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【観音霊験記 秩父巡礼】第六番荻の堂向陽山卜雲寺/禅客

出典:国立国会図書館デジタルコレクション
観音霊験記 秩父巡礼第六番荻の堂向陽山卜雲寺 禅客

観音霊験記 秩父順禮ちゝぶじゆんれい 第六番だいろくばんおぎだう 向陽山こうやうざん卜雲寺ぼくうんじ

  初秋はつあきに かぜふきむすぶ おぎだう
    宿仮やどかりの世の ゆめぞさめける

奉額
  ふむべつの 外の夜明よあけや ぬくめどり

※ 「ふむべつ」は、分別ふんべつと思われます。
※ 「ぬくめどり」は、冬の寒い夜に、鷹が小鳥を捕まえて足を温めること(足で掴んでホッカイロのようにする)。翌朝、鷹はその小鳥を放すと、その日は小鳥が飛び去った方向には行かない(狩りをしない)とされるそうです。

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『知識之金庫:少年文学(ぬくめ鳥)』


禅客ぜんかく
當山たうざん本尊ほんぞん行基ぎやうぎさくにて、往昔むかしわづか草庵さうあん安置あんちしけるが、やまそびたにふかきがゆへ、とりけものほかは、はるあき彼岸ひがんにもきたものもなかりしが、こゝに一人の禅客ぜんかくありて、六年むとせあひだ草庵さうあん禅定ぜんでうして、有無うむ工夫くふうをいたしけるところ、あるたれともらず一首いつしゆ和哥わかえいず。

※ 「禅定ぜんでう」は、仏語。精神を集中して三昧さんまいに入り、寂静の心境に達すること。

そのうた
  はつあきに かぜふきむすぶ おぎだう
    宿仮やどかりの ゆめさめけれ

禅客ぜんかくこの一首いつしゆきいて、たちま多年たねん工夫くふうせし、無常むじやう迅速じんそくをさとり、そのこゑところたづね見れば、一株ひとかぶおぎもとに、その詠哥えいか短冊たんざくあるによつて、これぞまこと観音くわんおん灵感れいかんならんと、そこにちいさきだういとなむがゆへ、おぎだうといへり。のちのひと種々しゆ/\灵験れいげんかうむりたるがゆへ、いま堂舎だうしや建立こんりうして繁昌はんじやうとはなれり。

※ 「無常むじやう迅速じんそく」は、仏語。人の世の移り変わりは非常に速く、人生ははかないものであること。
※ 「灵感れいかん」「灵験れいげん」は、霊感、霊験。



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