプリ上で確認ができます。
また、患者自身が病院の開院時間等を気にすることなく、24時間365日、アクセスできることも最大の強みといえるでしょう。2023年1月現在、3000万人にこのアプリが使用されています。このアプリは2024年3月までに9割のGPがオンラインプラットフォーム上に連携されることを目指しており、2023年12月現在81.1%のGPがこのプラットフォームと連携しています。

外国人であってもNHSに加入しGPに登録していれば、このアプリを使用することができます。

NHS APPがNHS事態が開発した公認のものにはなりますが、他にもイギリスには民間機関が開発した多くのアプリが医療機関と患者をつなぐべく存在しています。NHS APPが開発されるより前の2004 年に開発およびローンチされたEMISというソフトウェアの会社が保有するシェア第二位のPatient Access というアプリでもGPの予約や同じ内容の薬の注文(処方箋のオーダー)を行うことができます。

日本よりはるかに医療現場と人々をつなぐオンラインプラットフォームが拡充していることが分かるかと思います。

終わりに
世界各国に衛生医療情報とITについて取り上げる本シリーズ第二弾、イギリス編はお楽しみいただけたでしょうか。次回第三弾はヨーロッパを離れアメリカを取り上げています。こちらも公開をお楽しみに!

厚生労働省
イギリスの保険制度
https://www.mhlw.go.jp/shingi/2010/05/dl/s0510-10b_09.pdf

厚生労働省
各国に密社会保障施策の概要と最近の動向(アメリカ・イギリス) 第三章
https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kaigai/08/dl/22.pdf

外務省
世界の医療事情 イギリス
https://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/medi/europe/uk.html

Environment Agency
https://www.gov.uk/government/organisations/environment-agency/about

Food Safety Agency(FSA)
https://www.food.gov.uk/

NHS App
https://www.nhs.uk/nhs-app/

NHS App hits over 30 million sign-ups
https://digital.nhs.uk/news/2023/nhs-app-hits-over-30-million-sign-ups

EMIS cites ‘huge increase’ in patients registering for Patient Access
https://www.digitalhealth.net/2019/09/emis-cites-huge-increase-in-patients-registering-for-patient-access/#:~:text=EMIS%20Health%20has%20cited%20a,just%20over%20a%20year%20ago.


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