⑨ アマネ
年齢:19
性別:男性
身長:175cm
一人称:俺
二人称:お前
所属:ヴァサラ軍九番隊志望予定
刀の色:水色
極み:雨の極み「天穹一閃」
極み技
「滝落とし」
剣に水を纏わせて、突然の豪雨に襲われたかのような激しい斬撃を与える。
容姿
やや無造作な銀髪。切れ長の青い目をしている。首からは妹からもらったペンダントを肌身離さず身に着けている。Tシャツとズボンを身に着けていることが多く、ほとんどが動きやすさ重視で決めている。
人物
正義感や責任感が強く、唯一の肉親である妹を守るために鍛錬を欠かさない努力家。鍛錬を欠かさない一方、新聞配達や飲食店など複数のバイトを掛け持ち、生活を支えている。
自分が妹(カスミ)を守らなければと思う一方で、シスコンの気があり、妹の事となると視野が狭くなりやすい。サルビアの街出身。血の繋がった母(コハル)は病死、父(ソラト)は街が戦火に巻き込まれた際に死別している。
父親の親友でもあったウキグモがソラトとカスミを引き取って育てている。ウキグモとそのパートナーである繭は、もう一人の両親のような存在。ウキグモは剣の師匠でもあり、尊敬しいつか越えるべき存在と思っている。
趣味は筋トレなど自分を鍛えること。
(@夕月様)
目覚めたルベライトをカスミが連れて行ってくれたので、ジャンニはウキグモと共に自警団の訓練場所に来てみた。
自警団の団員は皆筋骨隆々としてよく鍛えられている。この小さな街でヴァサラ軍の隊員にも引けを取らない訓練ができているのは、さすがウキグモだ。
ウキグモの姿を見ると、団員達の顔つきが変わり、良い緊張感が漂った。
ヴァサラ軍の人間は普通カサーベルを使う。
ジャンニも入隊時カサーベルの訓練はしたのだが、戦闘スタイル的に両手が空かないのは不便で、結局実戦では使わなかった。
サーベル型にしろレイピア型にしろ、メイン武器は片手で扱うのだが、ウキグモは両手で使っていた。つまりこれはソード型なのだが、体に重ねるような構えは特徴的だ。
皆の斬撃を右手で辿っているうちに実物も見たくなったので、広場の木陰にまとめて置いてある、予備用の練習刀を手に取ってみた。
以前ソラトのところで武器を見せてもらった時、触るだけで切れそうなほど薄い刃の、水が滴るような美しさに驚いたことがある。
鞘から少し引き出して見てみると、刃が潰してある練習刀ではあるが、刃の部分とその他の部分が別の金属のように見えるのは同じだった。
しみじみ見ていると、背後から声が聞こえる。
「お前、今アマネの相手できるか?」
「できますけど、私でいいんですか?」
と言ってから、ふと思いついた。
「その前に、ちょっとだけアマネ君に付き合ってもらってもいいですか?」
せっかく珍しい剣が置いてあるのだ。使ってみたくもなるというものだろう。
アマネの前に行きながら、この刀というものの仕組みをざっくりと調べる。
切先まで片刃で剣よりは反りが強く、引き出す最初に少し引っ掛かりがある。だがそれを越えると鞘を滑るように抜けるので、最初から出しておかなければ戦えないということはない気がした。斬る時だけ出せば棒としても使えそうだ。
使いたい時にすぐ抜けるかどうか、片手で鞘から抜いてみる。最後に刀身が少し鞘に引っかかるが、左腕を引くようにすると最後まで抜けた。
いけそうな気がするな。
向こうではウキグモがアマネに言い含めてくれている。実戦に帯刀するというわけではないのだが、向こうから剣を奪った時にどう使えるかのヒントになるのではないだろうか。
向かい合うと「お願いします」と、アマネは礼儀正しく頭を下げた。
さっきの訓練の時も大きくなったなあと見ていたが、実際に向かい合うと目が覚めるような気がする。
「こっちの練習に付き合ってもらってごめん。遠慮せずにお願いします」
言って頭を下げ、アマネが構えるのに合わせて左腰の帯刀の位置に刀を構えた。
アマネがこちらに向かって一歩踏み込んで来るのを見て、内心呟く。
うわ、いい踏み込みだな。
自信がある力強い一歩だ。振り下ろされる一撃は鋭いだろうと、それだけで予想できる。
