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建築と少女性①ー神戸女学院にマリみての幻覚をみるー

マリア様の庭に集う乙女達が、
今日も天使のような無垢な笑顔で、
背の高い門をくぐり抜けていく。
汚れを知らない心身を包むのは、深い色の制服。
スカートのプリーツは乱さないように、
白いセーラーカラーは翻さないように、
ゆっくりと歩くのが、ここでのたしなみ。
私立リリアン女学園。ここは乙女の園。

(アニメ「マリア様がみてる」冒頭ナレーション)

みなさまごきげんよう。リリアン女学園が心の母校の百です。
今回はずっと書いてみたかった「建築と少女性」についてと、昨年の7月に神戸女学院の一般公開に参加させていただいたので、その時の感動に語りたいと思います。

⚠️本記事は、建築および少女というテーマに対する私自身の想像に基づく内容であり、実際の神戸女学院の在学生、卒業生、ならびに関係者の皆様とは一切関係ございません。また、これらの方々の名誉や信用を損なう意図は一切ございませんことを、ここに謹んで申し上げます。⚠️

はじめにー建築に少女性を見出す

私は建築に興味を持ち始めた高校生の頃から、建築に少女性を見出していました。洋館が好きなのも大体はそれが理由です。これは建築を擬人化して見ているという意味ではなく、その建物で美少女が送る生活の背景として素晴らしいものだろうな、と思いを巡らせながら建物を見るのが大好きという意味です。美しい建築と美少女は非常に相性がいいものです。
物語の背景にある建築は、いつもその世界観を構成する重要な要素です。とりわけ学園ものに用いられる校舎は、学校というある種の閉鎖的な特性と相まって、時には退廃的な世界観を決定づけます。
ホグワーツの堅牢なゴシックも、『風と木の詩』のピクチャレスクなロココも、『少女革命ウテナ』のアヴァンギャルドなポストモダンも全部そうですよね。建築とフィクションの関係って結構面白いです。
今回はヴォーリズ×マリみてですが、今後はシリーズ化して他の作品の美少女と建築について語れたらいいなと思っています。

また、装飾が生きていた頃の戦前の日本近代建築と、フェミニズム運動第一波は時代的に重なる部分があるので、女性の社会参画と建築装飾の揺らぎって案外連動しているものかもしれない、とも最近は考えているので、その辺ももっと研究できたらいいなと思っています。

リリアン女学園と神戸女学院の美しき世界

『マリア様がみてる』をよく知らない方向けに、あらすじをウィキペディアから引用してご紹介させていただくと以下の通りです。


『マリア様がみてる』(マリアさまがみてる)は、今野緒雪による少女小説。また、続刊を含むシリーズの名称。およびそれらを原作としたメディアミックス作品の総称。イラストはひびき玲音。東京都武蔵野の丘の上にあるという「私立リリアン女学園高等部」を主な舞台とした青春学園小説。同高等部の特徴である「スール」制度と、生徒会である「山百合会」(やまゆりかい)を軸に物語が展開される。略称は「マリみて」。
ある朝、リリアン女学園の高等部に通う1年生・福沢祐巳は、憧れの先輩である「紅薔薇のつぼみ(ロサ・キネンシス・アン・ブゥトン)」こと、2年生の小笠原祥子に「お待ちなさい」とマリア像の前で呼び止められ、タイの乱れを整えられる。後日、このことをきっかけに、高等部「山百合会」のメンバーが集まる「薔薇の館」を友人の武嶋蔦子と訪ねることとなり……[中略]
本作は、福沢祐巳と小笠原祥子との出来事を中心に、乙女達の学園生活を描いた作品である。

https://ja.m.wikipedia.org/wiki/マリア様がみてる

『マリア様がみてる』の舞台となるリリアン女学園は東京都武蔵野市の設定で、神戸女学院とは全く異なるのですが、女子校のミッション・スクールであることが共通しています。もうこれだけで、神戸女学院とマリみてがかなり近い世界にあることがお分かりいただけると思います。
この記事の最初に引用した『マリア様がみてる』のアニメの冒頭のナレーションでは、アール・ヌーヴォー風のタッチで主要登場人物(主に山百合会のメンバー)が描かれ、シーズン毎に違う一枚絵が毎話流れます。ここで視聴者にマリみてのコンセプトを明確に示しているのです。
「背の高い門をくぐり抜けて」学園敷地内の石畳をゆっくりと歩く生徒たちの穏やかな登校風景や、放課後のお茶会が目に浮かびます。それは、ヴォーリズが設計した美しい校舎群を背景とした、緑の中庭やグラウンドなどのオープンスペースの風景と重なります。

ミッション・スクールを数多く手掛けたヴォーリズ先生

もうミッション・スクールといえばヴォーリズだし、ヴォーリズといえばミッション・スクールなんじゃないかってくらい、ヴォーリズはミッション・スクールを設計、プランニングしていました。
ミッション・スクールではないですがアニメ「けいおん!」で主人公たちの通う高校のモデルになった滋賀県の旧豊郷小学校もヴォーリズの設計です。平成生まれのオタクに遺伝子レベルで組み込まれているのが、ヴォーリズ建築なのかもしれません。

