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【人相学】『武者鑑』新田左中将義貞/勾當内侍/正成室/楠判官正成

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『武者鑑 一名人相合 南伝二


新田につた 左中将さちうじやう 義貞よしさだ
義貞よしさだは、新田につた朝氏ともうぢ長男ちやうなんなり。護良もりよし親王しんわう令㫖れいじて、義兵ぎへいあげて、北条ほうでう大敵たいてき一戦いつせんちうし、また後醍醐ごだいごていちよくうけ [■は⺷+水] て、尊氏たかうぢと  しば/\  たゝかつて、しば/\  かつといへど、永久えいきうこうならず。うるふ七月二日、越後ゑちご黒丸くろまる合戦かつせんに、白矢 ながれやためめいおとす。惜哉をしいかな

まこと義心ぎしん鉄石てつせきのごとく、また勇智ゆうちひいで良将りやうしやうなれど、女色によしよくおぼるゝのくせありし。

これその 人相にんさういはずして、ほろぼすのさうなり。もつとも軍功ぐんこう莫大ばくだいにして、一朝いつてうつくしがたし。たゞひととして つゝしむべきは 婦人ふじんなるをや。


勾當内侍こうたうのないし
内侍ないしは、後醍醐ごだいごてい官女くわんぢよにて、秀才しうさい英智えいちにして、しか世界せかいいろ管領くわんれうにして、じつ絶倫ぜつりん美貌びぼうなり。

義貞よしさだ参内さんだいして、垣間かいましより、ふかくも 掛恋けんれんして、有繫さすが勇将ゆうしやうおもひにしてありけるよしを、みかどきこしめされて、いへつまくだされければ、よろこぶこと 大方おほかたならず。偕老かいろうちぎり、あさからざりし。

かくあつ聖恩せいおんおもひ、なほ忠臣ちうしん鉄石てつせきのごとくにして、つひ戦死せんしせしとかや。

内侍ないしは、まゆながく清く、 ひいでかみながく、はだこまやかにして、手足しゆそくちいさく、ふし こまかく、まこと美人びじん聡明そうめいさうかねたり。

※ 「掛恋けんれん」は、眷恋けんれんのことと思われます。恋いこがれること。
※ 「偕老かいろうちぎり」は、年老いるまで長く連れそう、むつまじい夫婦の関係のこと。


正成室まさしげのしつ
正成まさしげの室は、面躰めんてい みにくき といふにはあらねど、美人びじんともいふべからず。しかりといへど、その こゝろきよきことは、たまごとくにして、さういはば、はなばしら 天中てんちうつらぬき、口元くちもと ゆたかにちいさし。それ、如斯かくのごときひとは、聡明そうめいにして、智慧ちゑありといへり。あたれるかな。

正成まさしげ湊川みなとがは にて討死うちじにをせられしとき尊氏たかうぢ そのくびおくる。子息しそく 正行まさつら 十一才なりけるが、これて、もくれ、こゝろきへ佛間ぶつまいり自害じがいせんとするをて、はゝ いそおしとゞめ、いま 御首おんくびおくりとすことまことなさけけにあらず。味方みかたをくどかんため謀斗はかりごとなりとて、おほいしかり、それより 幼少いとけなき 子供こどもあるじとして、しろまもり、よく 士卒しそつあはれむほどに、ことなく 正行まさつら廿さいとなりければ、いまきみためいくさおこし、かなはざる時は すべしとすゝめられしは、天晴あつぱれ婦人じじんかゞみに● 貞才ていさいともひいたり。


くすのき  判官はんがん 正成まさしげ
正成まさしげは、幼名ようめい多門丸たもんまるいふ。かつて、その はゝ毘沙門天びしやもんてんいのりて、うめればなり。

そのかほ方長おもながにして、おとがひほねまろく、みゝもとこへずしてにくあり。ひたい たかく、まゆながく、びんにとゞき、まなこ中眼ちうげんにして、瞳子ひとみふたツあり。はなまろくして、ゆつたりとへ、くちおほいにして、歯列はなみよく、しろひかりをふくむ。これ智恵ちゑ 万人まんにんすぐれ、あぐるのさうなり。

まことなるかな。楠公なんこう筹策ちうさく神機しんき妙算めうさんにして、またよく 忠志ちうしをあらためず。古今こゝん絶世ぜつせ賢臣けんしん本朝ほんてう無双むさう良将りやうしやう ともいひつべし。

※ 「楠公なんこう」は、楠木正成の敬称。
※ 「筹策ちうさく」は、はかりごと、策略のこと。籌策ちゅうさく
※ 「神機しんき妙算めうさん」は、神のようなすぐれたはかりごとのこと。



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