敢えて避けず、鞘を少し下ろして刀身で受けたが、やはり一撃が重い。
骨まで響くような打ち込みは、同年代の一般隊員以上だと感じた。
受け止められた所からまた振り上げて袈裟懸けで切ろうとして来るのを同じように刀身で受け、そのまま相手の刀の切先まで滑らせるようにして押し返す。
押し返した勢いで一歩下がるとすぐに間合いに踏み込み、鞘の先でみぞおちを突いた。
2人の間に少し距離ができる。
アマネは苦しそうではあったがすぐに体勢を立て直した。
向かって来る速さもほぼ変わらない。
タフだな。
立ち上がれなくなる者もいるかもしれない一撃なのだが、微塵も闘志が衰えていない。
構えが低ければ頭上を跳び越えながら首筋を打つつもりだったが、構えは上段だ。
また刀で受けようと思った時、見えてしまった。
胴に一閃。
ここを狙えば確実に斬れるという軌跡。
それが、光るようにはっきりと見える。
刀の柄を握り直しながら、先ほど刀身を抜いた時の感覚を思い出す。
抜く瞬間の抵抗がなくなる辺りまで抜いておいた方が良いだろう。
鯉口をアマネに向け、鞘を持っている方の親指で数センチ押し上げた。
大きい一歩と、その速さと力が載った刃。
それがアマネから、間違いなく、綺麗に真っ直ぐに振り下ろされた。
刃が落ちてくる場所を避けつつ姿勢を低くし、刀を一気に抜き払う。
横一閃。光る軌跡を刃が過たず辿る。
入った
と思ったが、キインと音がしたかと思うと、お互いの切先が折れた。
陽光を反射する尾を引きながら、地面に落ちて跳ねる。
それを見送りながら、ジャンニは息をついた。
…合わせてきたのか。
瞬間的に斬撃を修正して受けるとは思っていなかった。
「ありがとうございました」
と本心からの感謝の言葉が出て、自然と頭が下がった。
「痛ってぇ!」
と、痺れた手から折れた刀を取り落としていたアマネが
「え?…ぅえ?」と変な声を出している。
これは、ちゃんと本気でいかないと失礼だな。
ここからが本番だ。
自分の空色の刀を構えたアマネが向かい側に立つのを見て、ファイティングポーズをとった。
モードが切り替わる。
視野が広くなると共に、意識がターゲットに収束する。
さっきやってみてわかったのだが、アマネは攻撃前に少し構えが上がる。
最初の構えの中段。
それを確認すると同時に一気に間をつめて懐に潜り込んだ。
刀で防ぐには距離がなさすぎて、適度な間を取ろうとしたアマネは一歩下がりながら刀を構えようとする。
瞬間、胴が空く。
的が浮かぶ。
寸分違わず狙い、ストレートを入れた。
ジャンニが慣れている戦闘スタイルは、鞘でつくのとは比べ物にならないくらいの力だっただろう。咄嗟に腕を下げて少しガードしたようだが、衝撃に数メートル下がる。
だが倒れ込みはせず、踏みとどまって打たれた所を庇うように剣を構えた。
そうだろうと思っていた。予想通りだ。
間髪入れず距離を縮めると、それにもしっかり反応して切り掛かって来る。手加減していない速さなのだから良い反射神経なのだが。
やはり構えが上がるんだな。
さっきより狭い的に前蹴りを入れて距離を離し、同じ足で剣を持つ手に回し蹴りを入れると手首少し上に当たる。
刀を落としそうになったアマネだが何とか握り直すと、構えながら唱えた。
「雨の極み『天穹一閃』滝おとし」
ふっと、鼻先を水の香りが撫でた気がした。
水色の刀身が水分を纏ってゆく。
これは…受けたらマズいヤツだな。
アマネは極みを使い出してからまだ日が浅い。極み技が出ている間は、斬撃の軌跡の急な修正はできないはずだ。
纏った水分を引きながら剣が一気に振り下ろされようとしたのを見計らい、姿勢を低くして脇へ避けながら距離を縮める。
どこまでの範囲に影響を与える技かもわからなかったし、返す刀で切られるのも避けたかった。
背後を取るか。
地面を蹴る力と伸び上がる勢いを使い、アマネの左肩を借りてハンドスプリングの要領で背後に降りる。
と同時にドッと音がして、地を割く勢いでアマネの刀が土に食い込んだ。