日本でのミッション・スクールの設立の歴史は、1870年のフェリス女学院を皮切りに多くが1890年代までに設立されます。明治に確立されたミッション・スクールは大正から昭和初期まで続き、太平洋戦争をきっかけに一つの時代に幕を閉じます。この時代にヴォーリズが建設に関わった主なミッション・スクールは36校もあります。一人の建築家の仕事としてはとても多いです。その中の代表作が神戸女学院ということです。
また、昭和初期までのミッション・スクールの興隆とともに、ミッション・スクールを舞台にした少女小説も流行し、その代表が吉屋信子や川端康成の『乙女の港』でした。戦前から続くこのミッション系の少女小説の系統の正当なる現代版が『マリア様がみてる』と私は考えています。
しかし作者の今野緒雪先生は吉屋信子の『花物語』などをご存じでない中、ご自身が女子校に通っていた経験などからマリみてを生み出したっていうんですから本当にすごいです…

ミッション・スクール建築のプロだったヴォーリズの代表作で、ミッション系お嬢様学校が舞台の少女小説の金字塔である『マリア様がみてる』の幻覚を見るのもなにも不思議ではありません。
聖地巡礼にはなりませんが、マリみての世界観を空間で感じ取ることができるのが神戸女学院なのです。

乙女の園とヴォーリズ建築

ヴォーリズが設計した神戸女学院は1933年(昭和8年)に竣工しています。スパニッシュ・ミッション様式を基調とし、アラベスク文様の装飾も施されたヴォーリズらしい建築群です。2014年には国の重要文化財に指定されています。

ヴォーリズがなぜミッション・スクールにスパニッシュ様式を採用したのかというと、地中海に面する温暖な南欧の自由で明るい雰囲気が、校舎に相応しいと考えられた為です。自由な校風は神戸女学院の特徴で、開校以来制服が指定されていないのもその象徴のように思います。
しかし、スパニッシュ様式の採用にはヴォーリズが育ったカリフォルニア州がかつてスペインの領土だったため、キリスト教の校舎はスパニッシュスタイルが多かったから自ずとそうなったという理由の方が大きいようです。
ヴォーリズに限らず、日本にあるスパニッシュ様式は、スペインから直接伝わったのではなくアメリカの風土に合わせてアレンジされてから日本に伝わっています。フランスやドイツから伝わった他のヨーロッパの様式とは輸入ルートが違うということを留意していただくと、他のスパニッシュ様式を見る時も楽しいです。

神戸女学院の素晴らしいところは、建物一つ一つももちろんですが、やはり広大な敷地が可能にする独自の世界が表現できているところです。まさに乙女の園!!って感じです。ぜひ心にお嬢様を宿しながら一般公開日に足を運んで体験してみてください。
留学中にヨーロッパの建築をたくさん見学しましたが、やはりこの世界観に勝てる建築作品はかなり少なかった気がします。ずっと共学しか経験してこなかった私なんかは「この校舎で青春時代を過ごせたらどんなに素敵な人生だったか!!」と考えずにはいられません。

敷地南側の正門から上り坂を歩くと、ミステリー小説の舞台になりそうなくらい絵になる音楽館が木々の間から見え隠れします。

緑に埋もれる音楽館!!とてもかわいい!!


もうここだけでかなり興奮するんですが、さらに進むと校舎群のある北側に進むと講堂に到着します。

プロセニアムアーチの講堂は格式高くてかわいい。
ここで入学式をしたら、新入生は皆この学校を気に入るはずです!!


一般公開の際は、この講堂で説明を受けたり、グループに分かれたりします。在学生の方が建築について説明してくださり、この建築が在校生にも愛されているんだなと感じることができて、部外者なのに嬉しくなりました。

そして!この講堂の背後にキャンパスの中心である中庭があるのです!

見て下さいよこのアプローチ、、、


中庭は文学館、図書館、理学館、講堂がある棟と同じ棟に礼拝堂と総務館に囲まれていて、私が行った一般公開の際には理学館と総務館以外は中も見学できました。中庭より北側にある敷地については、ほとんど見学不可だったので、すべてを見学するにはやはり来世で入学するしかないみたいです。

クリーム色の壁とスクラッチタイルがかわいい
同じデザインの校舎が無いってすごくないですか。
さすがヴォーリズ先生。
中庭からみたチャペル。
チャペルの窓から入る光が柔らかくて美しいです
椅子に張ってある布のデザインも素敵
図書館棟 閲覧室に続く階段。
パリで見て来たサント・ジュヌヴィエーヴ図書館と構成が似てます
すごく素敵な閲覧室。
テスト前はここで勉強したりするんですか。
閲覧室から中庭が見渡せます。スパニッシュスタイルのかわいい屋根がよく見えました。思ったよりいろんな色の瓦があります。
なんかめっちゃ豪華な空間があった……なんじゃこりゃ……
校舎間を繋ぐ廊下ひとつとっても美しい。
こういう庭に面したアーチが連続してる廊下って、モン・サン・ミシェルが頂点みたいなところありますよね。
とてもドラマチック。
講堂横の廊下
アニメーション映画『きみの色』では神戸女学院がモデルになっており、主人公のトツ子がここでクルクル回っているのをシスターに見られるシーンが印象的でした。
神戸女学院が美しく描かれているので、オススメの作品です!

普段どんな感じでこの校舎を使ったりしているのか、詳しくお聞きしたいところだったんですが、あんまり話しかけて不審者になるのも遠慮したいので控えていました。もし万が一通ったことのある方がこの記事を読んでいらしたら、ちょっとしたエピソードなどをコメントくださると大変うれしいです。

ここまで読んでくださりありがとうございました。
次回の「建築と少女性」は「ディズニー・プリンセスって意外と近代。ロココ様式から考える女性のための空間」についてダラダラかけていけたらなと思います。

参考文献

  • 山形政昭『ウィリアム・メレル・ヴォーリズの建築ーミッション建築の精華』2018,創元社

  • 重要文化財神戸女学院(https://www.kobe-c.ac.jp/foundation/nicp/)最終閲覧:2024年10月23日

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