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⑫ソラ
年齢:不明。人型の見た目は15〜18歳。
性別:中性
所属:(元)0番隊副隊長、幽霊隊員、情報屋
極み:氷の極み、願の極み
仲のいい隊員:いっぱい
刀;妖刀 骸(普段は首輪。口が悪い。短弓・狩弓・長弓にもなる)
九尾猫 覚?の混血だが猫だとごまかしていて、実際に猫になることもできる。弓師で軍部最古参勢。とても長生きで歳を取らない。神出鬼没な特殊野郎。ちょっと嘘つきな所もある。
記憶を保ったまま何度も生まれ変わっている。そのため自分の命を軽視しがち。自分の命と引き換えに人の願いを叶えることができる。色々な世界に行け、顔見知りの居場所なら100%わかる能力を持つ。猫の時はとても表情豊か。お礼で、溶けない氷でできた青い薔薇をくれたりする。
甘いもの辛いもの酸っぱいものが大好き。お菓子全般何でもと、担々麺や辛いもの、檸檬等も食べる。フルーツタルト、蜂蜜酒、わかめスープも好き。
稀に共存するifにヨルと夜空がいる。相棒は七福。
(@ユエ猫様)
アカルイソラ
ここは初めてだな。
ジャンニは自分の周りに広がる幻想的な風景を見た。
空は青く明るいのに大きな月と様々な色の星が綺麗で、蝶や花が舞い飛び、透けて見える程薄い花びらを持つ花が咲き乱れている。
その花が咲いている、雲が半ば溶けて水になったような地面は、寝転がる体を何一つ違和感なくトロリと包み込んでいた。
至る所で小さな光が規則的に、優しく光っては落ちて行く。微かな鈴の音やガラスが触れ合うような音がそこここから聞こえる。星が降って来ているらしい。
昔母国で良く買っていたフルーツのような、爽やかさに少し甘さが混じる懐かしい香りが漂っているのは、花の香りだろうか。
このまま眠ってしまいたい。
その心の声のままに、花を掻き分けて体がゆっくりと沈み、それを追うように花が閉じてゆく。音が消え、目の前を覆う透明な花びらを通して大きな雲が見えた。寝転がるニコニコの猫。私はこの子を知っている。この子は
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「ソラ?」
逆再生のように、花を割り体が引き上がり元の空間に戻る。手を引いているのは人型のソラだ。
「びっくりしたよ。来たら下にいるんだもん」
ちょっと高めの少年の声と、可愛いというより美しいと言った方が良いような妖艶で中性的な容姿だ。地面に引くほどの黒髪を高くまとめている。
「久しぶりだね。ソラの人型を見るのも」
よいしょっと、そこは少年らしい動きで体を投げ出すように腰を下ろすと、いつもの黒猫の姿になった。
それを普段するように、あぐらの膝に抱き上げる。
「どうやら私は死ななくてすんだようだね。死んでいたらこんなにキレイな場所には来られないよ。ここはどこだい?」
ゴロゴロと喉を鳴らしていたソラが答える。
「僕の部屋だよ。ほっとくと地獄の門に入りそうだったから連れて来たんだ」
「あの長いトンネルの中から良く見つけたね」
「顔見知がいる場所は100%わかるからね」
そう答える声は、やれやれ世話が焼けるなぁと、少し嬉しそうにも聞こえる。
「ありがとう。あそこから1人で戻ってくるのには結構意志の力がいるからね。毎回疲れるんだよ」
お腹を見せるように転がったソラが「連れて来るのも疲れたよ」とあくびをする。
今回は確かに、ソラがいなかったら引きずり込まれていたかもしれない。
ちょっとだけ、あの中はどんな世界なのだろうと興味を持ってしまったのだ。意外と住みやすい良い世界かもしれないなと。
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クライソラ
光が掻き消えた。
月が夜空に滲み出ているようだ。僅かな光しか通さない暗い雲が周囲を取り囲んでいる。花も蝶もガラスボールに入れられて吊るされ、地は入るものを拒むようにゼリー状の海になった。数匹の蝶と一匹の鳥以外は星も、鳥も、魚も、その海の中にある。
何の音も香りない。
ここでは全てが閉じ込められている。
「これも君の部屋かい?」
そうだよ、とソラは答えた。
温かく柔らかかった猫の姿から人型になり、片目を隠した髪型で闇に紛れるように向かい側に座っている。
そう。これも君だったね。
時々聞こえて来る声がある。
その声にどうしようもなく引き寄せられるのは自分がカウンセラーだからじゃない。それは、自分の声でもあるからだ。
そうだね。
