旅の始まり ㉚
※注)これは、2020年から私の身の上に起こったことを
思い出しながら、それを乗り越えるまでの体験を
書き綴っているお話です。
先の事はわかりませんが、今現在はたくさんの出来事を超えて
新たな課題と共に元気に生きています。
※注)以下の内容は、私個人が聞いたり、興味を持ち、体験して感じた事をそのまま書き綴っています。個々の選択や考え方、各分野での専門家や医師の見解はそれぞれ違うと思います。癌治療はセンシティブな問題ですが、正解はないのです。自分の体験が誰かの何かヒントになれば幸いです。どうぞ、その事をご理解の上、読み進めていただければと思います。
(2021年6月)
2020年から始まった人生最大の危機。大波に呑まれては溺れそうになりながらも必死で泳ぐ私。こんな怒涛の日々を経て、一旦一人になりたいと感じ、家族とは、しばし離れて浄化の旅に出ることにした。
この先、自分が決めていく決断は自身の生死にも関わってくる。日々の生活から抜けずらい状況に合えて、家を離れる決意をしたからには、この先何があっても本格的に自分で命の責任を取っていく事になる内心ブルブル震えている私もいたが、振り返らずに行くしかない。
そんな感じで、旅の準備も整い、新しい場所への緊張や、久々の旅に対するワクワク感なんかもありながらも、心のどこかでは、以前から考えていた私がいなくなっても大丈夫か?の予行練習。少し前から、中学生の長男には、食器洗いや洗濯など、身の回りのことは自分でできるように少しづつ教えていた。
男の三人暮らしもどんなものになるのか、不安と少し寂しい感じと……。
とはいえ、この頃すでに長男は、家のことを一人でできるようになっていたし、簡単な朝食を作って、弟に振る舞うまでに成長していた。だから、きっと弟の世話やパパのお手伝いもしながら頼もしい姿を見せてくれるだろうし、夫は元々家事ができるし料理もうまい。なので、必要以上の心配はしていなかった。唯一気になるところは、男三人軍団…。やはり細かいところまでは気が付かず、水回りの汚れや部屋がとっ散らかることは、覚悟しておかなければと思っていた。
そういえば、延命治療だと言われた時に、夫には子供達を見てくれる新しいお母さん探してはどうか?と提案したりもしていた。バカなことをと突っぱねられたけど、正直、彼もまだ若いし、私からは自由になって自分の道を歩いてくれたらいいとか思ったりしていた。子供達に今世で会えたのもそうだし、彼には何度も精神面でどん底に堕ちた時には励まされ、命を助けてもらっているから、出会ってから今日まで私といてくれただけでも十分。ほんとに感謝しかない。
そんなことを出発前に考えては、ウルウルしている私をよそに、みんなは元気に見送ってくれた。
約二時間半の電車の旅。一人電車に揺られながら物思いにふける。
だんだんと目的地に近づくにつれて、緑の多い景色に変わっていく。
家から離れた寂しさは徐々に和らぎ、自然がキラキラと新たな出発をお祝いしてくれてるかのような感覚だった。
熱海から伊東市までの区間に乗り換えた電車は今まで見たことがない可愛い車両だった。海が見れるように、座席は窓向きに設置されていて、全面窓になっている。電車好きな二人に見せたいから、元気になったらまた来ようと思った。
目的地は静岡県伊東市のヒポクラティック・サナトリウムという、断食ができる保養所だ。この施設には人間にとってより自然な方法で身体を整える方法を推奨する漢方医のドクター石原結實先生が運営する施設だ。週に3.4日は先生が診察室にいるので、断食中何かあったら相談ができる。希望であれば診察を受ける事ができる。
この保養所は「癌が治る」と誤解を招くかたちで、有名になってしまった経緯もあり、治すという目的では利用することはできない。
あくまでも体質改善と休息を目的とする利用が可能だと説明を受けた。
私の場合はもともと、治らない延命治療しかないと絶望的な医師からの宣告もあり、この時は自分にできること、その時々に必要な事をしたかったので、治るという期待もあまりなかった。でも、やはり状況は良くしたいし、まだ今後の治療をどうするか気持ちは決まらずだったから、治療を受けるにしても、出来る限り身体を楽にし軽くして、何か生きる希望を探したかった。
