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セガの名物プロデューサー名越氏が、中国のネットイースへ移籍?え?マジでレッドチームへ行くの?

いやぁ、この話を最初に聞いた時はただただ驚いた。中国資本のゲーム業界侵食については、ここ数年心配の種であり憂鬱な気分にさせる脅威でもあったのだが、ついに日本の人材にまで触手を伸ばしてきたのか、という感じだ。
ゲーム業界に詳しくない方も多いと思われるので、できるだけわかりやすい説明を心掛けつつ記事を書き進めていきたいと思う。

●セガ名越氏、中国ネットイースと交渉中


まず、セガの顔としても有名だった名越稔洋氏が、中国のネットイースと移籍交渉を進めている、というブルームバーグの記事をご覧いただきたい。


ネットイース、セガの著名ゲーム制作者獲得で交渉−日本進出を拡大
2021年8月30日 14:00 JST
 中国ゲーム大手のネットイース(網易)はセガサミーホールディングス傘下セガのゲームクリエーターで「龍が如く」シリーズの生みの親として知られる名越稔洋氏の移籍に向け、現在詰めの交渉を行っていることが30日までに明らかになった。複数の関係者が匿名を条件に明らかにした。
 正式合意に至ればセガが9月24日に予定しているゲーム「LOST JUDGMENT: 裁かれざる記憶」の発売以降に発表される見通し。ネットイースと、同社のライバルで中国インターネットサービス大手のテンセント・ホールディングス(騰訊)は、競うように日本のゲーム人材の取り込みを加速させており、著名クリエーターの移籍が実現すればネットイースにとって大きな前進となる。
 両社に詳しい複数の関係者によると、テンセントも近年、日本の中小ゲーム開発会社に相次いで出資していた。現在も新たな1社との交渉が最終段階で、年内にも発表される可能性があるという。
 両社は世界的な大ヒットを生む可能性に賭け、「ACG(アニメ、コミックス、ゲーム)」と呼ばれる日本のコンテンツ群を自社のラインナップに加えるために何年にもわたり投資してきた。こうした動きは、慣例的に中国からの投資に懐疑的な日本でも徐々に受け入れられ始めている。
 世界最大のゲーム会社でもあるテンセントは、日本のコンテンツを足がかりに、映像作品や音楽など幅広い商品群を展開するディズニーのようなグローバルメディア企業の構築を目指している。
 ゲームコンサルタント会社カンタンゲームスのセルカン・トト代表は「両社は日本に存在するほぼ全ての上場ゲーム開発会社と話し合いを持ったほか、一部の非上場企業にも積極的にアプローチしている」と述べた。その上で、中国市場でゲーム規制が厳格化されている事情もあり、両社とも日本での取り組みに躍起になっていると話した。
 テンセントは今夏、ゲーム子会社がポケモンと共同開発した「ポケモンユナイト」の提供を開始。ほかにも中国で制作され大ヒットとなったオンラインゲーム「原神」のような、当初は無名ながらも将来大化けする可能性を秘めたゲーム資産の「青田買い」を世界各地で仕掛けている。
 テンセントとネットイースにコメントを求めたが、両社の広報担当者から回答は得られてない。セガサミーホールディングスの広報担当者は、名越氏が退職の意向を伝えたかとの問い合わせに対し、個々の社員の去就については回答を差し控えると述べた。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2021-08-30/QYLG5OT0G1KX01


名越氏は1989年にセガへ入社し「バーチャレーシング」や「バーチャファイター」のCGデザインを担当、「デイトナUSA」からはプロデューサー、ディレクターとなってセガのゲーム開発で中核を担う存在となった。「スーパーモンキーボール」、「F-ZERO」も手掛けていたので、名越氏の名前は知らなくてもそれらのゲームをプレイしたことがある、という方も多いはずだ。
その活躍が認められ、2015年にはセガゲームス取締役兼開発統括本部統括本部長並びに株式会社セガ・インタラクティブ取締役CPO兼開発生産統括本部統括本部長に就任し、セガゲームス並びにセガ・インタラクティブの研究開発部門の統括を担当していた。

しかし、名越氏はここから転落への道を歩むことになる。
元々、強面な外面で黒光りするほど日焼けしている上に、ファッションもヒョウ柄でキメるという「武闘派」っぽい印象でも有名だったのに加え、ヤクザ世界を題材にした「龍が如く」のプロデューサーであることが重なって、余計に怖い、壊れている人、という見方が強くなってはいた。そして・・・。

●「チー牛」発言で炎上


名越氏はyoutubeで「セガなま 〜セガゲームクリエイター名越稔洋の生でカンパイ〜」という動画を配信していた。この中で2020年7月28日に配信された動画の内容に、視聴者を不快にさせる表現があったとして謝罪の上、その部分をカットした内容が、アーカイブとしてアップロードされるという事件が起きている。
問題とされた部分は、6月21日に行われた有名な「ぷよぷよ」というゲームの大会である「ぷよぷよファイナルズ SEASON2」の決勝の様子を視聴したあとに、スタジオのMC陣の間で決勝を戦っていた選手に対して「真面目そう」というような話になった中だった。ここで名越氏が「チーズ牛丼食ってそうな感じ」と発言したのだ。