皆と並んで進めないね。時々立ち止まって距離をとってしまうよね。
自分の心は泣かせておけばいいと思うよね。
こんな自分の命が誰かの役に立つのなら何回でも捨てるよね。
わかるよ、ソラ。
私も一緒だから。
捨て子だったという事実が時折迫ってくる。
皆は優しい。向かい合い、話し、友人だとさえ言ってくれる。
生まれた時からいらない物であった人間には応えられる対価など何もないのに、欲しかった私は持ってしまった。
時々無性に怖くなり、自分を壊して全部を終わらせたくなる。
壊す必要があるのは自分じゃない。
皆いつかは離れて行きいなくなるなどという、染み付いた失礼な諦観だ。でも、それは余りにも自分と一体であり過ぎて、壊すには今はまだ自分を壊すしか方法がない。
「でもね、こんな気持ちは殺し続けなければいけないんだ。そして私は死ぬまでそうすると思う」
これは子どもっぽい感傷だ。守るべき家族がいて仕事があり、現実は毎秒の判断を突きつける。自分の存在への拭えない違和感なんてものは、そこに差し挟むべき事じゃない。
仕方ないじゃないか。
私は生きているし生き続けることを選んだし、そうである以上は何とかして選択を正解にしなければならないのだから。
そう。
そうしなければならないのだ。
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部屋に光と音と香りが戻った。
目の前には、最初に見た人型のソラがいる。
「お帰り」と思わず言ってしまった。今ここにいたソラとは全く別人のようだ。
「ただいま」という笑顔は、少し前の自分のことを覚えているとも覚えていないともつかなかった。
ゆっくり話をする感じなのだろうか。目の前の空間からポンと、グラスと酒瓶が弾き出た。甘いものなら酒もいけたのかと、新たな側面を見つけた気がして話しかける。
「蜂蜜酒なんて珍しいね。教会にいる頃は時々飲んでたよ」
人型のソラは15歳から18歳くらいだが、青年というよりは少年っぽさが残る。美味しそうにチビチビと酒を飲む姿に罪悪感を感じないでもないが、実際はジャンニなんかの何倍も生きている人生の先輩だ。
「知ってるよ。知り合ってから、昔の姿を見に行けたことが何回かあったんだ。なんかね、たくましい女の子みたいで面白かった」
そういえば教会には猫に餌をやっている牧師が何人もいた。集まっている猫達の中に紛れ、ソラもいたのかもしれない。
「そうかもね。自分で切るから髪が長めのことも多かったし、昔から大きかったから。4〜5歳くらい年上の女性に見られることはよくあったよ」
言って、ふと聞いてみた。
「…先生はいたかい?」
「うん。一緒にキックボクシングの練習してたね」
そっか。
答えながら、じわっと複雑な気持ちが滲み出てくる。その苦い味を飲み下した。
後を継げる人間であれば誰でも良い所にたまたま当てはまっただけだから、自分の価値はこの物理的な体そのものだと、特に悲しくもなく淡々と思っていた当時。唯一、ジャンニ自身が持つものに価値を見出してくれた人。
けれど、最後にひどく裏切られた気持ちにさせた人だ。
「違うよ」
と、ポツリとソラが言った。
「あの人も覚えてないけどさ」
「あの人のことはもういいよ」
ジャンニは呟いた。
先生は親のように愛してくれているんじゃないかと思い上がってしまっていた。
だから、自分が頑張っている姿を見せていれば、元の生活には戻らず生きて行ってくれると勘違いしていたのだ。
死因が麻薬の過剰摂取だと知った時に、自分を立たせている何か大きな芯のようなものが、冷たく鋭い針で突き壊されたような気がした。
結局、先生にとってさえも、自分はその程度の価値だったということだ。
「ごめん。言葉がキツくなっちゃったね」
大丈夫。とソラが言った。
「でも、押し殺したり、仕方なくだったり、しなければならないじゃなくてさ。乗り越えなければ進めないと思うよ。次はもう、そこまで来てるのに」
今まで、誰にも言えないことを、ソラだけには話して来た。
そこには感謝や喜びや楽しさや嬉しさもあったが、不安も怯えも辛さも苦しさもあって、それはいつでも同じようなことだった。
自分の成長しなさに呆れる。
持っているものは無くならないと信じているより、最後にはなくなると思っていた方が楽だから。
1人で生きて死んでゆける方法をずっと考えていたのは、淋しさを感じないように、自分を庇うためなのだから。
「ごめんね、ソラ。君の言葉であっても、私は今、これ以上は聞けないんだ。いつかできるようになるまで一緒にいて欲しいというのは勝手すぎるかな?」
→⑬月