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新たな響きが生まれる時

 新しい年を迎え、わが家に新しい音が生まれました。

アコースティックギターの弦の響きです。

新春バーゲンに合わせ、次男の冬のアウターを最寄りのショッピングモールに買いに行った際に、お年玉代わりにアコースティックの入門機を購入しました。

幼少より、ピアノや習字や様々な習い事への提案を出したにもかかわらず、何もかも拒んだ次男が、何の前触れもない突然のギターの提案には抵抗を示すことなく、

「いいの?」

と、すんなり受け入れました。

歌うことが自己表現

 何が好きなのか、何をやりたいのか自分でもよく分からない様子の次男ですが、歌うことは好きなようで、常にボカロ系の楽曲を口ずさんでいます。

最近は風呂に入る際に、SONYの球型防水スピーカーを借りに来ます。

湯舟やシャワーを浴びながら、水しぶきと共に好きな曲を歌うのです。そんな歌声が風呂場から漏れ聞こえる日々を過ごすうちに、親としては、音楽で自分を表現する手段を持つのがよいのではないかと考えるに至ったのです。

次男は現在14歳。YouTubeを中心に、誰かが創作した既存の価値観や世界観を日々受け止める生活から、そろそろ自分自身を主体的に表現し、開放する時期に来ているのではないかと感じていたのです。

長年傍にあるにもかかわらず、鍵盤には触れようとしない次男ですが、もしかするとギターであれば手に馴染むかもしれない。どちらかというと一人でいることを好む彼の人生にとって、自らが積極的に生み出す音と暮らすことは、将来にわたる長い人生の中で、無二の友となることができるかもしれない。父親としてそんな予感を感じ、彼が成長し、新たな世界への扉を開く後押しとして、ギターの購入を勧めたのでした。

いつもは何に対しても消極的に断る次男ですが、今回は戸惑いながらも親の提案を素直に受け入れ、新しい世界との出会いを果たしたのです。

人生を彩る新たな音の誕生

 今春中学3年生、都内の公立中学に通う次男は高校受験生となります。

その様なタイミングで新たな興味を与えることが、果たして受験にとってプラスになるのか?そのような疑義は一つも湧きませんでした。

おそらくは、これから始まる長い受験期間の中で、相当な時間を6本の弦の響きに費やすことになるでしょう。でもそれは、彼の成長にとってはプラスにしかならないのではないかと感じます。

勉強の間の休息や、教師や友達や家族との間で生じる葛藤、思春期の中で経験する抑えきれない様々な感情を、これまでのように第三者の発信する世界への共感の中に安らぎを求めて中和し解消するよりは、若い自らの心の声が生み出す世界の中に吐き出す方が、より前向きな人生につながるのではないか。

次男は思っていたよりは、ずっと勉強ができることが分かり、兄の後を追いかけるという道がないわけではないですが、コロナや行き過ぎたリベラルにより現在進行形で引き起こされる、これまでの正義や伝統的価値観が脆くも崩壊する中で、テストの点がどうだとか、どの学校に進学するとかいう、他人軸を前提とした価値観を追い求めるよりは、他者の評価や視線とは異なる、自分軸に対する充足感を如何に満たすことができるかを身に着ける方が、より大切なことではないか。

そう直感的に感じ、それを始めるべきタイミングで始める、という選択をしたのです。

室内を彩る豊かな響き

 家に帰ると早々部屋に籠り、初めて手にする自分だけの道具の感触を確かめる次男。

しばらくすると彼の部屋からポロンポロンと新しい音色が聞こえてきました。

これでわが家には、大小3つの弦楽器と、ピアノと電子ピアノがそれぞれ1台、おそろしく狭い室内には似つかわしくない、ちょっとした室内編成が生まれました。

コロナ禍の在宅勤務において、オンライン授業の合間に長男が奏でる弦の響きを聴きながら仕事をするという贅沢な時間を経験してきたこの2年、3年目に入り新たな音色が加わることとなりました。

どこからともなく流れ聞こえるまだ若い朴訥な弦の響き。

そのまだ音楽とは呼べない遠慮がちな音のつぶやきが、室内にポロポロとこぼれる様を耳にするのは、親として過ごしたその時間の積み重ねを労い、改めて豊かなものとする音の魔法です。

子が奏でるメロディーに家庭の中で触れることは、このような荒んだ世の中にあって、本当に得難く充実した気持ちをもたらしてくれます。

できることならば、この新しい音の響きが、次男にとってしっかりと手に馴染み、先々の生活の中で生じる悩みや葛藤を癒す友の一人として長く寄り添ってくれることを願いながらも、当面は自らの歌声を載せるコード進行役の道具として機能する日が来ることを楽しみに、気長に待ちたいと思います。

今の子どもたちは、道具さえあれば、それを活用するための納得できる方法論を自らネットで探し当て、学ぶ手段を幼少から自然と身に着けています。新しい楽器が、次男の世界観を広げ、人生に豊かさや彩を与えてくれることを願っています。

ではまた次回。


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