ジャンニは今、無防備な背後で低い姿勢で構えている状況だ。戦場なら、足か胴に蹴りを入れ立ち上がれなくするところだろう。
だが、今回は背後からアマネの体を抱えるように横に投げ、目の前に現れた刀を抜くと遠くに投げる。
「そこまでだ」
ウキグモの声がした。
なるべく怪我をしないようにしたはずなのに、地面に座り込む形になっているアマネは手首を押さえてうずくまったままで声も出ていない。
さっきの蹴りか。
気づいて、慌ててアマネの元に行って手を取った。
力の加減はした。だがひどい青あざになっていて、少し腫れてもいる。
骨折でもさせたかと血の気が引く気がするが、動かしてみると、痛がりはするがちゃんと動いた。
「ごめん。君が強かったもんだから、ついやり過ぎた」
実際問題、素手と武器では武器がある方が圧倒的に有利なのだ。何しろ間合いが違う。
いくらジャンニの体格が良いとしても、カサーベルを持って腕を伸ばした距離より足の方が長いということはない。空中を使うことができなかったなら、おそらく武器を持って戦わざるを得なかっただろう。
なので、いかに早く相手の武器を制圧するかというのが勝負の分かれ目になる。
だから一対多になった時はなるべく山や森の中に誘導するし、戦闘配置自体もゲリラ戦に有利な場所に配属されていた。
斬撃は見えていたのだから、刀を落とさせることを目指さず続ける方法はあった。
だが戦場ではそんなことはしないので、敢えて手首も狙ったのだが。
「大丈夫。全然平気だよ」
答えるとアマネは立ち上がり、大きい青あざが痛々しい左手を握ったり開いたりする。そして投げられた刀を拾いに行った。
「何分だった?」
ジャンニの元に帰りがてらウキグモに聞き、「30秒だな」と答えられている。
いやさすがに1分ぐらいはあったのではと思うが、アマネは素直にそれを信じたようだ。
目の前に立つと、頭を下げた。
「ありがとうございました。良い勉強になった。次は絶対に何分か保たせられるようにするから」
いや、同年代の隊員に引けは取らないと思うよ。
そう答えようと思ったのだが、それは言わなくても良いと言いたげなウキグモの圧を感じる。
「こちらこそありがとう。楽しかったよ」
それだけ言ってアマネと握手をした。マメがたくさんあるゴツゴツした手の平は、毎日の努力が見えるようだった。
夜ルベライトが眠るのを見守っていると、布団の下からいつも持っている絵描き用のノートを引っ張り出してジャンニに渡して来た。
「見てもいいの?」
聞いてみると、「うん」と頷く。いつも1人でも楽しそうではあるのだが、今日は表情が明るく、笑顔も元気がある気がした。
パラパラとめくってみると、今日の絵はここからだ、とはっきりわかるぐらい、人物が大きく色使いも鮮やかなページが出てくる。
1ページ1人で、それぞれ個性的な色々な服を着て立ったり座ったりしていた。
思ったよりたくさんの子と会ってたんだな。
さすがカスミだ。任せて良かったと思う。自分の友人達に紹介して、上手く溶け込ませてくれたようだ。
一通り見た後話を聞こうと思ったが、久しぶりにこんなに遊んで疲れたらしく、既に寝息を立てていた。
もう少し絵をゆっくり見たいので、ウキグモにルベライトを任せて外に出てみることにした。
星の量が違うなあ…。
夜空が曇るほどの星の光だ。
微かに吹く風はしっとりと土の香りがし、街と比べて少なく暗い街灯が局所的に土肌を照らしている。光がついている窓も消えている窓もあるが生活音が全く聞こえず、全ての音が地面に吸い込まれているように感じた。
家から灯りが漏れる場所に位置取ったが、自分が夜の一部になったような静かで広い気持ちになり、何となく、街灯に群れ争う虫を見ていた。
不意に、アマネ宅から戸を開け閉めする音がした。
どうしたのだろうと行ってみると、剣を構えたアマネが太刀筋を確認しながら素振りをしている。
邪魔をしてはいけないと家の陰から見ていたのだが、素振りの時には構えが上がらないのを見ていると、言っておいた方が良い気がした。
一瞬間が空いた時に声をかける。
「こんばんは」
アマネが驚いて振り返った。