「チー牛」とは、チーズ牛丼の略なのだが、この言葉と一緒にそれを好きで食っているという男性の自画像が放つイメージと共に「おかっぱ頭で幼い顔立ち、メガネをかけていて覇気がなく、ネットでは強気の書き込みをするが現実世界では存在感がない、タバコも酒もやらないで実家暮らし」といったような今どきの若い衆の風貌や生活様式を体現するアイコンのようになり、そこから「そういう感じ」を「チー牛」と総称するようになっている。


チー牛の意味とは?チー牛顔の特徴!元ネタは?陰キャ・イケメン?
https://spicomi.net/media/articles/2156


当然、名越氏もそれをわかった上で「ぷよぷよ」のプレイヤーを「チー牛」と揶揄したわけで、これに対して視聴者が一斉に「自社のゲームをプレイする選手に対して、容姿の揶揄を行うのか!」と批判の声を浴びせたのだ。ここでも、強面な外面であり「竜が如く」をプロデュースする名越氏の厳ついイメージが、マイナスに働いたことは否めない。

名越氏は、既に2020年4月1日の段階でセガゲームスとセガ・インタラクティブの再統合に伴うという名目で取締役CCOに降格していたのだが、「チー牛」発言を受けて2021年4月1日には役員の肩書きさえも失い、単なる社員であるクリエイティブ・ディレクターに降格している。

●迷走するセガ


一方、セガはセガでここ数年は首をかしげざるを得ない状況にあった。その代表例が「サクラ革命」の大爆死で、ユーザーをバカにした名越氏の一件と合わせ、セガはいったどうしてしまったんだ?とゲーム業界をざわつかせている。

「サクラ革命」はセガサターンの看板タイトルでもあった「サクラ大戦」を、ソーシャルゲームとしても展開する為に焼き直し、開発されたゲームだった。OPの曲が有名で、おいらもパチスロ版でこれを聞き、ファンになったほどだったりする(これは余談ですw)。

このゲームは、やはり有名なソシャゲの「FGO」を開発・運営しているデライトワークスとの協業だったこともあり、リリース前から大規模な宣伝を展開し話題になっていた。しかもVtuberをゲームキャラの声優として起用するという謳い文句でも煽り、事前登録者30万人を超える態勢となって昨年12月にサービス開始となったのだが・・・。

まぁ、そもそも最近のソシャゲは初めから何も問題がなく運営ができるケースの方が少ないので、ああ「サクラ革命、お前もか・・・」ではあったのだが、セガとデライトワークスという二人の巨人がタッグを組んでこれか、というガッカリ感はひどかったようだ。
とにかく出てくる話題が最初から凄まじく、特に悲惨だったのが登場する女の子のキャラがことごとくブスだと評されたことだ。「サクラ革命」は戦闘する際に霊子ドレスという頭の部分は生身、首から下はモビルスーツという珍妙なスタイルになるのだが、それもあいまって余計に各キャラの顔がクローズアップされたこともあったのか「ご当地ブス集め(このコピー、秀逸過ぎるw個人的に殿堂入りさせているw)」、「ブスのパリコレ」と散々な言われようだった。
もちろん運営もグダグダで、課金システムに手を加えれば改悪だ!と炎上になり、1月の時点でスタートダッシュに失敗したことが明確になった。
結局「サクラ革命」は開始から約7か月後の2021年6月にサービスが終了されている。


サクラ革命から逃げなかった男がサクラ革命を一から振り返ります【サービス終了】
https://www.youtube.com/watch?v=qQa6mxfD_CQ&t=622s


「サクラ革命」の迷走の最中に名越氏の社員への降格が明らかになったので、意地の悪いユーザーからは「もうセガにいても仕方ないので、サクラ革命の立て直しの為に名越はデライトワークスへ拾ってもらえ」などという辛辣な突っ込みが飛び火していた。これが2021年のセガを象徴する展開だったと言っていい。
大爆死した理由は、実働部隊だったデライトワークス側の脆弱な開発態勢にあったと言われている。Youtuberのゲームチャンネルへデライトワークスの社員を自称する人が内部告発をしたほど、開発環境は荒れていたようなのだ。


サクラ革命サービス終了…ヤバいメールが届いたので考察してみた。
https://www.youtube.com/watch?v=qwh5j5B8bzM


だが、そんな協業相手をコントロールできなかったセガに、何も責任がなかったわけでもない。何しろ開発費に30億円もかけたのに、1年ももたず撤退したなど、巨人にあってはならない失態だったと言わざるを得ない。
しかも「サクラ革命」は看板にしていたはずのVtuber起用も果たせず、それに対する謝罪さえしてないない。「チー牛」発言と合わせ、このあたりの不手際連発も「セガがまともな感覚で動いていない」ことがよくわかる。リヤカーにセガサターンを積んで売り歩くCMで話題になった湯川専務のセガは、もうこの世に存在しないということだ。

●そして名越氏は海を渡る?


