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花調酔之奏(はなしらべよいのかなで)〜花酔譚

 ウキグモさんのために、できそうなことを探っていた二人のお話。
こちら、夕月さんのお話の幕間になります✨

夕月様のお話はこちら→ウキグモ外伝⑥―守る力と小さな命―


幕間其の六〜ウキグモ外伝⑥―守る力と小さな命―

 木陰に腰を下ろし、積み重ねた本を一冊、また一冊と手に取って読み進めていくメイネの手元に、更に影が重なった。
「ちょおけてくれへんかなぁ。ちょうど太陽が隠れる位置やわ」
斜めに見上げた場所にはハナヨイが立っていた。
メイネの読んでいた本を取り上げて言う。
「そんなモン読んでも意味ねぇよ」
読んでいのは全部、薬や薬草関係の本だ。ヨロズの持ち物だった。
「借り物やで。雑にせんとってや」
けえけえせ。もう全部けえしちめぇ!」
乱暴に本を投げ返したハナヨイは、隣にドサっと座った。

 ウキグモの話を聞いた後、二人は密かに業務時間外に動いていた。
 役に立つことがあればと、メイネは本を読みハナヨイは街に出て、薬草や情報を探す。だが、これぞというものは見つからなかった。
 そうこうしている内に、さっきウキグモと行き合って聞いたのだ。
「コハルは死んだ。ウキグモはやんなきゃなんねぇ仕事だけ片付けて、終わり次第サルビアの街へ行くってよ」
チッと舌打ちをすると続けた。
「…あいつ、いつもと変わんねぇ顔で淡々と仕事しやがってよ。ちったぁ弱音ぐれぇ吐いてくれねぇと、こっちも何の言いようもねぇじゃぁねえか。あぁそうかって業務連絡みてぇな返事しちまった。俺ゃ何だ?ちんちくりんの唐変木とうへんぼくか?」
「…頭でも撫でよか?」
「何だよメイネ。その通りだって言いてぇのかい?」
メイネは持っていた本を山の一番上に置くと、静かに言った。
「『調べ物も探し物も間に合わなかった。仕事を変わってやることもできない。その上、気のきいた言葉もかけられないなんて、俺らはあいつのために何の役に立てるんだ』…ちゅう翻訳でええかな?」
「…『俺ら』にしねぇでも良いけどな」
 ため息をつき、メイネが呟く。
「…まぁ、『俺ら』やわな」
ハナヨイはフッと笑った。
「何だ。メイネおぇ、そんな生っちれぇ顔で、意外とショック受けてんのかよ」
「顔の色は関係ないやろ。それ言うなら『冷静な顔で』とかやないんか」
「ホントにお前さんは、ちゃちゃっとうめぇ言葉に直すもんだ。感心するよ」
ハナヨイは呆れたように言う。

 無力感を感じているのは同じでも、メイネはハナヨイのように、それをあっけらかんと口にしたりはしない。だから翻訳と言いつつもメイネは、ハナヨイの言葉に自分の気持ちも重ねたのだ。
「たくさん集めた情報は役に立たんかった。しゃあないわ」 
積み重ねた本に目をやってから、ハナヨイを見る。
「…だな。ウキグモやコハルの役にゃ立たなかったが、まだ『無駄』にゃなっちゃぁいねぇ」 
「無駄になる前に、集めた情報を六番隊の隊長はん達にも共有せんとな」

 少しの無言の時間があり、おもむろにハナヨイが言った。
「…ウキグモが帰って来たら飲みにでも誘うか」
「どないな誘い文句があるんやっちゅうねん。『コハルも死んだみてぇだし、飲みにでも行くかい』?…空気読めへんにも程があるやろ」
やたらと口真似が上手いメイネに、ハナヨイはニヤッと笑う。
「そこはそれ、言葉のうめーえメイネ先生が考えてくれるんだろ?」
さっきの会話を布石にするとは姑息こそくな…とハナヨイを見たメイネは、大事なことを聞き忘れていたことに気づいた。

「そういえば、お腹にいたお子さんはどうなったん?」
「どうなったんだろうな」
普通に返されたメイネは呆れ返り、
「…ホンットに、アンタはちんちくりんの唐変木やな!」
飲み会を丸投げされたイライラをぶつけ本を抱えると、一人さっさと六番隊へ向かったのだった。


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