「うわ、びっくりした」
「練習中に驚かせてごめん。今日手合わせしてみて気になったことがあったんで言っとこうと思って」
剣を下ろしたアマネが神妙な表情でこちらを見る。
「実戦の時は、剣を使う動作の前に構えがちょっと上がるからそこを攻撃したんだけど、素振り見てたらちゃんとガードできてるし、もしかしたら無意識に顔と頭を庇いたくなるのかなと思って」
きっとウキグモもそれには気づいていたのだろう。だから今日、急に指名して練習相手にしたのかもしれない。
それにしても、と思う。
左手は、親指に引っ掛けるようにして、手首から肘まで包帯が巻いてある。これでは剣も握りにくいし、痛みでいつものようには練習ができないだろう。
「今日ぐらいは休まなきゃ」
言うと、アマネは照れたように笑った。
「カスミにもそう言われたんだけど、一日サボると1日分弱くなる気がしてじっとしてられなくて」
「休む必要がある時は休むのも、強くなる秘訣だけどね」
若者は未来だ。最後まで立っていてもらうことに意味がある。
「それに、君の1日分の弱さくらいなら、今なら私たちがなんとかできるから」
そして私たちができることは、そのサポートをするぐらいしかない。
初めて会った時の年齢のイメージが強くて、あれからもう15年も経つのにずっと少年だと思っていた。けれど今日訓練している姿を見ながら、ああ、もう青年なんだと、フィルムが差し代わるような気がしたのだ。
来年は、自分がヴァサラ軍に入った年齢と同じ20歳になる。
一人の大人として話をしてみたいと思った。
「この先どうするか、何か考えてる?」
窓から漏れる柔らかい灯りが、カスミからもらったというペンダントに映っている。
「このまま自警団の団員を続けてもいいなとも思ってたんだけど…。ヴァサラ軍に入隊しようかと思ってる」
今アマネは複数のバイトを掛け持ちして生活を支えている。軍に入れば衣食住と給料は保証されるので生活は楽になるだろう。危険なことは増えるが、アマネぐらいの力があればやっていけるはずだ。
「入隊前に極みが発動したのは良かったね。ヴァサラ軍だと極み持ちは副隊長や隊長の地位も狙えるし」
「極みなあ。いつか自由に使えるようになるのかな」
「アマネならすぐに使えるようになると思うけど。そうだね…」
極みを自由に使うためには、自在にゾーンに入れるようにならなければいけない。ゾーンに入るポイントは、ジャンニの場合は気になることをなくしておくことだ。
「私の場合は、今してること以外は遮断する感じかな。もちろん五感はあるんだけど感覚で感じるだけで、頭で考えないようにするというか」
その時ターゲットとして攻撃目標がカチリとハマり、「今ここを攻撃しろ」という的が明るく見える。
しかしこれはだいぶ主観的な話で、聞いているアマネもちょっと難しそうな顔になっていた。なので簡単にできそうな具体的な方法を伝えることにする。
「気になることを無くすという意味では、すごく下らないことでも紙に書いておくというのは意外と効果があるよ。頭の中から紙上に捨てられる感じがするからね」
アマネの表情が緩み、少し笑った。
「それはすぐできそうでいいな。メモ書いておくこと自体大事だしね」
極みを使うと何が起こるかは使ってみなければわからない。ちょっと博打のようなものでもあるし、体に負担がかかることでもある。
だから努力家であるアマネに、一人の人生の先輩として、絶対に言っておかなければならないことがあった。
「でも無理をしたらダメだよ。守るものがあるなら、できるだけ長期間、ずっと守り続けることが一番大事だと思うから」
妹を守る為なら何だってすると、アマネは昔から守る力を欲しがっていた。
1人を本当に守る力なら、おそらく万人を守る力になるだろう。
でもそれは、誰よりも強いこととはまた違うもののような気がするのだ。
ふっと、アマネに聞いてみたくなった。
「アマネにとって、守るとはどういうこと?」
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