背景だけでかなりの情報量になってしまったが、名越氏には「チー牛」発言でミソがついていて、セガはソシャゲへ舵を切ったが失敗し、とそれぞれに問題を抱えていることはおわかりいただけだろう。
しかも、段階的に自分の降格を決めた会社に対して、名越氏が忸怩たる思いでいたことも理解できる。特に、経営権を剥奪されたばかりか一介の社員にまで身分を落とされた現実は、早くここから出ていけと言われているに等しいと感じたことだろう。それは、おいらにもサラリーマン経験があるのでよくわかる心情だ。
なので、セガを退社することまでは遅かれ早かれだった。問題は、その次は何なのか?だった。

そこに出てきたのがここで紹介した「名越氏とネットイースの交渉が大詰め」という記事だ。
ネットイースは「第5人格」などで知られている中国大手のゲーム企業で、ここにテンセントがバックにつく形となって、現在日本のゲームクリエイターを買い漁っている状況にある。
中国の動きは、過去記事でFORTNITE訴訟を取り上げた際にも書いているので、ご覧いただけるとよりはっきり現状が見えてくるものと思われる。


アメリカIT禁止法に在韓米軍慰安婦問題、一気に反米色を強めた韓国にバイデンはどう仕置きをするのかな?w
https://note.com/momo19992000/n/nfcf5db337d06


日本には、どうしても共産主義国である中国、というイメージがあり、そこから劣悪な環境で死ぬほど働かされる、という印象が強い。令和の世になってどれほど変化しているのか実態はわからないが、そういう印象が中国と手を組むとか現地で働くという決断の邪魔をしていることは確かだろう。
なので、例えば発展途上国へ潤沢な資金を投下して「一帯一路」構想へ組み敷いてしまうのが中国のやり方になっているのだが、ネットイースやテンセントも根底は同じだ。名越氏との交渉は、おそらく具体的なゲーム開発に関わる部分よりも、報酬面がどれくらいの規模になるのか?が焦点になっているものと思われる。
そして、その金の話こそが日本のゲーム業界が最も弱い部分でもある。

例えば、ゲームプロデューサーという肩書で動いていれば、当然給与も他のエンジニアより高いという印象になるが実際は逆で、管理や営業面がメインになる分そのゲームにつきっきりになることがない為、延々プログラムを組んでいたりデザインに没入せざるを得ない部署よりも安く設定されている、と言われている。月額1000万円を手にしている、という人はいないとさえ言われているほどだ。
そんなところへ、中国の企業は10倍の額でオファーを出してくるというのだ。勝負にならない、という話も納得していただけるだろう。
しかしその一方で、中国ではゲームの規制が始まっており、今後はどんどん締め出される傾向になる、という見方が出ている。
ブルームバーグの記事になる。


中国、ゲーム業界規制を強化−未成年は週3時間のみ利用可能
2021年8月30日 19:29 JST
中国当局は国内ゲーム業界に対する一連の新たな規制強化策を発表した。未成年がオンラインゲームを楽しむことができるのは週3時間までと定められた。
新たなルールは過度なゲーム利用を防ぎ、未成年の体や精神面の健康を守ることが狙いだとしている。国営の新華社通信は国家新聞出版署が公表した通知を引用し、オンラインゲーム事業者が未成年にサービスを提供できるのは金曜と土曜、日曜の各1時間だけだと報じた。休暇中も1日1時間に制限されるという。
中国政府はテクノロジー企業に対する締め付けを全般的に強化しており、ゲーム規定の厳格化もその一環。中国最大のゲーム会社、テンセント・ホールディングス(騰訊)はすでに同様の制限を実施。政府系メディアが今月に入りゲームを「精神的アヘン」だと批判したことで、テンセントの株価が大きく下落していた。この表現は後に削除された。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2021-08-30/QYNCDTT0AFB701


まぁ、中国経済そのものがこの先どうなるかもわからない。
巨大な不動産グループである恒大集団が経営危機に陥っており、実に22兆円にも及ぶ資産の売却を急いでいるというニュースも流れ、中国バブルの崩壊は始まっているという見方も強くなっている。
ネットイースにしろテンセントにしろ、本拠地の中国で商売ができなくなることを見越していて、次の拠点を日本だと考えていることは明白だ。名越氏の獲得も、懐柔できれば今度は名越氏の名前で日本市場の侵食を狙っていく為だろう。

中国共産党としては、金を持ちすぎている庶民は統制の邪魔でもあろうし、バブル崩壊となればそこで発生する損失の穴埋めに、ゲーム企業の資産を接収してあてていく、ということだってあり得る。それが中国という国なのだ。この世の春を謳歌しているテンセントも、いつまで鼻歌交じりに仕事ができるかわからない。ある日突然バリケードが組まれ、自分の会社の社屋へ入れない、という事態だって起こりうるのだ。

もちろん、名越氏が中国の軍門に下り、ゲーム開発で辣腕を奮うことは日本にとって大きな損失でもある。おいらとしては、その部分を訴える形で、名越氏にはせめて日本の会社へ移ってくれ、と願わずにはいられない。

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多々野親父
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