後ほど出てくる話だけど、私のような状況だと治るという言葉や期待は、時に依存的になって、現実がついていかなかった時に、逆に自分を苦しくさせる原因にもなってしまうので微妙な表現だと感じている。
なので、保養所の説明もすんなり理解できた。
ただ、自分なりに生きると決意を決めて、身体の治癒に向けての意識は持ち続けたいとは今でも変わりなく思っている。
私の場合、癌になってからも働き、悩み、身体が動けば結局また忙しくしていたので、手術で一旦リセットできていた身体も徐々に忙しかった過去に戻ってしまっていた。日々の食事ケアや良いとされるサプリなどを飲んだりしても、身体のデトックスが一向に起こらなかった。なので、溜まったストレスを解放したり、心身共にデトックスを真剣にしたいという状況だった。とにかく身体が重くて、気持ちも上がらない。駆け巡る二年間の疲れを癒したかった。何より食べる事が好きだから、家での断食は難しすぎた。
伊東駅からは通常バス(本数が少ないので時間合わせが必要)が出ていて、保養所近くのバス停まではそれで行く事ができる。タイミング良く帰りの送迎利用者がいる場合は、無料で送迎車に乗車できる。
なので、予約の時に聞いてみるとよい。
帰りは送迎のお願いをしておけば、駅まで送ってもらえるので安心です。
この日はタイミング良く乗せてもらえたのですごく助かった。
もう、すでに送迎車から感じがよい。車の中で運転手のおじさんと楽しく話しながら、約30分の距離もあっと言う間に到着。チェックインの時もお部屋もかなりいい感じ。 自然に囲まれた伊豆の別荘地に位置する保養所は、すごく綺麗で温かい雰囲気で働く人達もすごく優しくていい人ばかりだ。
着いた瞬間からほっとして安心できるスペースだ。
値段は部屋によって変わるけど、この時は自分にご褒美として、妥協せず気に入った部屋を予約していたので大満足だ。
チェックインした日は、ちょうど先生の診察可能日と重なっていたので、事前に診察の予約を入れていた。
到着後、少しして先生の診察がある。私の体質やら今、抱えている問題などをじっくり聞いてくれる。
診察室に入った瞬間びっくりするくらい先生はフレンドリー。
有名な先生だし、怖かったらどうしようとか、私は緊張していたけど、想像とは真逆で、前からの知り合い?家族のように、話の終わりまで気さくに優しく接してくれた。たくさんの著名人や利用者が信頼を置いている感じで、やはり実際会うと本やメディアではわからない人間性に触れる事が出来た気がする。自分の想像とは違うかった。素朴な人柄なのに何か超えてる感じがした。
うまく管理できていない、ストレス太りの私を見ても、気にしてるのは私だけ。先生は全くジャッジメントがない状態で、純粋に私とコンタクトしてくれる感じだった。自己否定の塊のような私が、先生のポジティブなエネルギーで、不思議と自然に自己肯定感が上がっていく。やっぱりこのレベルまでいくと、器の大きさなのか何かが違うと感じた。健康維持や自然療法をすごく研究していて、長年の経験値と人間力が人を惹きつけるのがわかる。何よりこのライフワークがとても楽しそう。たくさんの人に慕われて、利用者が、何度もこの保養所に戻ってくるには理由があるんだと思えた。日常での生活ではあまり感じる事ができない対応にかなり感動してしまった。 疲れ果てて落ち込んだ気持ちが一気に晴れる感じ。会うだけで元気が出る!そんな先生だった。始終楽しい話で診断も終わり、断食メニューが決まった。
この時点で、不思議と悩みの半分はすっ飛んだ気持ちだった。
私は水太りの体質だから、逆に100%断食はむかないので、朝昼ニンジンジュース、昼は具なしのお味噌汁。夕方には軽い食事(重湯)が出るコースに決まった。
しかし、固形物を食べずにやってけるのか?かなり不安だけど、今のところ全てが順調に進んでいる。ドキドキの反面かなりワクワクするプログラムが用意されている。初めての体験に恐る恐るな不安な気持ちは、いつのまにかプログラムが終わる頃には、どんな自分になっているのか、どんな10日間になるのか楽しみで仕方ない気持ちになっていた。
……続く