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第二十五話

 「恋人に推しの1人ぐらいいてもいいだろ」
星陽と千聖が医療関係者用テントに残ったため、2人だけで空知たちのところへ向かいながら満月は言う。
「そりゃいいよ。あいつに星陽盗られるとも思わないし。けど、俺といるのに俺じゃない相手の方に気ぃ取られてるの普通にムカつく。後、あの男自体、頭からつま先まで気に入らない」
「ガキかよ」
満月が応じてちょっとして、弥幸は不意に言葉を続けた。
「あいつにだけこんなに腹立つ理由は、自分でもわかっちゃいるよ」
投げ捨てるように言う。
「あいつ俺とは全然違うタイプだし、誰が見たって俺なんかより星陽の隣が似合うだろ。でもこれは重ねて来た時間の違いで、今更どうにもできないんだよ。だからだろうな。何とも思ってなかった自分の今までを後悔させられる」
そう人に話せるお前は強いよと肩でも叩きたくなった満月だったが、その前にブルーシートまで着いてしまった。

 異様に大きいブルーシートの上に低い折りたたみの長机が2つ、長辺を付けて置いてある。これだけなら用意がいいなという感じだが、その上に広げてあるお重が只事じゃない。
 伊勢海老の頭が飾ってある豪華な和風、立体的な飾り切りが芸術的な中華風、絵画のようなテリーヌと金箔がかかったゼリー寄せが印象的な洋風。これがおかずの三段で、四段目は色鮮やかな手鞠ずし、五段目はデザートのようだ。さまざまなひとくちケーキと、パステルカラーの餡が生クリームのように載った団子が、幾何学的に区切られたいくつかの区画に色バランス良く入れられている。そのお重が2セットあった。
「母親手作りの運動会お重みたいな?あれにしようと思ってたんだけど、つい手癖でパーティ料理になっちゃったかな」
と、愛和は何やらバスケットのようなものからブランド物の陶器の皿やマグカップを出している。
 手癖バグりすぎだろ。
満月と無言でお重を見下ろしていると、推しと話せてどことなくキャッキャしている星陽と千聖がやって来る。その後ろから、「ちっス」と一緒にやって来た天音が顔を出し会釈した。
 何となく皆の席が決まった頃、ピンク髪が久重を連れて通りすがり風にやって来た。が、お重を見ると驚きと喜びの表情で、後ろの久重は天音を見たことで固まってしまっている。弥幸と星陽が目力を込めた視線を送っていると、ピンク髪ははたと気づいたようだ。
「あー。そう言えば弁当持ってくるの忘れちゃったー。うっかりしてたなー」
甚だしく棒読みで言った。
 ダイコンか!!
だが色々と無理がありすぎるそのセリフも、天音に気を取られている久重には気づかれずにすんだ。
「よろしければ、ご一緒にいかがですか?張り切って作りすぎたもので、ちょっと私どもも困ってたんです」
と、こちらはさすがのサービス業で、自然な口調で愛和が誘った。


 「皆で一緒の弁当を突ついていたら、自然と会話も生まれ2人の距離感も近くなるだろう」
という非常に安易な作戦だが、効果はそれなりにあったようだ。
 お誕生日席に空知と愛和、人当たりが良い空知の横に天音と久重、睡陽。緩衝材としての千聖を睡陽の横に。千聖と向かい合う場所には満月が座っているので、星陽と弥幸は、ちょうど天音と久重の向かい辺りになる。
 それぞれが食べる姿を見ていて目が合ったら互いにニコニコする、くらいの2人だったが、途中で愛和が、天音が取ったおかずを久重にも勧めた。その時に言葉を交わしたのをきっかけに、2人は談笑しながら食事をするようになって来た。
 その横でお茶を飲みながらクダを巻く、悲しみの睡陽の話をうんうんと聞いていた千聖は睡陽と仲良くなったようだ。いつしかカップリングの話になり睡陽は生き生きし出し、それを千聖は目を輝かしながら聞いている。千聖に巻き込まれた満月と3人でBL話をし出したのに星陽がちょくちょく参加している和気藹々とした中、昼休憩終わりと次の競技の放送がかかった。

 何か役割があるらしい満月が立ち上がり、気づいた千聖が立ち上がる。何やら千聖と約束があるらしい睡陽が立ちあがろうとしたが、足が痺れているらしい。千聖が手を引いて笑いながら立ち上がらせた。午後イチの競技が部活動対抗リレーの星陽も立ち上がり、当然のように弥幸に手を伸ばして来る。
「ほら。お前も一緒に来ないと見れねーぞ」
 こいつの中では俺が絶対に応援に行くことになってんのか。
思うと笑えてきて、その手をとって立ち上がった。
 最後に、ちょっと決心をしたような表情で天音が立ち上がる。赤くなりながら久重に手を差し伸べると、久重は両手でギュッと掴んだ。立った2人はお互いを見て微笑み合うと靴を履き、手を繋いだまま走り去った。

 その全部を、空知と愛和は座ったまま見届けた。
 机を片付けるために立ちあがろうとした空知を、愛和はちょっと袖を引いて止める。空知の片膝をポンポンと叩くので足を伸ばして座った。これは膝枕をしろという合図だ。
「俺頑張っただろ」
「うん、頑張った」
答えると、膝枕で横になりながら愛和が言う。
「褒めて」
「良くやったよ」
それを聞いて満面の笑みになった愛和はゴロンと転がり、空知の腰に抱きついた。
「あー。これでやっと安心して寝れる」
その髪を整えるように撫でていると、すぐに寝息をたて出した。
空知はカバンからカメラを出し、無事に仕事を終えた恋人をそっと撮った。


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第二十六話〜弥幸✖️星陽

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