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ロールケーキ

今はもう全然そんなことないんすけど、高校1年くらいまでのおいらは、とにかくロールケーキが大好きだったんすね。当時は現在と違っていわゆるスウィーツの範囲は色々な意味で狭かったし、ましてや洋菓子なんてお歳暮かお中元で我が家に舞い込んできた時とか、酔っ払った父親がホールケーキの安売りを勢いで買ってしまうとか、そういうケースでしか食べられなかったという環境にいたんで、おそらくそのあたりの枯渇感が原因だったと思うんすが、とにかく隙あらばロールケーキを、って感じで過ごしていた時代があったんすよ。
なんでそうなったかというと、・・・よくわからないんすが、多分友達の家に遊びへ行った時に出されたか何かだったんだと思うっす、きっかけは。で、包丁で切られるロールケーキの様子に西洋を感じ、更に食べてその味やら食感に感銘を受けた、と。きっとそんなもんだったんでしょうな。
更に、小学校の頃放送していた萩原健一と水谷豊のドラマ「傷だらけの天使」のオープニングにも影響を受けたんすな。ここでは、ショーケンが冷蔵庫からトマトやら何やらを無造作に出してはガブリと食べたり、ゴクリと飲んだりってのが繰り返されて、最後に「あに見てんだよ?」って視聴者にメンタン切るというシーンが流されてたんすけど、その中でコンビーフの缶の上蓋?を開けてかぶりつくという部分があって、何故かこれをロールケーキでやってみたいと幼心に思ったんすよねぇ。理由なんか既にわかりゃしませんが。

で、ずっとチャンスをうかがってたんすけど、とにかくロールケーキって高かったんすよねぇ。もちろん、おなじみのヤマザキ製は当時もあったんすけど、今と同じくらいの300円弱って値段だったんで(当時の1ドルは200円を遥かに越えるレベル、と言えば300円の高さもわかっていただけるのではないかと)、小学生のお小遣いじゃとても買うことはできなかったんす。中学に入るとレコード購入か学校の側にあった駄菓子屋で買い食いって流れになって、ロールケーキにまで手を伸ばすことは無理だったんですよね、これが。もちろん、その間にお袋が買ってくることもあったんすけど、皆で食べるものを1人でかぶりつくなんて野蛮なことが許されるはずもなく、おいらは内心ジリジリしながら1/8レベルの薄さに切られたそれにフォークを刺して食べてたわけっす。
高校に入って家庭教師のバイトを始め、ようやく経済的にそれが実現できるようになったんすけど、野郎がロールケーキを買うって行為はやっぱり腰が引けて、なかなか実行に移せずにいました。が、冬になって風邪を引き、学校休んで病院に行った帰り、不二家だったかなぁ、ちょっと忘れましたけどとにかくお菓子屋の前を通りかかったその時に、今だ!今こそロールケーキなんだ!って思ったんすね。
お店に入ってロールケーキを、わざと咳をしながら(つまり、風邪ひいてるから野郎でも甘いもの買って食べたくなってんだ、ってことをそれとなく店員さんにアピールしたんすね。なんて無駄なことを・・・)買い、家に帰ったんす、おいら。
で、もちろん憧れのかぶりつきをやってみたんすけど、・・・あんまりおいしくないんだ、何故か。もちろん、風邪で舌がおかしくなってたのがあったのかもしらんのですが、思っていた至福の瞬間なんかやってこなかったんすよ。不思議に思ってその理由を考えてみると、ケーキの部分とクリームの部分の比率が切って食べる時と違うからじゃね?という結論に達するんすね。ってのは、どうしたって最初はケーキ部分が多くなり、途中からクリーム部分ばっかってことになるわけで、いわゆる「ハーモニー的なうまさ」ってのが味わえないんだこれじゃあ、とね。それに気がついたんで、試しにいつもの通り1/8くらいの大きさに切って食べ比べてみると、予想通りの味になっていました、と。まぁ、色々思うところはあったんすけど、違和感の残る食べ方を何年も恋焦がれていたっていう自分の愚かさに悶絶したんすね。
更に悲しかったのは、1人で半分も食べちゃってもういいやって状況になった後に、お袋がロールケーキを買ってきてしまったことだったんす。もちろん、寝てるおいらに持ってきたんすけど、既に自分で買って食べちゃってますとは言えず、また食べたんすよねぇ。1日で2種類のロールケーキを口にするなんて、ちょっと前まで飛び上がるほど嬉しいシチュエーションだったはずなのに、おいらはもう「うぇー・・・」って感じで、もうロールケーキは好物ではなくなっていることも自覚したんすね。

最近はこのお菓子も進化して、フルーツがどっさり入っていたり、外に皮みたいのが巻かれたりなんて、当時にはなかったタイプのものがいっぱい出てますけど、かつて夢中になりながら何かの理由で醒めてしまったものってのは、興味が沸かなくなっちゃうんすよね。

今日御茶うけでロールケーキを出された時に思い出した昔話でした。

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