八目鰻(やつめうなぎ)
八目鰻(やつめうなぎ)
江海所々是有。就中、信州諏訪の海に採る物を名産とす。上諏訪、下諏訪の間一里 許 は冬月氷満て其厚さ大抵二三尺に及ぶ。其寒極まる時はかの一里許の氷の ● にあやしき足跡つきて一條の道をなせり。是を神のおわたりと号て往来の初めとす。此時に至りて鰻を採れり。
先氷のうへに小家を営むなり。是を建るに火を焚きて穴を穿ち、其穴に柱を立て漁子の休ふ所とす。又、網、或は、縄を入るべきほどほゝゝをはかり、 処ゝ を穿にも、薪 を積焚き、延縄を入れ、共餌を以て釣り採る事、其数 夥 し。氷なき時はうなぎ掻を用ゆ。又、此海に石斑魚多し。一名、赤魚、又、赤腹とも云。是は手繰網を竹につけて、氷の穴より入れ外の穴へ 通 して採なり。
付記
本草綱目に鱧といふは、眼の 傍 に七つの星ありといふに付て、今、此魚に充たり。或云、今も 漢渡 の鱧は一名、黒鯉魚と云ひて、形 鯔に似て小く、鱗 大きく、眼の傍に七つの星あり。全身脂黒色にして 深黒色 の斑点あり。華人長嵜に来り、是を九星魚といふ。 然 ども星八七つなり。和産にあことなし、怨庵先生八目 鰻 に充たるは 誤 なり。
近来、南部にて、一種首に七星ある魚を得て、土人、七星魚といふ。是、本条の鱧のたぐひにや否や、未其真を見ずと云々。
本朝食鑑に説ところの鱧は、涎沫多く、状 略 鰻●、或は、海鰻 の類ひにて、大なるもの二三尺余、背に白点の目の如き物はは九子あり。故に八 目鰻 と号く。其肉 不脆 、細刺多くして味美ならず。唯、薬物の為に採るなりと云なり。案ずるに、本草の鱧の条下に疳疾を療ずることを裁ざれば、鱧は鱧にして●の八目鰻と別物なる事 明 なり。又、食鑑に云ところは、疳疾の薬に充てゝ、此の八目鰻なること疑ひなくいひて、鱧の字に充たるは 誤 なるべし。所詮、今の八つ目鰻、疳疾の薬用にだにあたらば、漢名の論は無用なるべし。
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筆者注 ●は解読できなかった文字を意味しています。
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