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【観音霊験記 秩父巡礼】第十二番仏道山野坂寺/甲斐の商人

出典:国立国会図書館デジタルコレクション
観音霊験記 秩父巡礼十二仏道山野坂寺 甲斐の商人

観音霊験記 秩父順禮ちゝぶじゆんれい 十二番 佛道山ぶつだうさん野坂寺のさかでら

 おひに くるしきものは 野坂寺のさかでら
   今おもひしれ のちの世のみち

奉額
 みちとへば てふさきたつ もせかな

※ 「野もせ」は、野面のもせ。野原一面のこと。

甲斐かひ商人あきんど
往昔むかし甲斐かひくに商人あきんど  なにがし といふもの、このところ通路つうろしけるとき山賊さんぞくども五六人たちいでて、着類きるゐはぎしうへ、のちわざはひ なからんために、ひきらへて、きりころさんとしけるゆへ、商人あきんどとてかなはぬいのちと、たゞ一信いつしいん南無觀世音なむくわんぜおんとなへしかば、はだまもりのうちより光明くわうめう  いなづま  のごとくかゞやきければ、山賊さんぞくどもられて、ひらくことあたはず。

これによつて、立所たちどころぬすとりたるものをかへして、詫言わびごとしければ、のひらきけるゆへ、三四人はにげさりしが、頭人とうにん佛罰ぶつばちに恐れて、たゞちに遁世とんせいして、こゝすみけるうち、かの商人あきんど古郷ふるさとより聖徳しやうとく太子たいしつくり給ふ 觀音くわんおんぞうもちきたれば、ともちからあはせて當所たうしよだうたてり。いま本尊ほんぞんは、すなはちこれなり。

※ 「遁世とんせい」は、隠棲いんせいして世間の煩わしさから離れること。



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