北へ......(終)
乾いた音。
初めて聞いた音。
焼ける匂い。
知ってる臭いだ。
目の前が霞む。揺れる。
何があったのか分からない。わかりたくも無い。
崩れる身体に、力が入らない。
「なんで......」
吐き出す様に吐いた言葉は、死後の一声の様だった。
俺は逃げ出せなかった。
ただただその場で、彼女を見ていた。
そのうち、人だかりができた。
警察もやってきた。
何かを言われた。
だが、何かを言う気になれなかった。
弁明も、言い訳も、諦めも、何もかも......
ただただ真っ直ぐに、動かない優奈を見つめているだけだった。
もしかしたら。なんて言葉が頭をよぎる。
もしかしたら、なんてありはしない。
今が現実だ。
ただただ、連れさられる様にこの場を去るだけだ。
あれから何年経っただろう。
日にちに興味を持たなくなり、時間も忘れた。
出所して空を仰ぐ。
今日はどうしようか。
どこに行こうか。
「北へ......行くとするか」
ちょっとの着替えと、片手に入るくらいの小銭を持って、俺はまた旅に出た。
足取りは、まだ重たい。
だけど、迷わなかった。
ただただ、北へ北へ
北へ......
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