【企画投稿】不安と寂しさと、希望
東京の大学に合格して上京した最初の日は、母と一緒だった。
朝特急に乗って、上野まで4時間。神田を経て八王子まで1時間半。バスに乗ってアパート前まで30分。長旅である。
そこから買い出しをしたり、最低限の家具や寝具を用意したらもうすっかり夜。
これほど長く母と二人で過ごしたのは久しぶりかもしれない。父は仕事の都合で来られなかったのだ。
母は朝からずっと私を心配していた。
「東京には色々な人がいる。悪意ある人に関わらないか心配」
「数年前にこの辺で起こった事件のニュースを覚えてる。心配」
「このアパートは大学に近いけど周囲にお店がない。心配」
「アパートのベランダが隣とつながっていて心配」
「どんなご飯を食べるのか心配」
「数日後に引越屋さんが来るけど、あなた一人で対応できるか心配」
「部屋を片付けられるか心配」
「明日無事帰れるか心配」
「明日は上野まで送るけども…」
心配してくれるのはありがたいが、都会での生活に憧れてここまで来た私にとっては少し鬱陶しい。まぁ明日になれば母は地元に帰るのだしそれまでの辛抱だ。
そんな事を考えながら狭いアパートに2人並んで眠りに就いたのであった。
翌日。隣室の流しから水が垂れる音がして眠れなかったと文句を言う母と午前中は片付けをし、昼前に昨日来た道を上野まで引き返す。
いよいよだ。数時間後にここへ戻る時は一人きりである。道順をしっかり覚えておかなくてはならない。道中母との会話はなんとなく上の空であった。
無事上野について、特急が到着するまでに2人でカレーを食べる。
お土産屋に寄ってホームに上がると、母はソワソワと「あれに気を付けなさいこれに気を付けなさいと」何度も聞いた話を繰り返した。
「はいはい」とあしらっていると特急が到着。
母だけが乗り込み、席に着くとこちらを心配そうな眼差しで見つめている。
私は待ちに待った開放感で今にも飛び上がりそうであった。
特急が動き出して、母が私に手を振る。それに応えて手を振ったその時。
開放感とは全く逆の、言いようのない感情で胸が一杯になった。
いつもご飯を作ってくれた母。
服を洗濯してくれた母。
部活の送り迎えをしてくれた母。
受験を応援してくれた母。
たまに父。
今私はそんな母の手を離れ、ここ東京の隅で一人きりで暮らしを始めるのだ。
やり遂げなければならない。心配をかけないように。立派に!
母が乗った特急が見えなくなると、私は一人帰路に着いた。
胸いっぱいの不安と寂しさと、希望を抱えながら。
おはようございます。ももたろです。
本日はwith TOKYO<β>さまの企画投稿「#上京のはなし」をテーマに投稿してみました。
上京の日の実体験をもとに読み物のような形式に挑戦してみましたが…なかなか難しいですね。精進精進。
今日も良い1日を。